ケトン体と犬の健康管理について

ケトン体と犬の関係について

ケトン体の基本的な役割と犬の健康への影響

ケトン体は、アセト酢酸、アセトン、β-ヒドロキシ酪酸という3つの物質から構成される代謝産物です 。通常、犬の体内では糖質（ブドウ糖）が主要なエネルギー源として利用されますが、何らかの理由で糖質が利用できない状態になると、体は蓄積された脂肪を分解してエネルギーを得ようとします 。この過程で生成されるのがケトン体です。

参考）イヌの尿にケトン体が出たときの注意点について

正常な状況では、適度な絶食時や運動時に少量のケトン体が産生され、脳や筋肉のエネルギー源として活用されます 。特に脳は、グルコース不足の状態でもケトン体を利用することで機能を維持できるため、生命維持には欠かせない「第2のエネルギー源」としての役割を果たしています 。

参考）【獣医師が解説】ペットの栄養編：テーマ「ケトン食フード」

しかし、ケトン体が異常に増加すると、体内のpHバランスが崩れ、血液が酸性に傾く危険な状態となります 。この状態が続くと、犬の生命に重大な影響を与える可能性があります。

参考）犬の糖尿病性ケトアシドーシスの症状と原因、治療について｜獣医…

犬のケトン体異常の主要な原因疾患

犬においてケトン体が異常に増加する最も一般的な原因は糖尿病、特に糖尿病性ケトアシドーシス（DKA）です 。糖尿病によってインスリンが不足すると、細胞がブドウ糖を正常に利用できなくなり、代わりに脂肪が過剰に分解されてケトン体が大量に産生されます 。
その他の原因として、長期間の飢餓状態や絶食状態が挙げられます 。これらの状況では、食事から得られる糖質が不足するため、体は蓄積された脂肪をエネルギー源として利用せざるを得なくなります。また、急性膵炎や重篤な感染症、クッシング症候群などの内分泌疾患も、ケトン体異常の原因となることがあります 。

参考）症例紹介【糖尿病性ケトアシドーシス】

インスリン治療を受けている糖尿病の犬において、飼い主がインスリン投与を忘れたり、自己判断で中止したりすることも、ケトアシドーシスの重要な誘因となります 。さらに、手術や重度のストレス、併発疾患により、インスリン抵抗性が増加し、ケトン体が蓄積しやすくなる場合もあります 。

糖尿病性ケトアシドーシスの症状と緊急性

糖尿病性ケトアシドーシスは、犬の内科的緊急疾患の一つです 。初期症状としては、多飲多尿、食欲不振、体重減少などの一般的な糖尿病症状から始まりますが、ケトアシドーシスが進行すると急速に全身状態が悪化します 。

参考）糖尿病性ケトアシドーシス – 横浜みどり動物医療センター し…

特徴的な症状として、強い元気消失、ぐったりして動けない状態、嘔吐、下痢などが現れます 。また、速く浅い呼吸（クスマウル呼吸）や、口臭がアセトン臭（甘酸っぱい匂い）になることも重要な兆候です 。重症例では、脱水による皮膚のハリ低下、粘膜の乾燥、さらには意識障害や昏睡状態に陥ることもあります 。
このような症状が見られた場合、一刻も早い動物病院での治療が必要です 。治療が遅れると生命に関わる危険性が高いため、「様子を見る」という判断は避けるべきです。治療は通常、輸液による脱水と電解質異常の補正、インスリン投与による血糖値の慎重な管理、原因疾患の特定と治療が並行して行われます 。

犬のケトン体測定方法と検査の重要性

ケトン体の測定には、主に尿検査と血液検査の2つの方法があります。尿検査では試験紙を使用してケトン体の有無を確認しますが、注意すべき点があります 。尿試験紙では主にアセト酢酸のみが検出され、β-ヒドロキシ酪酸は全く検出されません 。そのため、血液中のケトン体濃度が高くても、尿検査では陰性となる場合があります。
より正確な測定のためには、血液中のβ-ヒドロキシ酪酸を測定する方法が推奨されます 。現在では、人用の血糖測定器を応用した簡易測定器により、動物病院で迅速にケトン体濃度を測定することができます 。血液1滴でパッと測定でき、犬猫で主に蓄積するβ-ヒドロキシ酪酸を手軽に測ることが可能です 。

参考）https://x.com/kanaesato_acvim/status/1701445124369392035

健康な犬では、尿中ケトン体は陰性が正常値とされています 。血液検査においても、通常はケトン体濃度は非常に低い値を示します。定期的な健康診断や、糖尿病の犬では日常管理の一環として、これらの検査を実施することで、異常の早期発見が可能になります 。

参考）犬の尿検査【獣医師解説】

犬のケトン体異常を予防する食事管理と生活習慣

ケトン体異常を予防するための最も重要な対策は、適切な食事管理です。糖尿病を患う犬では、低糖質で高タンパク質の食事が推奨されます 。高炭水化物や糖分の多い食事は血糖値の急激な上昇を招き、インスリン抵抗性を増加させる可能性があります 。

参考）犬と猫の糖尿病と食事管理について

食事のタイミングも重要な要素です。毎日同じ時間に決められた量の食事を与え、インスリン注射とのタイミングを適切に調整することで、血糖値の安定化を図ることができます 。不規則な食事パターンや過食は、血糖コントロールを困難にし、ケトン体産生のリスクを高めます。

肥満の予防と管理も重要です。肥満はインスリン抵抗性を増加させ、糖尿病の発症リスクを高めるため、適正体重の維持が必要です。定期的な運動により代謝機能を改善し、インスリン感受性を向上させることも効果的です。

さらに、併発疾患の早期発見と治療が予防には欠かせません。感染症、歯周病、子宮蓄膿症などの疾患は、糖尿病のコントロールを悪化させ、ケトアシドーシスの引き金となる可能性があります 。

獣医師による専門的な管理とケトン体モニタリング

糖尿病を患う犬のケトン体管理には、獣医師による専門的な監視が不可欠です。インスリン療法を受けている犬では、血糖値の変動パターンを把握し、個体に適したインスリンの種類と投与量を決定する必要があります 。これには、継続的な血糖測定とケトン体モニタリングが重要な役割を果たします。
獣医師は、定期的な血液検査により、血糖値、糖化アルブミン、ケトン体濃度などを総合的に評価し、治療方針を調整します 。特に糖化アルブミンは、2-3週間の平均血糖値を反映するため、長期的な血糖コントロールの評価に有用です 。

参考）14歳の犬が多飲多尿で来院｜検査で分かった糖尿病と治療の流れ…

また、新しい測定技術の導入により、より正確で迅速なケトン体測定が可能になっています。持続血糖測定器（CGM）や簡易ケトン体測定器の活用により、リアルタイムでの代謝状態の把握ができ、早期の異常検出が可能になります。

飼い主教育も獣医師の重要な役割です。インスリン注射の正しい手技、低血糖症状の認識、緊急時の対応方法などを適切に指導することで、家庭でのケトン体異常の予防と早期対応が可能になります。獣医師と飼い主の密接な連携により、犬の生活の質を維持しながら、ケトン体関連の合併症を予防することができます 。

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