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血液の凝固と犬の健康管理のポイント

血液の凝固

犬の血液凝固メカニズム
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一次止血

血管収縮と血小板による血栓形成

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二次止血

凝固因子によるフィブリン血栓の強化

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線溶系

血栓の溶解と血管の修復

血液の凝固メカニズムとその重要性

犬の血液凝固は、出血を止めるための生命維持に欠かせない機能です。このプロセスは三段階に分かれており、まず血管が収縮して出血を少なくし、次に血小板が集まって一次止血を行います。その後、凝固因子が反応し合い、血小板をフィブリンで固めて強固な止血を完成させる二次止血が行われます。

人間と比較すると、犬の凝固機能には特徴的な違いがあります。犬のプロトロンビン時間(PT)と部分トロンボプラスチン時間(aPTT)は人間より短く、より迅速な血液凝固が可能です。一方で、犬の線溶系(血栓を溶かす働き)は人間よりも活発で、血栓の分解能力が高いことが研究で明らかになっています。

血液凝固には10種類以上の凝固因子が関与しており、これらのタンパク質が連続的に反応することで効果的な止血が実現されます。犬では特に第VIII因子欠乏による血友病Aが最も多く見られる遺伝性凝固異常として知られています。

血液の凝固異常による症状の見分け方

血液凝固異常の症状は、どの段階に問題があるかによって大きく異なります。一次止血に問題がある場合、皮膚に点状の小さな出血が散らばって現れる点状出血が特徴的です。これは血管や血小板の異常が原因で起こります。

二次止血に異常がある場合は、より深刻な症状が現れます。紫色の比較的大きな内出血、皮下に血液が固まって大きな塊となる血腫、さらには腹腔内出血などが見られることがあります。このような症状は凝固因子の異常を示唆しており、迅速な治療が必要です。

出血が激しい場合、貧血症状として元気や食欲の低下、粘膜が白っぽくなる様子も現れます。また、鼻出血、血尿、血便、メレナ(黒色便)などの全身的な出血症状も重要なサインです。興味深いことに、血液検査で偶発的に血小板減少が発見される無症状の症例も少なくありません。

血液の凝固検査で分かる病気のサイン

血液凝固検査は、犬の健康状態を把握する重要な診断手段です。主要な検査項目には、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)、フィブリノーゲン濃度、D-ダイマーなどがあります。

免疫介在性血小板減少症は、犬で最も一般的な血小板減少の原因です。この病気では、血小板の膜タンパクに対する自己抗体が産生され、血小板の破壊が進行します。原発性と二次性に分類され、二次性の場合は炎症性疾患や腫瘍性疾患が基礎疾患となることがあります。

フォンビレブランド病は、犬で最も多い遺伝性止血異常疾患です。特にウェルシュコーギーペンブロークでは遺伝子保有率が30%前後、罹患犬が5%前後という高い発症率が報告されています。この疾患は、血管内皮や巨核球で産生されるフォンビレブランド因子の異常が原因です。

腎臓病と血液凝固の関係も注目すべき点です。慢性腎疾患や急性腎障害を患う犬では、凝固異常が併発することが多く、血液検査での継続的な監視が重要です。

血液の凝固に影響する犬の日常生活要因

犬の血液凝固機能は、日常生活の様々な要因によって影響を受けます。酸血症(血液のpHが酸性に傾く状態)は、血液凝固に重大な影響を与えることが最新の研究で明らかになっています。軽度から重度の酸血症により、凝固時間の延長や凝固能力の低下が起こり、出血リスクが高まります。

体温の変化も重要な要因です。発熱や低体温は血液凝固カスケードに影響を与え、凝固因子の活性を変化させます。特に手足の温度差は血栓形成のサインとなることがあり、飼い主による日常的な観察が重要です。

中毒物質への暴露も血液凝固を阻害します。特に殺鼠剤などのワルファリン系薬物は、ビタミンK依存性凝固因子の合成を阻害し、突然の鼻血や内出血を引き起こすことがあります。

栄養状態も凝固機能に大きく影響します。タンパク質不足は凝固因子の合成を低下させ、ビタミンK不足は特定の凝固因子の活性化を妨げます。バランスの取れた食事が血液凝固の正常な機能維持には不可欠です。

血液の凝固異常から起こる重篤な合併症

血液凝固異常が進行すると、播種性血管内凝固症候群(DIC)という生命に関わる重篤な病態を引き起こすことがあります。DICは血管内で異常な血液凝固が起こり、全身の小血管に血栓が形成される状態です。

DICの発症には必ず基礎疾患が存在します。犬でよく見られる原因疾患には、敗血症子宮蓄膿症胃拡張胃捻転、悪性腫瘍、急性膵炎、免疫介在性疾患、熱中症、ヘビの咬傷、肝障害などがあります。これらの疾患が悪化することで、血液凝固システムが過剰に活性化され、DICへと進行します。

DICでは最初に血栓形成が優位となりますが、その後凝固因子が消費され、逆に出血傾向が強くなります。犬では血栓形成型のDICが多く見られ、多臓器不全や突然死のリスクが非常に高くなります。救命率は低く、DICになる前の段階での早期発見と治療が極めて重要です。

血栓症も深刻な合併症の一つです。クッシング症候群や心疾患、腫瘍などの基礎疾患により血栓が形成され、急性の肢麻痺や呼吸困難を引き起こします。14歳のポメラニアンの症例では、前肢の急性動脈血栓により重篤な症状が現れましたが、適切な血栓溶解治療により回復した報告があります。

血友病による出血も重要な合併症です。特に血友病Aは雄犬のみに発症する性染色体関連遺伝性疾患で、軽微な外傷でも重篤な出血を引き起こします。治療には新鮮凍結血漿や寒冷沈降物の輸血が必要で、継続的な管理が求められます。

獣医学における血液凝固の研究は日々進歩しており、新しい診断技術や治療法が開発されています。Total Thrombus Analysis System(T-TAS)のような微細流体技術を用いた検査システムにより、より正確な凝固機能の評価が可能になっています。また、人工血漿の開発により、輸血による副作用のリスクを軽減する治療選択肢も広がっています。

飼い主としては、愛犬の日常的な観察と定期的な健康診断により、血液凝固異常の早期発見に努めることが重要です。異常な出血や元気の低下などの症状を見つけた場合は、迅速な獣医師への相談が愛犬の命を守ることにつながります。