血栓症と犬の基礎知識と対処法
血栓症の定義と犬における発症メカニズム
血栓症とは、血管内で血液の塊(血栓)が形成され、血流を妨げる病態です 。犬における血栓症は、血管の壁が傷つく病気、血液が固まりやすくなる病気、血液の流れが悪くなる病気の3つの要因が組み合わさることで発症します 。
参考)犬の後肢麻痺|血栓症の診断と内科治療の成功例【症例報告】
血栓症の原因となる主な基礎疾患には以下があります。
- 内分泌疾患:クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)、糖尿病
- 血液疾患:免疫介在性溶血性貧血(IMHA)、播種性血管内凝固症候群(DIC)
- 心臓疾患:僧帽弁閉鎖不全症、拡張型心筋症
- 腫瘍性疾患:悪性腫瘍、血管肉腫
- その他:敗血症、フィラリア症、肝不全、ネフローゼ症候群
これらの疾患は血液の凝固系に異常をもたらし、血栓形成のリスクを高めます 。
血栓症の典型的な症状と見分け方
血栓症の症状は、血栓が詰まる部位によって大きく異なります 。最も一般的な症状は以下の通りです:
参考)【獣医が解説】犬と猫の血栓症|知っておきたい予防法について …
腹大動脈血栓症の場合。
- 突然の後肢麻痺(後ろ足が動かなくなる)
- 激しい痛みによる鳴き声
- 後肢の冷感、肉球の青白い変色
- 股動脈の拍動が触知できない
- 立ち上がれない、よろめき
肺血栓塞栓症の場合。
- 急激な呼吸困難
- ハアハアと浅く速い呼吸
- 舌や歯ぐきの青紫色変化(チアノーゼ)
- 咳や吐くような仕草
- 突然の虚脱、ショック状態
特に注意すべき点として、血栓症は「急に、何の前触れもなく」症状が現れることが特徴的です 。
血栓症の診断方法と必要な検査
血栓症の診断には複数の検査を組み合わせて行います 。
基本的な身体検査。
- 四肢の温感・冷感の確認
- 股動脈圧の触診
- 神経学的検査
血液検査。
- Dダイマー(血栓の指標)
- 血液凝固マーカー(TAT)
- CPK(筋逸脱酵素)
- 一般血液検査
画像診断。
血栓そのものはレントゲンや一般血液検査では見つけにくいため、これらの検査を総合的に判断して診断を確定します 。
血栓症の治療選択肢と内科管理
血栓症の治療は発症からの経過時間と血栓の状態により異なりますが、主に内科的治療が中心となります 。
急性期治療(発症後72時間以内)。
- 血栓溶解療法(t-PA製剤)
- 抗凝固薬(ヘパリン、低分子ヘパリン)の注射
- 疼痛管理(鎮痛剤の投与)
- 酸素療法、点滴治療
- ショック対処
慢性期治療(発症後3日以上経過)。
- 抗凝固薬の経口投与(リバーロキサバン、ワルファリン)
- 抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル)
- 循環改善薬
- 疼痛管理の継続
治療効果としては、犬は猫に比べて血管が太いため、徐々に血流が回復してくることが多く、新たな血栓ができないよう抗血栓薬を服用しながら長期間観察していくことが重要です 。
参考)【犬の全身性血栓塞栓症】突然の痛みと後肢に力が入らなくなった…
柴犬特有の血栓症リスクと予防対策
興味深いことに、柴犬は他の犬種と比較して血栓症の発症リスクが高いことが報告されています 。
柴犬の血栓症の特徴。
- 大動脈血栓症の発症が多い(キャミック社の調査では22症例中8例が柴犬)
- 13~16歳の高齢犬での発症が多い
- 基礎疾患のない特発性の血栓症が多い(8例中5例で基礎疾患なし)
- 激しい疼痛を伴うことが多い
これに対し、柴犬以外の犬種では14例中半数近くの6例がクッシング症候群を基礎疾患として持っていました 。
予防対策。
- 定期的な健康診断の受診(高齢犬では半年に1回推奨)
- 基礎疾患の早期発見・治療
- 適切な体重管理
- リスクのある犬での予防的抗血栓薬の投与検討
血栓症そのものの予防は難しいため、血栓症を引き起こすリスクのある病気の早期発見・早期治療が最も重要です 。
犬の血栓症は突然発症し、重篤な症状を引き起こす可能性がありますが、適切な診断と治療により多くの症例で改善が期待できます。特に柴犬の飼い主は、高齢期における血栓症のリスクを理解し、定期的な健康チェックを心がけることが大切です 。