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多発性骨髄腫犬の症状と治療法完全ガイド

多発性骨髄腫犬の基礎知識

多発性骨髄腫の基本構造
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形質細胞の腫瘍化

骨髄内で免疫を司る形質細胞が悪性化し増殖する疾患

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血液のがん

白血病やリンパ腫と並ぶ造血器悪性腫瘍の一種

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発症年齢

8~9歳の中高齢犬に多く、比較的稀な腫瘍(血液腫瘍の8%)

多発性骨髄腫犬の基本的な病態メカニズム

多発性骨髄腫は、骨髄で形質細胞という免疫に関係する細胞が腫瘍化し、異常増殖する悪性疾患です。形質細胞は本来、外部から侵入した病原体を排除するための抗体を産生する重要な免疫細胞ですが、この細胞が悪性化することで様々な全身症状を引き起こします。

犬における多発性骨髄腫の発症率は血液腫瘍全体の約8%と比較的稀な疾患とされており、発症年齢の中央値は8~9歳の中高齢犬に多く見られます。特にジャーマン・シェパードが好発犬種として知られています。

腫瘍化した形質細胞は単クローン性の抗体(M蛋白)を過剰に産生し、血液中のタンパク質濃度を異常に上昇させます。産生される抗体の種類により、IgG型、IgA型、IgM型に分類され、犬では主にIgGまたはIgA産生型が多く見られます。

多発性骨髄腫犬に現れる特徴的な症状

多発性骨髄腫の症状は非特異的なものが多く、初期段階では他の疾患と区別が困難な場合があります。しかし、病態の進行に伴い以下のような特徴的な症状が現れます。

骨病変による症状

  • 跛行や足をかばうような歩行
  • 全身の疼痛、体を痛がる様子
  • 病的骨折(重度の場合)
  • 椎骨の圧迫による不全麻痺や急性麻痺

血液系の異常による症状

  • 貧血によるふらつき
  • 出血傾向、出血が止まりにくい
  • 血小板減少による出血斑

代謝異常による症状

過粘稠度症候群による症状

腫瘍細胞が産生する大量の抗体により血液の粘性が異常に上昇する状態で、以下の症状が見られます:

  • 神経障害(嗜眠、衰弱、歩行障害)
  • 眼底疾患(網膜血管異常、網膜出血、失明)
  • 心機能異常
  • 血圧異常

多発性骨髄腫犬の診断方法と検査項目

多発性骨髄腫の確定診断には、複数の検査結果を総合的に評価する必要があります。診断基準として、以下の4項目のうち2つ以上を満たすことが必要です:

  1. 骨溶解像(X線検査で確認)
  2. 骨髄中の形質細胞増加(骨髄穿刺による確認)
  3. 尿中ベンスジョーンズ蛋白の検出
  4. 血液中の単クローン性蛋白の異常増加

主要な検査項目

検査種類 検査内容 期待される所見
血液検査 一般血球計算、血液生化学 貧血、血小板減少、高グロブリン血症、高カルシウム血症
蛋白電気泳動 血清タンパク質の分析 単クローン性ガンモパシーの検出
X線検査 全身の骨の評価 パンチアウト像、虫食い像
骨髄穿刺 骨髄細胞の顕微鏡観察 形質細胞の異常増殖
尿検査 ベンスジョーンズ蛋白検出 特殊蛋白の検出(約70%は陰性)

診断の難しさとして、初期段階では診断基準を満たすことが困難な場合があり、また約7割の症例でベンスジョーンズ蛋白が検出されないため、総合的な評価が重要となります。

多発性骨髄腫犬の標準治療法と予後

多発性骨髄腫の標準治療はメルファラン・プレドニゾロンプロトコールが第一選択となります。この治療法は効果を証明する報告が存在し、多くの症例で良好な反応を示します。

標準的な化学療法

治療効果の現れ方

  • 骨の疼痛、跛行の改善:治療開始から約1ヶ月
  • 血液検査値の改善:3~6週間程度
  • 溶骨性病変の改善:数ヶ月を要する

予後と生存期間

標準治療を行った場合の生存期間中央値は540日(約18ヶ月)とされています。一方、プレドニゾロン単独治療では生存期間中央値220日と大幅に短縮されるため、適切な化学療法の実施が重要です。

予後不良因子

以下の因子が確認されている場合、予後が悪化する可能性があります:

  • 高カルシウム血症
  • 尿中ベンスジョーンズ蛋白陽性
  • 重度の溶骨性病変

支持療法

抗がん剤治療と並行して、以下の対症療法も重要です:

  • 鎮痛剤による疼痛管理
  • 輸液療法による腎機能サポート
  • ビスホスホネート製剤による骨病変の改善
  • 抗菌薬による感染症予防

多発性骨髄腫犬の革新的治療アプローチと予防の考え方

標準治療に反応しない症例に対して、近年革新的な治療法が検討されています。特に注目されているのは、骨融解の進行を抑制し、腫瘍細胞を直接的に攻撃する新しいアプローチです。

難治性症例への新治療法

  • ゾレドロン酸の点滴静注:骨融解を阻止する目的
  • サリドマイド内服:腫瘍化した形質細胞を破壊
  • デキサメサゾン注射:抗腫瘍効果の増強

この組み合わせ治療により、従来の治療に反応しなかった症例でも症状改善が報告されています。

予防と早期発見への取り組み

多発性骨髄腫は発症メカニズムが完全に解明されていないため、確実な予防法は存在しません。しかし、以下の点に注意することで早期発見が可能です:

注意すべき初期サイン

  • 8歳以降の中高齢犬での原因不明の元気消失
  • 散歩を嫌がる、歩き方の変化
  • 食欲不振が数日続く
  • 水を飲む量の増加
  • 出血しやすい傾向

定期健康診断の重要性

中高齢犬では年2回の血液検査を含む定期健診が推奨されます。血液検査での早期の異常値検出により、症状が顕著になる前の発見が可能になります。

飼い主による日常観察のポイント

多発性骨髄腫は外見では判断できない病気であるため、飼い主の日常的な観察が極めて重要です。「いつもと少し違う」という感覚を大切にし、些細な変化でも早めの受診を心がけることが、愛犬の命を救う鍵となります。