マクロファージと犬の免疫システム
マクロファージは犬の免疫システムにおいて中核的な役割を果たす免疫細胞です。この細胞は血液中を流れる単球が組織に移動し、アメーバ状の大型細胞へと分化したもので、異物を認識して取り込む貪食作用と、他の免疫細胞への情報伝達という二つの重要な機能を持っています。
犬においてマクロファージは、侵入した細菌やウイルス、死んだ細胞や異常な細胞を積極的に捕食し、体内環境を清潔に保つ役割を担っています。特に皮膚、肺、肝臓、消化管など各臓器に常駐し、それぞれの場所で特殊化した機能を発揮しています。肺に存在する肺胞マクロファージは吸入した異物や病原体から肺を守り、肝臓のクッパー細胞は血液中の毒素や老廃物を除去しています。
参考)マクロファージとは?特徴や働きを簡単に解説!|北海道科学大学
マクロファージの基本的な働きと犬の健康への影響
犬のマクロファージは、体内に侵入した病原体を発見すると即座に食作用を開始し、細胞表面の受容体を通じて異物を認識します。この認識システムは非常に精密で、正常な細胞と異常な細胞を区別し、必要に応じて適切な免疫反応を起こします。
マクロファージの活動は犬の健康状態に直接的な影響を与えており、これらの細胞が正常に機能していない場合、アレルギー症状や感染症への抵抗力低下が生じる可能性があります。実際に、犬のアトピー性皮膚炎の改善において、マクロファージを活性化するLPS(リポポリサッカライド)の投与により症状の軽減が確認された研究も報告されています。
参考)犬アトピー性皮膚炎の改善(犬)|LPS原料の自然免疫応用技研…
免疫細胞の約70%は腸内細菌によって産生されるため、マクロファージの機能は腸内環境と密接に関連しています。健全な腸内細菌叢を維持することで、マクロファージの活性が保たれ、免疫システム全体の調和が図られます。
マクロファージの分化と犬の病態への関与
犬のマクロファージは環境に応じてM1型とM2型に分化し、それぞれ異なる機能を発揮します。M1型マクロファージは主に炎症促進作用を持ち、病原体の排除や腫瘍細胞の攻撃を行います。一方、M2型マクロファージは抗炎症作用を持ち、組織修復や創傷治癒を促進する役割を担っています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/d72f17a483ef44b9206ad6edfaac24a0a6c18f9c
この分化メカニズムの異常は、犬の様々な疾患に関与していることが明らかになっています。組織球性肉腫と呼ばれるマクロファージ由来の悪性腫瘍は、バーニーズ・マウンテンドッグをはじめとする大型犬に好発し、治療が困難な疾患として知られています。
参考)KAKEN href=”https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15H04590/” target=”_blank”>https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15H04590/amp;mdash; 研究課題をさがす
研究では、組織球性肉腫の治療にマクロファージ特異的タンパク質であるAIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)が有効である可能性が示されており、組換えイヌAIMが組織球性肉腫細胞に対して用量依存的な殺細胞効果を示すことが確認されています。
犬の皮膚疾患におけるマクロファージの役割
犬の皮膚組織球腫は、マクロファージの一種である樹状細胞(ランゲルハンス細胞)が異常増殖することで発生する良性腫瘍です。この疾患は若齢犬に好発し、急激に成長して赤いしこりを形成しますが、多くの場合3ヶ月以内に自然退縮するという特徴があります。
参考)【解説】赤いシコリができた!犬の皮膚組織球腫について – 2…
皮膚組織球腫の発生メカニズムは、表皮マクロファージの仲間であるランゲルハンス細胞が何らかの要因で異常増殖することにあります。これは免疫システムの過剰反応の一種と考えられており、犬の全皮膚腫瘍の3~14%を占める比較的頻度の高い疾患です。
反応性組織球症という疾患では、マクロファージ系の細胞が異常に増殖し、免疫システムの調節異常が原因となっています。治療には免疫抑制量のプレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド薬が使用され、約半数の症例で良好な反応が得られています。
手術侵襲と犬のマクロファージ機能変化
犬における手術侵襲は、マクロファージの免疫機能に大きな影響を与えることが研究で明らかになっています。手術後1~2日目にマクロファージの活性が極度に低下し、これが術後の免疫機能低下につながると報告されています。
この免疫機能低下に対する対策として、インターフェロン-α(rIFN-α)の術前投与が効果的であることが確認されています。rIFN-α投与により、手術後のマクロファージ活性低下が著明に改善され、術後1日目から活性上昇が認められました。
参考)外科的侵襲による犬の細胞性免疫機能低下に対するrIFN-αの…
血精胸腺因子(FTS)も犬のマクロファージ機能向上に有効な物質として研究されており、化学発光法を用いた検討でマクロファージおよび多形核白血球の免疫応答を向上させることが確認されています。これらの研究成果は、周術期の免疫管理において重要な指針を提供しています。
参考)血精胸腺因子(FTS)による犬マクロファージおよび多形核白血…
マクロファージ活性化による犬の健康サポート方法
犬のマクロファージを活性化する方法として、LPS(リポポリサッカライド)やβ-グルカンなどの免疫活性化成分の利用が注目されています。これらの成分は「すべての免疫調整はマクロファージを活性化することから始まる」という理論に基づき、自然免疫の中核を担うマクロファージを直接刺激します。
参考)https://item.rakuten.co.jp/petgo/2015022312008/
パントエア菌由来のLPSを含有したサプリメント「アレルナン」は、犬のアレルギーやアトピーに対する効果が期待されており、マクロファージを活性化させることでアレルギー症状の改善につながるとされています。アレルギーの原因の一つにマクロファージの機能不全があることから、これらの活性化により症状緩和が期待できます。
参考)アレルナン 60粒
アガリクス茸に含まれるβ-グルカンも、犬の免疫細胞を活性化する効果が認められています。β-グルカンはマクロファージを活性化し、感染症への抵抗力向上やアレルギー症状の緩和、腸内環境の改善などの効果が期待されています。特に癌治療のサポートにおいて、NK細胞とマクロファージを直接活性化することで腫瘍細胞の除去に貢献することが知られています。
参考)スーパーオリマックスFAQ Pawte ペットサプリメントシ…
犬の腸内環境を整えることも、マクロファージの機能向上に重要です。腸内細菌叢のバランスを保つことで免疫細胞の約70%が正常に産生され、マクロファージを含む免疫システム全体の機能が向上します。善玉菌、悪玉菌、日和見菌のバランスが取れた腸内環境は、マクロファージの活性化と密接に関連しており、アレルギーなどの免疫異常の改善にも寄与します。