PR

スピロヘータと犬のレプトスピラ症予防と治療

スピロヘータと犬の関係

犬のレプトスピラ症の基本
🦠

病原体

レプトスピラというスピロヘータ(らせん状細菌)が原因

💧

感染経路

主にネズミなどの尿で汚染された水や土壌から感染

⚠️

特徴

人獣共通感染症で、4類感染症に指定されている重要疾患

スピロヘータによるレプトスピラ症の特徴と感染経路

スピロヘータとは、特徴的ならせん状の形態を持つ細菌の一群です。犬に感染するスピロヘータの中で最も重要なのが「レプトスピラ」と呼ばれる細菌です。レプトスピラはグラム陰性菌であり、顕微鏡下でそのらせん形状を観察することができます。

レプトスピラ・インテロガンスという種類のスピロヘータは、抗原構造や凝集反応による分類により200種類以上の血清型が存在することが知られています。日本国内に常在している主な血清型は以下の6種類です。

  • レプトスピラ・イクテロヘモラジー(出血横断型)
  • レプトスピラ・カニコーラ(犬疫型)
  • レプトスピラ・オータムナリス(秋疫A)
  • レプトスピラ・ヘブドマディス(秋疫B)
  • レプトスピラ・オーストラリス(秋疫C)
  • レプトスピラ・ピオジェネス

感染経路としては、主にネズミなどのげっ歯類の尿で汚染された水や土壌からの感染が一般的です。ネズミは保菌率が高く、生涯にわたって尿中に菌体を排出し続けるため、水(河川や池)や土壌(山や森林)が長期間汚染源となります。

犬は以下のような経路で感染することがあります。

  • 経創傷感染:傷口から菌が侵入
  • 交尾に伴う感染
  • 経胎盤感染
  • 経粘膜感染
  • 経口感染(汚染された水を飲むなど)

特に注意が必要な環境として、用水路や川辺での散歩、山や川へのレジャー、野生動物やネズミが頻繁に出現する場所などが挙げられます。また、レプトスピラ症人獣共通感染症であるため、犬から人へ感染する可能性もあることを認識することが重要です。

犬のレプトスピラ症の症状と診断方法

レプトスピラ感染症の症状は、感染の程度や経過によって大きく3つの段階に分けられます。

【甚急性の症状】

  • 元気消失
  • 食欲不振
  • 発熱(39.5~41℃)
  • 知覚過敏
  • 呼吸速迫(呼吸が速くなる)
  • 嘔吐
  • 貧血による可視粘膜蒼白
  • 頻脈

重症例では播種性血管内凝固(DIC)を発症し、皮膚の点状出血、黒色タール様便(メレナ)、鼻出血などが見られることもあります。

【亜急性の症状】

  • 発熱
  • 元気消失
  • 肝障害(出血傾向、黄疸
  • 腎障害(多飲多尿、乏尿~無尿)

【回復後の症状】

回復した後も、慢性間質性腎炎や慢性肝炎が残り、多飲多尿、体重減少、腹水などの症状が続くことがあります。また、回復した犬でも約1年間は尿中に菌を排出し続け、他の犬やヒトへの感染源となる可能性があります。

診断方法

確定診断には尿や血液からのレプトスピラ菌体の直接検出や、血清中の抗レプトスピラ抗体の検出が必要ですが、一般の動物病院では実施が困難な場合が多いです。そのため、以下の検査を組み合わせて総合的に診断を進めます。

  1. 問診
    • レプトスピラワクチンの接種歴
    • 他の犬との接触
    • 外出の有無(特にキャンプなど、野生のげっ歯類と直接または間接的に接触する機会)
  2. 血液検査
    • 出血および腎不全による貧血や血小板減少
    • 肝病変に伴う肝酵素の上昇
    • 血清総蛋白の低下
    • ビリルビン血症
    • 腎病変による高窒素血症、高クレアチニン、高リン血症、低カルシウム血症
  3. 画像検査
    • 症状の進行具合によって、肝臓および腎臓の腫大が認められる
    • 他の肝不全や腎不全を起こす疾患の除外
  4. 尿検査
    • 尿中のビリルビン検出
    • 赤血球や白血球の検出
    • 尿サンプルからの菌体検出(検体は慎重に取り扱う必要あり)

症状が複数の他の疾患と類似しているため、正確な診断には総合的な判断が必要です。特に汚染された水や土壌への接触歴がある場合は、レプトスピラ症を疑う重要な手がかりとなります。

スピロヘータ感染症の治療と効果的な薬剤

レプトスピラ症の治療は、抗菌薬による直接的な治療と支持療法の組み合わせが基本となります。

抗菌薬治療

犬のレプトスピラ症に対しては、以下の抗菌薬が効果的です。

特に初期段階ではペニシリンGが効果的とされています。重症例ではアンピシリンの静脈内投与が必要になることもあります。軽度から中等度の症例では、ドキシサイクリンの経口投与が推奨されています。

重要な点として、症状が見られなくなっても尿への菌の排出は長期間(約1年)続く可能性があるため、抗菌薬は通常2~4週間続けて投与する必要があります。

支持療法

  1. 輸液療法

    肝不全や腎不全が発現している場合には輸液を行い、状態の改善を図ります。特に腎不全によって尿が作られなくなっている場合には利尿薬も積極的に使用します。

  2. 制吐薬・止瀉薬

    嘔吐や下痢の症状がひどい場合には、これらの薬剤で症状を緩和します。脱水や電解質の不均衡を是正し、感染症と闘う体力を温存するためです。

  3. DICへの対応

    犬レプトスピラ症の末期には、播種性血管内凝固(DIC)と呼ばれる深刻な病態に陥ることがあります。この場合には血栓形成抑制剤の使用や、必要に応じて輸血が行われます。

  4. 肝保護療法

    肝障害が認められる場合には、肝機能を保護するための治療も並行して行われます。

治療上の注意点

抗菌薬治療を開始した直後に一時的に症状が悪化することがあります。これは「Jarisch-Herxheimer反応」と呼ばれ、死滅した菌体から放出される成分によって引き起こされます。発熱や低血圧などのショック症状が現れることがあるため、特に静脈内投与を受けた患者は注意深く観察する必要があります。

予後

レプトスピラ症の予後は、感染の程度と治療の開始時期によって大きく異なります。感染していても症状の出ない不顕性感染や早期に治療を開始した軽症例では予後は比較的良好です。しかし、甚急性症例や重度の多臓器不全、特にDICを発症した場合の予後は不良です。そのため、早期発見と早期治療が非常に重要となります。

人獣共通感染症である点を考慮し、感染した犬の世話をする際は手袋の着用や手洗いの徹底など、適切な衛生管理が必要です。

犬のレプトスピラ症予防ワクチンと効果期間

レプトスピラ症予防には、ワクチン接種が有効な手段の一つです。しかし、レプトスピラワクチンには他のワクチンとは異なるいくつかの特徴があります。

ワクチンの種類と特徴

現在、犬用のレプトスピラワクチンは主に混合ワクチンの形で提供されています。日本では以下のようなワクチンが一般的です。

  1. 5種混合ワクチン:レプトスピラを含まないワクチン
  2. 7種混合ワクチン:2種類のレプトスピラ血清型を含むワクチン

7種混合ワクチンに含まれるレプトスピラの血清型は、主に「レプトスピラ・カニコーラ型」と「レプトスピラ・イクテロヘモラジー型」の2種類です。

重要な制限事項

レプトスピラワクチンについて理解すべき重要な点は以下の通りです。

  • 犬で報告されているすべてのレプトスピラ血清型に対応したワクチンは存在しません。つまり、ワクチンに含まれていない血清型には感染する可能性があります。
  • ワクチンの効果期間は他のワクチンより短いと考えられています。正確な持続期間は明確ではありませんが、一