犬急性膵炎
犬急性膵炎の症状と緊急サイン
犬の急性膵炎は突然発症し、短時間で重篤化する可能性がある深刻な疾患です。飼い主が最も注意すべき初期症状は激しい嘔吐で、何度も繰り返し突然始まることが特徴的です。
主な症状は以下の通りです。
・突然の元気消失と食欲低下
・繰り返す嘔吐(血が混じることもある)
・腹痛による「祈りの姿勢」(前足を伸ばして胸を床につける姿勢)
・下痢(血便を伴う場合もある)
・よだれを垂らす
・震えや虚脱状態
特に注意が必要な緊急サインとして、犬が前足を床に伸ばしてお尻を上げる「祈りの姿勢」があります。これは強い腹痛を示すサインで、膵炎特有の症状として知られています。
重症例では全身性炎症反応症候群(SIRS)を起こし、多臓器不全、腎不全、播種性血管内凝固(DIC)などに進行し、生命に関わる危険性があります。症状が軽微に見えても急速に悪化する可能性があるため、上記の症状が見られた場合は直ちに動物病院を受診することが重要です。
犬急性膵炎の原因とリスク要因
犬の急性膵炎の原因は完全には解明されていませんが、膵臓から分泌される消化酵素が膵臓内で異常に活性化され、膵臓や周囲の臓器を消化してしまう病態として知られています。
主な原因とリスク要因。
・肥満:膵臓に過度な負担をかける主要因
・高脂肪食:脂質代謝に異常を来たす
・過食:膵臓への過度な刺激
・内分泌疾患:副腎皮質機能亢進症、糖尿病、甲状腺機能低下症
・薬物:特定の薬剤による副作用
遺伝的リスクが高い犬種。
・ミニチュア・シュナウザー(脂質代謝異常)
・コッカー・スパニエル
・ヨークシャー・テリア
・その他のテリア種
特にミニチュア・シュナウザーは遺伝的に脂質代謝異常を持ちやすく、高脂血症の発生が多いため膵炎のリスクが他の犬種より高いとされています。また、中高齢犬での発症が多く、雌犬でやや多い傾向があることも報告されています。
興味深いことに、急性膵炎の約95%は特発性(原因不明)であり、明確な誘因がなくても発症する可能性があることを理解しておく必要があります。
犬急性膵炎の診断方法と検査項目
犬の急性膵炎の診断は、血液検査と画像診断を組み合わせて慎重に行われます。確定診断には複数の検査結果を総合的に評価することが重要です。
血液検査による診断。
・膵特異的リパーゼ(cPL/Spec cPL):膵炎診断の最も重要な指標
・白血球数とCRP:炎症反応の評価
・肝酵素(ALT、AST):肝機能への影響確認
・尿素窒素、クレアチニン:腎機能の評価
・血小板数、FDP:DIC(播種性血管内凝固)の確認
ただし、膵特異的リパーゼは肝疾患、腸疾患、腎不全、クッシング症候群でも上昇することがあるため、他の検査項目と合わせた総合判断が必要です。
画像診断。
・レントゲン検査:他の疾患の除外診断に有用
・超音波検査:膵臓の形態的異常を確認
- 膵臓が黒っぽくモヤがかかって見える
- 膵臓周囲が白っぽく境界不明瞭
- コルゲートサイン(膵臓周囲の特徴的な所見)
診断の注意点として、すべての膵炎で膵臓の形態的異常が認められるわけではないため、症状と血液検査結果を重視した診断が行われます。また、重症度評価により治療方針が決定されるため、血液検査による他臓器への影響も詳細に調べられます。
犬急性膵炎の治療法と管理方法
犬の急性膵炎の治療は、入院管理下での対症療法が基本となります。早期の集中治療により重篤化を防ぐことが最重要です。
基本治療法。
・輸液療法:治療の中核となる最重要治療
- 脱水の改善により膵臓への血流を確保
- 最低1週間以上の入院治療
- 重症例では24時間持続点滴
・疼痛管理:強力な鎮痛薬による痛みのコントロール
- 入院専用薬から通院薬まで症状に応じて選択
- 腹痛は膵炎の主要症状のため積極的な鎮痛が必要
・制吐剤:頻繁な嘔吐を抑制
・抗生剤:二次感染の予防目的
・タンパク質分解阻害酵素:膵臓の自己消化抑制
新しい治療選択肢。
近年、急性期膵炎用抗炎症薬「ブレンダ」が利用可能となり、膵炎の初期使用により重症化を防ぐ効果があるとして積極的に使用されています。
重症例での追加治療。
・低分子ヘパリンの投与(DIC予防)
・輸血(重度の貧血や血小板减少時)
食事管理。
嘔吐がない場合は早期に食事を再開し、ささみなどの低脂肪食や療法食を与えます。治療中は膵臓への負担を最小限に抑えるため、厳格な食事制限が行われます。
無治療で放置した場合、短時間で重症化し生命に関わるため、症状を認めたら緊急受診が不可欠です。
犬急性膵炎の予防策と独自の生活管理法
犬の急性膵炎は完全な予防法は確立されていませんが、リスク要因を管理することで発症リスクを大幅に減らすことができます。
基本的な予防策。
・適切な食事管理:決まった時間と量での給餌
・過食の防止:犬は自分で量をコントロールできないため飼い主の管理が重要
・肥満対策:ダイエットフードの活用と体重管理
・高脂肪食の回避:脂肪分の多い食べ物やおやつの制限
・ゴミや残飯への接触防止:誤食による急性発症を予防
独自の予防アプローチ。
従来の予防法に加えて、以下の独自視点での管理法が効果的です。
・ストレス管理:環境変化や過度な運動を避け、規則正しい生活リズムを維持
・水分摂取の促進:常に新鮮な水を用意し、膵臓の血流改善をサポート
・定期的な血液検査:特にリスク犬種では年1-2回の膵特異的リパーゼ検査による早期発見
・消化酵素サプリメント:獣医師指導下での膵臓機能サポート(予防目的)
高リスク犬種への特別管理。
ミニチュア・シュナウザーやテリア種などの高リスク犬種では、より厳格な予防管理が推奨されます:
・月1回の体重測定と記録
・食事日記による摂取カロリーの把握
・専用フィットネスでの適度な運動管理
・年2回の詳細な健康診断
早期発見のポイント。
飼い主が日常的に観察すべき微細な変化として、食事への興味の減退、普段より水を多く飲む、排便の変化などがあります。これらの小さなサインを見逃さないことが、重篤化を防ぐ鍵となります。
予防は治療に勝る最良の方法であり、愛犬の生活習慣を見直すことで健康な膵臓機能を維持できます。