去勢手術と犬の健康管理
去勢手術の基本的なメリット
犬の去勢手術には3つの重要なメリットがあります 。まず、望まない妊娠を完全に避けることができるため、責任ある飼育が可能になります 。次に、将来発症する可能性の高い病気を予防できる点が挙げられます。未去勢の中年以降の雄犬では高確率で前立腺肥大が発生し、化膿性前立腺炎や会陰ヘルニアといった致命的な疾患に発展するリスクがあります 。
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さらに、本能的な行動の抑制により、室内での共生が格段に改善されます 。具体的には以下の行動問題が軽減されます:
- マーキング行動の予防または軽減
- 攻撃性の改善(個体差があります)
- 性的興奮による問題行動の減少
- 他の犬とのコミュニケーション改善
これらの効果により、家庭内での生活品質が向上し、散歩中やドッグランでのトラブルも減少する傾向があります 。
去勢手術で予防できる犬の疾患
去勢手術により予防可能な疾患は多岐にわたります 。精巣腫瘍は最も直接的に予防できる疾患で、特に停留睾丸(潜在精巣)の場合、腫瘍化リスクが正常精巣の約13倍に上昇するため、若齢期での摘出が強く推奨されます 。
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前立腺関連疾患では、前立腺肥大、化膿性前立腺炎、会陰ヘルニア、肛門周囲腺腫の予防効果が確認されています 。これらの疾患は未去勢犬において中年期以降に高頻度で発症し、治療費が去勢手術費用の数十倍に及ぶケースも少なくありません 。
その他の予防効果として以下が報告されています。
- 精巣炎の完全予防
- ホルモン依存性の攻撃行動の改善
- 発情期のメス犬に対するストレス軽減
心身の健康を害するストレスや命に関わる疾患の予防により、結果的に犬の寿命延長に寄与する可能性が示唆されています 。
去勢手術の費用と助成制度について
犬の去勢手術費用は地域や動物病院により異なりますが、一般的な相場は15,000〜30,000円程度(小型犬〜中型犬)です 。体重に比例して薬剤や麻酔薬の使用量が増えるため、大型犬では費用が高くなります 。
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術前検査や周辺処置を含めた総費用は以下の通りです。
- 小型犬:30,000〜50,000円
- 大型犬:50,000〜70,000円
多くの自治体で助成制度が設けられており、例えば京都市では市と獣医師会合わせて5,000円の補助、愛知県名古屋市では4,800円の助成が受けられます 。補助金額は地域により異なり、手術費用の一部から最大10,000円まで様々です 。
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申請には以下の条件を満たす必要があります。
- 犬の登録と狂犬病予防注射の実施
- 市税等の完納
- 販売目的でない飼育
- 指定期間内の申請
ペット保険は基本的に適用外ですが、一部の保険会社では去勢手術後の保険料割引制度を設けています 。
去勢手術のリスクと合併症対策
犬の去勢手術には、全身麻酔に伴うリスクと手術特有の合併症が存在します 。若く健康な動物の麻酔関連死亡率は0.05〜0.6%程度とされていますが、適切な管理により大幅にリスクを軽減できます 。
主要な手術合併症として以下が報告されています。
- 術後腹腔内出血(手技または体質による)
- 陰嚢浮腫(一時的な症状)
- 術部感染(極めて稀)
- 総鞘膜からのヘルニア(極めて稀)
最も警戒すべきは術後腹腔内出血で、精巣動脈の確実な結紮技術が重要になります 。まれに先天的な止血機能不全を持つ犬では重篤な貧血を起こす可能性があるため、術前検査での血小板数測定が必須です 。
リスク軽減のための対策。
- 術前検査の徹底実施
- 専門麻酔管理獣医師の配置
- 積極的な疼痛管理
- 最新の手術機器(マイクロ波メスなど)の使用
これらの対策により手術時間の短縮と術後の痛み軽減が可能になり、合併症発生率を大幅に削減できます 。
停留睾丸の犬における特別な配慮
停留睾丸(潜在精巣)を持つ犬では、通常の去勢手術とは異なる特別な配慮が必要です 。停留睾丸は正常に陰嚢内に下降した精巣と比較して腫瘍化リスクが約13倍高いため、若齢期での予防的摘出が強く推奨されます 。
停留睾丸の位置により手術難易度が変わります。
- 鼠径部停留:皮膚切開による比較的簡単な摘出
- 腹腔内停留:開腹手術が必要で手術時間が延長
- 深部腹腔内:摘出が困難な場合もあり
腹腔内停留睾丸の手術では通常より麻酔時間が長くなるため、若い個体であってもリスクが若干上昇します 。出血リスクも高いため、術後の安静期間をより長く設定する必要があります 。
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費用面では、鼠径部停留の場合は通常の去勢手術に5,000〜10,000円程度の追加、腹腔内停留では小型犬で約50,000円(通常手術の約2倍)が目安となります 。摘出が困難な症例では、超音波検査による定期的な腫瘍化チェックという選択肢もありますが、悪性腫瘍化の危険性を考慮すると積極的な摘出が推奨されます 。