ダックスフンドの病気
ダックスフンドの椎間板ヘルニア症状と治療
椎間板ヘルニアは、ダックスフンドの最も代表的な疾患です。この病気は、背骨と背骨の間にある椎間板が飛び出して脊髄神経が圧迫されることで発症します。ダックスフンドは胴長短足の体型から、全身の軟骨の変性を起こす素因を持っており、これが椎間板ヘルニアの好発犬種となる理由です。
症状は段階的に進行し、初期段階では脊髄神経に椎間板が触れることで痛みが生じたり、軽度の麻痺が現れます。重度になると完全に足が麻痺してしまい、立ち上がることや排泄も自分でできなくなってしまいます。特に「朝は大丈夫だったけれど、仕事から帰ってきたら後ろ足が動かない」など、急に症状が現れることも少なくありません。
治療方法は症状の重さによって異なります。
軽度(グレードが低い場合)。
- ケージでの安静治療
- 内科的治療(副腎皮質ステロイド剤など)
- 幹細胞治療による併用療法
重度の場合。
- 外科手術による椎間板の除去
- 早期治療により回復する可能性が高い
予防対策として重要なポイントは以下の3つです:
- 肥満防止:適正体重をキープし、定期的な体重測定を行う
- 正しい抱っこ方法:背中が弓なりにならないよう、胸とお尻に手を入れて体全体を支える
- 段差運動の制限:階段やソファーの上り下りなど段差運動を控える
ダックスフンドの進行性網膜委縮症と眼疾患
進行性網膜委縮症(PRA)は、ダックスフンドに多い遺伝性の眼疾患です。この病気は網膜が委縮して正常に働かなくなり、最終的に失明に至る深刻な疾患です。
初期症状として以下のサインが見られます:
- 暗い場所を怖がるようになる
- 音に対して過剰な反応を示す
- 夜間の歩行が困難になる
病気が進行すると、日中でも夜間同様に視力低下の症状が現れ、最終的に完全に視力を失います。早い場合は生後2か月までに発症しますが、2歳前後で発症することも多くあります。
治療法については、遺伝が原因であるため完治のための治療法は存在せず、対症療法が中心となります:
- 網膜の血流を改善する点眼薬や内服薬
- レーザー治療による進行抑制
- 将来的な生活環境の整備
その他の眼疾患として、ミニチュアダックスフンドは目が外向きに少し突出しているため、木の枝や草、他の犬の足などに触れて傷つけるリスクがあります。また眼瞼炎やドライアイなども発症しやすい傾向にあります。
予防に関しては、遺伝性疾患のため決定的な予防法は存在しませんが、遺伝子検査により発症の可能性を調べて、早めに今後の対策を立てることが推奨されます。
ダックスフンドのクッシング症候群と内分泌疾患
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は、中高齢の小型犬種に多く、ミニチュアダックスも好発犬種とされています。この疾患は副腎から過剰なステロイドホルモン(コルチゾール)が分泌されることで、様々な症状が現れます。
主な症状は以下の通りです:
- お腹がぽっこり出てくる
- 水を大量に飲むようになる(多飲)
- 排尿量が増加する(多尿)
- 被毛が薄くなる、皮膚が弱くなる
- 食事の量が多いにもかかわらず体重が減る
診断には専門的な検査が必要で、定期的な血液検査や腹部超音波での早期発見が重要です。確定診断にはホルモン検査(ACTH刺激試験など)が必要となります。
治療法としては、内服薬によるホルモン抑制が一般的です。早期発見・早期治療により、症状の改善や進行の抑制が期待できます。
クッシング症候群の特徴として、初期はほとんど症状がみられないため気付きにくく、ある程度進行してから発見されることが多い傾向があります。定期的な健康診断での早期発見が極めて重要です。
ダックスフンドの歯周病と口腔疾患
ダックスフンドは歯石が非常に付きやすい犬種で、早期から歯周病が進行する傾向があります。歯周病は口腔内だけでなく、重度になると心臓や腎臓への悪影響も懸念される全身疾患です。
歯周病の症状は段階的に進行します:
- 初期:歯肉の赤み、軽度の口臭
- 進行期:歯のグラつき、強い口臭
- 重篤期:口腔内に穴が開く、歯の脱落
最悪の場合、歯周病をきっかけに細菌が全身に回り、生命に関わる深刻な病気に発展する可能性も否定できません。
原因は歯垢と歯石の蓄積です。歯石は歯の隙間などに付着した細菌が糖分を餌に増殖し、唾液に含まれるミネラル物質とともに硬くなり石灰化することで形成されます。
治療法。
予防法として最も効果的なのは毎日の歯磨きです。歯垢が石灰化し歯石になってしまうと、家庭での歯磨きでは除去できなくなるため、歯垢の段階での除去が重要です。また、定期的な動物病院での専門的な歯石除去も推奨されます。
ダックスフンドの膝蓋骨脱臼と運動器疾患
膝蓋骨脱臼(パテラ)は、ダックスフンドに多く見られる運動器疾患です。この疾患は後肢にある膝蓋骨(膝の皿)が正常な位置からズレてしまう状態で、小型犬の場合は内側への脱臼(内方脱臼)が多く見られます。
症状の重さはグレード1~4の4段階に分けられ、無自覚な状態から歩くことが困難な状態まで症状の幅が広いのが特徴です。
発症原因。
外傷性。
- 交通事故や高所からの飛び降り
- 転倒などの外傷
先天性。
- 生まれつきの膝関節周囲の筋肉や靭帯の異常
- 幼い頃から発症する場合と成長により発症する場合がある
治療法は症状の程度により異なります。
- 軽度:特別な治療を必要とせず、普段通りの生活が可能
- 重度:手術により膝蓋骨がはまる太ももの骨の溝を深くしたり、靭帯の張り具合を調整する外科的治療
予防対策。
- 体重管理:肥満防止により膝関節への負担を軽減
- 筋肉量の維持:適度な運動により骨を守る筋肉を維持
- 環境整備:滑りやすいフローリングにはカーペットやマットを敷く
特にダックスフンドは体型的特徴から膝関節に負担がかかりやすいため、日常的な予防対策が極めて重要です。定期的な獣医師による検診で早期発見に努めることも大切です。