好中球と犬の基本情報
好中球は白血球の一種で、犬の免疫システムにおいて最も重要な細胞の一つです 。顆粒球の主要な成分である好中球は、主に細菌から体を守る細胞として機能します 。健康な犬における好中球の基準値は3,000~11,800/μLとされており 、全白血球数に占める割合は通常30~75%程度を占めます 。
参考)犬の好中球減少症について|元気がない原因は免疫の異常かも?
血液検査における好中球数の測定は、フローサイトメトリー法や電気抵抗法を用いて行われ 、犬の健康状態を把握する上で欠かせない指標となっています。好中球は骨髄で産生され、血液中を循環しながら病原体の侵入に備えています 。
参考)血液学検査:血球分類
犬種や年齢によっても好中球数には若干の違いがあり、個体差も考慮して評価する必要があります 。特に若齢犬では成犬と比較して基準値が異なる場合があるため、年齢を考慮した判断が重要です 。
好中球の犬における正常値と測定方法
犬の好中球正常値は一般的に3,000~11,800/μLとされていますが 、検査機関によって若干の違いがあります。別の基準では3,000~11,500/μL 、または2,700~9,650/μL という範囲も報告されており、使用する測定機器や方法によって基準値に幅があることがわかります。
参考)https://ocean-animal-hospital.jp/cure/data1.pdf
血液検査では、EDTA加血液0.7ml程度の検体を用いて測定が行われます 。冷蔵保存された検体を使用し、フローサイトメトリー法や電気抵抗法によって正確な好中球数が算出されます 。
測定結果の解釈においては、単独の数値だけでなく、他の白血球分画との比率や、犬の臨床症状、品種特性なども総合的に評価する必要があります 。激しい運動後の採血では一時的に好中球が低く出ることもあるため 、採血のタイミングも重要な要素となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3840015/
好中球増加症の犬における原因と症状
好中球増加症は犬において比較的よく見られる異常で、主な原因として細菌感染症、炎症、ストレス、ステロイド反応などがあります 。感染症による好中球増加は最も一般的で、体内に侵入した細菌に対する免疫反応として生じます 。
炎症以外の原因としては、興奮やストレス、ステロイド反応でも好中球の増加が見られるため 、「好中球増加=炎症」と早急に結び付けることは避けるべきです。クッシング症候群では好中球や単球の増加、リンパ球や好酸球の減少が特徴的に見られます 。
参考)【獣医師監修】犬猫の血液検査/血液化学検査における各項目の臓…
極端な好中球増加症(白血球数50,000/μL以上)を伴う腫瘍を持つ犬では、死亡率が56.2%と報告されており 、予後不良と関連する可能性があります。腫瘍随伴症候群として好中球増加が見られることもあり、腫瘍細胞が産生するサイトカインが原因となる場合があります 。
好中球減少症の犬における病態と診断
好中球減少症は犬において深刻な免疫不全状態を引き起こす可能性がある病態です。原因により「産生低下」「破壊の亢進」「分布異常」の3つに大別されます 。産生低下では骨髄での好中球産生に問題が生じ、感染症(パルボウイルス感染症など)、薬剤副作用、栄養不良などが原因となります 。
免疫介在性好中球減少症(IMNP)は比較的若齢の犬で発生することが多く、4歳未満で有意に発症リスクが高いことが示されています 。この病態では、犬の免疫システムが自分の好中球を攻撃してしまうことで好中球数が減少します 。
診断には血液検査での好中球数測定が基本となりますが、ウイルス感染、薬の副作用、栄養不良、先天的な異常などの他の原因を除外することが重要です 。IMNPでは1,000/μL未満の顕著な好中球減少が多く認められ 、ほとんどの場合18日以内に免疫抑制療法に反応して好中球数の回復が認められます 。
遺伝性好中球減少症の犬における特徴
遺伝性好中球減少症(捕捉好中球症候群)は、常染色体劣性遺伝によって発症する疾患で、主にボーダーコリーやコリー犬種で見られます 。この疾患では、骨髄で作られた好中球が血液中に適切に放出されないため、重篤な免疫不全状態となります 。
罹患犬は生後すぐから元気がない、遊ぼうとしない、発育が遅いなどの症状を示し 、通常では軽症で済むような感染症でも重篤化しやすくなります 。グレーコリー症候群とも呼ばれ、灰色の体毛のボーダーコリー犬での報告があります 。
11~13日周期で造血抑制が起こり、全系統の血球が減少しますが、最も寿命が短く、ライフサイクルの早い好中球の減少が最も顕著に確認されます 。多くの場合は生後数週間から7カ月までには発症し、一般的に予後は非常に悪く、殆どの場合は生後4カ月ほどまでに死亡または安楽死が実施されることもあります 。
好中球異常時の犬における治療法と管理
好中球増加症の治療は原因に応じて異なります。細菌感染が原因の場合は適切な抗生物質療法が第一選択となり 、炎症が原因の場合は抗炎症薬の投与が検討されます。ストレスや興奮が原因の場合は、環境改善や鎮静剤の使用も選択肢となります 。
免疫介在性好中球減少症の治療では、免疫抑制量のプレドニゾロンとシクロスポリンの併用療法が効果的とされています 。治療開始後、好中球数は通常14~19日目には回復し始め、3ヶ月後の経過観察でも再発が認められないケースが多く報告されています 。
遺伝性好中球減少症については根本的な治療法は確立されていませんが、副腎皮質ホルモン剤や免疫抑制剤などによる対症療法で効果が見られる場合があります 。予防的な抗生物質投与や、感染症の早期発見・治療が重要な管理方針となります 。
定期的な血液検査によるモニタリングが必要で、特に治療中は好中球数の変化を継続的に追跡し、治療効果の判定や副作用の早期発見に努めることが重要です 。