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抗菌薬と犬の正しい知識と使用方法

抗菌薬と犬の基本知識

抗菌薬治療の基本ポイント
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抗菌薬の種類と特徴

ペニシリン系、セフェム系、フルオロキノロン系など、各系統の特性と適応症を理解

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適切な投与方法

獣医師の指示に従った正確な用量と投与期間の遵守

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耐性菌対策

薬剤感受性検査による適切な薬剤選択と耐性菌の予防


犬に対する抗菌薬治療は、細菌感染症の治療と予防において重要な役割を果たしています。抗菌薬は細菌の増殖を抑制または殺滅する薬剤で、犬の感染症治療には欠かせない治療選択肢です。しかし、適切な使用方法を理解していないと、愛犬の健康に逆効果をもたらす可能性があります。
抗菌薬は大きく分けてペニシリン系、セフェム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系などの系統に分類されます。各系統は作用機序や効果のある細菌の種類が異なるため、感染している細菌に応じて適切な薬剤を選択することが重要です。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/25/2/25_40/_pdf/-char/ja

動物用抗菌薬は経口薬と外用薬の両方が利用可能で、症状や感染部位に応じて使い分けられています。獣医師は犬の状態、感染の種類、重症度を総合的に判断して最適な抗菌薬を処方します。

参考)https://www.maff.go.jp/nval/yakuzai/pdf/202311_koukiyaku_inuneko.pdf

抗菌薬の主要系統と犬への適応症

ペニシリン系抗菌薬は、犬や猫の一般的な細菌感染に広く使用される薬剤です。代表的な薬剤にはアモキシシリンやアンピシリンがあり、グラム陽性菌に対して特に高い効果を示します。しかし、眼の感染に対しては組織移行性の問題から効果が限定的な場合があります。
セフェム系抗菌薬は世代によって特徴が異なります。第一世代のセファレキシンは犬の表在性膿皮症の第一選択薬として使用され、グラム陽性球菌に対して優れた効果を発揮します。一方、第三世代のセフトリアキソンはグラム陰性菌への活性が強く、より重篤な感染症に使用されます。
フルオロキノロン系抗菌薬は広い抗菌スペクトルを持ち、多くの細菌感染症に効果的です。しかし、軟骨形成に影響を与える可能性があるため、特に大型犬種の若齢犬では注意深い使用が必要です。

参考)抗生物質・抗菌薬商品一覧-わんにゃん薬局

抗菌薬投与が必要な犬の感染症

犬に抗菌薬が処方される主な感染症として、細菌性皮膚炎(膿皮症)、膀胱炎歯周病、傷口感染、呼吸器感染症があります。これらの感染症は細菌が原因で起こるため、抗菌薬による治療が必要不可欠です。
膿皮症は犬で最も頻繁に見られる細菌感染症の一つで、ブドウ球菌が主な原因菌となります。症状には赤み、かゆみ、フケ、円形のかさぶた、膿疱、表皮小環などがあり、適切な抗菌薬治療により症状の改善が期待できます。

参考)犬の皮膚トラブルと薬剤耐性菌の関係|薬剤耐性菌のリスクと対策…

膀胱炎では大腸菌が約3分の1を占める主要な原因菌となっており、尿路感染症の治療には感受性のある抗菌薬の選択が重要です。歯周病では歯周ポケットに繁殖した細菌を減らすために抗菌薬が使用されますが、根本的な治療には歯磨き等のデンタルケアも必要です。

参考)イヌとネコの尿路感染症における薬剤耐性菌とその対策

抗菌薬投与時の犬への副作用リスク

抗菌薬投与時に最も多く見られる副作用は消化器症状で、下痢、嘔吐、食欲不振が代表的です。これは抗菌薬が腸内の善玉菌のバランスを崩すことで生じることが多く、元気がなくなったり流涎(よだれ)が多くなる犬もいます。
軽度の消化器症状は一般的で、多くの場合は治療を継続しながら症状を観察します。しかし、重篤な副作用として顔の腫れ、じんましん、呼吸困難、重度の元気消失、けいれん、不整脈などのアレルギー反応やアナフィラキシーが現れる場合があります。
アミノグリコシド系抗菌薬は腎臓への毒性があるため、腎機能が低下している犬には慎重に使用する必要があります。また、一部の犬種はMDR1遺伝子変異により副作用に対して特に敏感であることが報告されています。

抗菌薬による犬の薬剤耐性菌問題

薬剤耐性菌は抗菌薬に対して耐性を持つ細菌で、抗菌薬の不適切な使用が主な原因となります。必要以上の長期間投与や必要性が低いケースでの使用により、細菌が薬剤に適応・進化し、耐性を獲得してしまいます。
犬の膿皮症の原因となる細菌のうち、約30〜40%は抗菌薬に耐性を持つブドウ球菌が関与していると報告されています。この多剤耐性菌は従来の抗菌薬が効かないため、治療が長引いたり再発を引き起こす要因となります。
尿路感染症においても耐性菌の問題は深刻で、犬や猫の泌尿器感染から採取された大腸菌の約3分の2がアンピシリンに耐性を示し、約半数がセファゾリンやオルビフロキサシンなどに耐性を示しているというデータがあります。近年はESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生菌も増加しており、ニューキノロン系への耐性率が顕著に高いことが報告されています。

抗菌薬選択における犬の感受性検査の重要性

感受性検査は、どのような抗菌薬が最も効果的かを調べる重要な検査です。この検査により、効かない薬を漫然と使用することなく、的確な抗菌薬を選択できるため、治療効果が高まり早期回復が期待できます。

参考)犬や猫の「感受性試験」は本当に必要?|大切な家族を守るための…

感受性検査が必要とされるケースには、抗菌薬治療を始めてもなかなか改善が見られない場合、重篤な感染症や同じ感染症を繰り返している場合、他院で長期間抗菌薬を使用していた経歴がある場合があります。特に複数の抗菌薬を使用していた犬が転院してきた場合には、すでに薬剤耐性菌が存在している可能性があるため、早急な検査が必要です。
検査の流れは、まず病変部位から採取した細胞を培養して細菌の種類を調べる培養同定検査を行い、その後特定された細菌を抗菌薬が含まれた培地で培養する感受性試験を実施します。検査結果が出るまでに1〜2週間程度かかりますが、治療の精度を高めるうえで非常に重要な検査といえます。

参考)http://www.anicom-sompo.co.jp/doubutsu_pedia/node/1423

現代の獣医療では、エンピリック治療(経験的治療)として広域スペクトルの抗菌薬をまず投与し、薬剤感受性試験の結果に基づいてデフィニティブ治療(標的治療)を決定し、特定された原因菌に感受性をもつ抗菌薬を投与するというアプローチが推奨されています。

参考)ペットの臨床現場でAMR対策の普及啓発を推進