犬の精巣腫瘍の症状・治療・予防
犬の精巣腫瘍の初期症状と発見法
犬の精巣腫瘍は、初期段階では見つけにくい疾患ですが、飼い主の注意深い観察により早期発見が可能です。
最も分かりやすい初期症状は、精巣の左右差です。正常時は左右の精巣がほぼ同じ大きさですが、腫瘍が発生すると片側が明らかに大きくなったり、硬くなったりします。触診で確認できる変化としては以下があります:
- 精巣のサイズ異常:片側が極端に大きくなる
- 硬さの変化:通常より硬くなる、または柔らかくなる
- 形状の変化:いびつな形になる
停留精巣(潜在精巣)の犬では、そ径部(後ろ足の内側付け根)に大きな塊として触れることがあります。停留精巣は精巣腫瘍の発生リスクが約9倍高いため、特に注意深い観察が必要です。
興味深いのは、間質細胞腫の場合は通常触診できないほど小さく、発見が困難であることです。このため、定期的な健康診断での超音波検査が重要となります。
犬の精巣腫瘍による雌性化症状の詳細
犬の精巣腫瘍の中でも、特にセルトリ細胞腫では特徴的な雌性化症状が現れます。これは腫瘍がエストロゲン(女性ホルモン)を過剰に分泌するためです。
外見的変化として以下の症状が観察されます。
- 対称性脱毛:左右対称に毛が抜ける
- 皮膚の色素沈着:皮膚が黒ずんで見える
- 雌性化乳房:オス犬なのに乳房が発達する
行動的変化も重要な兆候です。
- 性行動の変化:マーキング行動の減少
- 他のオス犬への関心低下
- 雌性的な行動の増加
さらに深刻な内部変化として、骨髄抑制があります。高エストロジェン血症により骨髄の造血機能が低下し、以下の危険な状態を引き起こします:
- 重度の貧血:赤血球数の著しい減少
- 白血球減少:感染症への抵抗力低下
- 血小板減少:出血しやすくなる
これらの症状は放置すると致死的な再生不良性貧血に発展する可能性があり、緊急的な治療が必要です。
犬の精巣腫瘍の転移パターンと進行
犬の精巣腫瘍は種類により転移の傾向が大きく異なります。転移しやすさの順序は以下の通りです:
セルトリ細胞腫が最も転移しやすく、特に腹腔内に停留したセルトリ細胞腫の10~20%がリンパ節、肝臓、肺などに転移します。
転移の典型的な経路は以下の順序です。
- 精巣近傍のリンパ節:最初の転移部位
- 遠隔リンパ節:後腹膜リンパ節など
- 実質臓器:肝臓、肺、腎臓の順
精上皮腫(セミノーマ)は比較的良性ですが、腫瘍内出血により急激に腫大し、痛みを伴って歩行困難を示すことがあります。
間質細胞腫(ライディッヒ細胞腫)は転移することが稀で、最も予後の良い腫瘍タイプです。
転移の早期発見には以下の検査が有効です。
- 胸部X線検査:肺転移の確認
- 腹部超音波検査:肝臓・腎臓転移の検出
- リンパ節触診:近傍リンパ節の腫大確認
転移が確認された場合の予後は腫瘍タイプと転移範囲により大きく異なりますが、早期発見・治療により良好な経過をたどることも多く報告されています。
犬の精巣腫瘍の外科的治療と術後管理
犬の精巣腫瘍の治療は、外科的摘出(去勢手術)が第一選択となります。手術は腫瘍の完全除去と転移予防の両方を目的とします。
手術前の準備では以下の検査が必須です。
- 血液検査:貧血・白血球減少の評価
- 生化学検査:肝臓・腎臓機能の確認
- 画像検査:転移の有無を確認
- 心電図検査:麻酔リスクの評価
手術手技は腫瘍の位置により異なります。
- 陰嚢内精巣:通常の去勢手術と同様の手技
- 停留精巣:腹腔内の場合は開腹手術が必要
- 鼠径部停留精巣:鼠径部切開によるアプローチ
術後管理で重要なポイント。
- 疼痛管理:適切な鎮痛薬の投与
- 感染予防:抗生物質の投与
- 運動制限:10-14日間の安静
- 傷口管理:舐めを防ぐエリザベスカラーの装着
合併症への対応も重要です。
- 重度貧血:輸血による対症療法
- 骨髄抑制:造血促進剤の投与
- 感染症:広域抗生物質による治療
手術成功率は転移のない症例では90%以上と良好で、早期治療により多くの犬が健康を取り戻すことができます。
犬の精巣腫瘍予防における去勢時期の最適化戦略
犬の精巣腫瘍の最も効果的な予防法は、適切な時期の去勢手術です。しかし、去勢時期の選択は犬の体格や品種を考慮した個別対応が重要となります。
小型犬の去勢推奨時期。
- 6-12ヶ月齢:性成熟前の実施が理想的
- メリット:精巣腫瘍リスクの完全排除
- 注意点:成長期のホルモンバランスへの影響を考慮
大型犬の去勢推奨時期。
- 12-18ヶ月齢:骨格成長完了後が望ましい
- 理由:成長ホルモンとの相互作用を考慮
- 個別判断:犬種特性に応じた柔軟な対応
停留精巣犬の特別対応。
停留精巣の犬は精巣腫瘍発生リスクが約9倍高いため、診断確定後すみやかな手術が推奨されます。生後6ヶ月を過ぎても精巣の下降がない場合は、積極的な手術検討が必要です。
予防効果の科学的根拠。
- 未去勢犬:精巣腫瘍発生率 3-5%
- 早期去勢犬:精巣腫瘍発生率 0%
- 予防効果:100%の予防が可能
定期健診による早期発見。
去勢を行わない場合でも、以下の定期チェックが重要です。
- 月1回の自宅触診:精巣サイズの確認
- 年2回の獣医診察:専門的な触診・検査
- 7歳以降の画像検査:超音波による詳細確認
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