ハウスダストと犬の健康問題
ハウスダストは、室内で飼育される犬にとって深刻な健康問題を引き起こす主要なアレルゲンの一つです 。現在、国内の飼い犬の85%以上が室内で飼育されており、その割合は年々増加しています 。室内環境で生活する犬は、床に近い場所で過ごす時間が長く、毛づくろいの際にハウスダストを舐めてしまうリスクが高くなっています 。
愛媛大学と北海道大学の研究によると、室内で飼われている犬や猫31匹の血液を調査した結果、すべてのサンプルからハウスダストに含まれるPFAS(有機フッ素化合物)が検出されました 。この研究結果は、ハウスダストが単なるほこりではなく、犬の健康に深刻な影響を与える化学物質を含んでいることを示しています。
ハウスダスト犬のアトピー性皮膚炎症状
ハウスダストが原因で発症する犬のアトピー性皮膚炎は、慢性的で重度のかゆみを主症状とする皮膚疾患です 。症状は段階的に進行し、最初にアレルゲンの侵入により免疫応答が起こり、ヒスタミンが放出されてかゆみが誘発されます 。その後、掻きむしりや炎症により皮膚に赤みや小さな盛り上がりが見られ、慢性化すると皮膚の色素沈着や苔癬化(皮膚が厚く硬くなる)が生じます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9204668/
特に注目すべきは、皮膚病変に先立ってかゆみが現れることが特徴的で、耳、脇、股、足先、口や目の周りなどの皮膚の薄い部分に症状が現れやすいとされています 。犬が体をしきりに舐めたり噛んだりする行動が観察され、これにより二次的な細菌感染やマラセチア感染を併発することも多くあります 。
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ハウスダスト犬の呼吸器症状とくしゃみ
ハウスダストアレルギーを持つ犬では、皮膚症状に加えて呼吸器症状も現れることがあります 。主な症状には、透明な鼻水を伴うくしゃみ、鼻詰まり、場合によっては咳や喘鳴(ゼーゼーという音)も見られます 。
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国際的な研究では、室内のハウスダストマイト濃度と犬のアトピー性皮膚炎の重症度には相関関係があることが示されており、室内の相対湿度も症状の悪化要因として重要な役割を果たしています 。特に高温多湿な梅雨時期には症状が悪化しやすく、マラセチア性皮膚炎も同時に発症するケースが多く報告されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9932715/
ハウスダスト犬の品種別リスクと発症年齢
特定の犬種においてハウスダストアレルギーの発症リスクが高いことが知られています。ウエスト・ハイランド・ホワイトテリア、イングリッシュセッター、シーズー、バセットハウンド、アメリカンコッカースパニエル、ボクサー、ダックスフンド、プードル、オーストラリアンシルキーテリアなどが高リスク品種として挙げられています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9754143/
また、ルーマニアの研究では、マルチーズ、フレンチブルドッグ、ゴールデンレトリーバー、ウエスト・ハイランド・ホワイトテリアが特に高い感受性を示すことが報告されています 。発症年齢については、生後6か月から4歳頃の比較的若い年齢での発症が多く、オス犬、室内飼育犬、ドライフードを食べている若い犬でリスクが高いという統計結果も得られています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12030778/
ハウスダスト犬の飼育環境改善による症状軽減
ハウスダストによる犬のアレルギー症状は、飼育環境の改善により大幅に軽減できることが実証されています 。室内の清潔維持が最も重要で、愛犬のお気に入りのカーペットや服の定期的な洗濯、布団や座布団の清潔維持、こまめな部屋の掃除、空気清浄機の利用が効果的です 。
空気清浄機の効果は科学的にも証明されており、「空気清浄機の置いてある場所にいる子が、そうでない子に比べてアレルギーの発症率が低い」という研究結果が報告されています 。特にHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターを搭載した空気清浄機は、0.3マイクロメートルの微粒子を99.97%以上除去でき、ハウスダストやアレルゲン物質の除去に高い効果を発揮します 。
興味深いことに、完全にハウスダストを避けることは困難ですが、屋外飼育に変更することで皮膚症状が軽減するケースも報告されており、室内のハウスダスト濃度を下げることの重要性が裏付けられています 。ただし、屋外飼育は最後の手段とし、まずは室内環境の改善から取り組むことが推奨されています。
ハウスダスト犬のシャンプー療法と皮膚ケア
ハウスダストアレルギーを持つ犬に対するシャンプー療法は、皮膚に付着したアレルゲンを物理的に除去する重要な治療法です 。国際的なガイドラインでは、犬アトピー性皮膚炎におけるシャンプーの頻度を週1回を目安とすることが推奨されています 。
参考)【獣医師が解説】犬のアレルギー症状:その原因と治療、対策法に…
シャンプー選択においては、皮膚バリア機能が低下している状態を考慮し、刺激性の低いアミノ酸系界面活性剤をベースにした保湿成分含有の専用シャンプーを使用することが重要です 。シャンプー後には必ず十分な保湿を行い、皮膚バリア機能の回復を促進する必要があります 。
参考)犬のアレルギーって?治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解…
低刺激シャンプーでも皮膚トラブルが生じる症例では、シャンプーの代わりに炭酸泉入浴を用いて環境アレルゲンを除去する方法も検討されています 。また、ブラッシングは体に付着したアレルゲンや抜け毛を除去するだけでなく、皮膚マッサージ効果もあり、飼い主とのスキンシップによる心理的安定効果も期待できます 。