血糖値と犬の基本知識
血糖値の正常範囲と測定の重要性
血糖値とは、血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度を示す重要な健康指標です 。正常な犬の血糖値は60~120mg/dl(ミリグラムパーデシリットル)の範囲にあります 。この数値は食事の前後で変動し、フードに含まれる炭水化物が体内で消化吸収されてブドウ糖に変わり血液中に入るため、食後は血糖値が上昇し、空腹時は下降する自然な変化を示します 。
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血糖値の測定は動物病院での採血検査が基本ですが、最近では簡易血糖測定器を使用した自宅での測定も可能になっています 。測定タイミングは診断目的によって異なり、空腹時血糖値の測定から、食事摂取後1時間、インスリン投与後1時間と3時間は特に重要な測定ポイントとされています 。
参考)『血糖値の頻回測定における留意点と血糖値曲線の作成方法』
犬専用の血糖測定器を使用することで、より正確な測定が可能になります 。人用の測定器では犬の血糖値を正確に測定できないため、基本的に真の値よりも低い値が表示される傾向があり、飼い主の混乱を招く可能性があります 。
犬の糖尿病における血糖値の特徴
犬の糖尿病は主に1型糖尿病が多く、膵臓からのインスリン分泌がほとんどない状態が特徴です 。診断基準として、空腹時の血糖値が200mg/dLを超える高血糖と尿糖陽性の確認が重要な指標となります 。犬の場合、血糖値が143mg/dLを超えると糖尿病の初期症状である可能性が高く、200mg/dLを超える場合は即座に獣医師への相談が必要です 。
参考)トイ・プードルの糖尿病に関する正しい検査と診断について
糖尿病の犬では、体内でブドウ糖が適切に利用されなくなり、細胞がエネルギーとしてブドウ糖を利用できないため、代わりに筋肉や脂肪を分解してエネルギーを得ようとします 。この状態が続くと、多飲多尿、体重減少、活動量低下といった典型的な症状が現れます 。
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糖尿病治療では血糖値のコントロールが最重要で、インスリン療法が治療の基本となります 。毎日決まった時間に決まった量のインスリンを投与することで、血糖値を安定させることが可能になります 。治療中の血糖値モニタリングには、連続グルコース測定器(フリースタイルリブレ)なども活用され、より精密な血糖管理が実現されています 。
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犬の低血糖症状と血糖値の関係
低血糖症は血液中のブドウ糖濃度が3.3mmol/L(60mg/dL)未満になった状態で、犬では比較的一般的な問題とされています 。低血糖の症状は軽微な異常から生命に関わる緊急事態まで幅広く、血糖値が74mg/dL未満になると衰弱、無気力、さらには発作を引き起こす可能性があります 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5949948/
子犬では特に低血糖になりやすく、食事の間隔が長くなると低血糖症を発症するリスクが高まります 。空腹時間が長くなることで血糖値が急激に低下しやすいため、食事を小分けにして与える分割給餌が理想的な予防策となります 。
参考)低血糖の犬におすすめのフードとは?原因や症状、食事でできるサ…
低血糖の応急処置として、砂糖水やガムシロップ、ブドウ糖といった糖分の投与が効果的です 。砂糖水は砂糖1:水4の割合で作成し、体温程度に温めたお湯を使用することで溶けやすくなります 。けいれん発作が起きている場合は、歯茎に濃いめの砂糖水をこすりつけるように塗布します 。
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血糖値測定における最新技術と活用法
現代の獣医療では、持続血糖測定器(CGM)の活用が進んでいます 。センサーを体に装着することで、リーダーを当てるだけで採血せずに血糖値を測定できる画期的な技術です 。フリースタイルリブレなどの連続グルコース測定器では、現在の血糖値と前8時間の血糖値の動きを1分ごとに記録し、24時間の血糖値変動を一目で確認できます 。
180日間使用可能な長期インプラント型グルコースモニタリングシステムも開発され、糖尿病犬の長期管理に革新をもたらしています 。このシステムは皮下に挿入されたセンサーが間質液中のグルコースを継続的に測定し、従来の採血による測定の負担を大幅に軽減します 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8996934/
血糖値測定の精度向上のため、犬専用の血糖測定器の使用が推奨されています 。人用の機器では測定値に補正が必要で、犬では約63mg/dLと実際より低い値が表示される傾向があるため、正確な診断には専用機器が不可欠です 。
血糖値管理における食事療法と運動の役割
血糖値の安定化には適切な食事管理が欠かせません 。糖尿病の犬では、毎回同じ種類のフードを同じ量与えることが重要で、フードの種類や量を変更すると食後血糖値も変動し、インスリンの効果に影響を与えるためです 。高タンパク質・低炭水化物食は血糖コントロールの改善に効果的で、食後のグルカゴンとアミノ酸濃度の上昇により、より良好な糖代謝を実現できます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11884650/
分割給餌は血糖値の急激な変動を防ぐ重要な手法です 。1日の食事量を2回ではなく3~4回に分けて与えることで、安定した血糖値を維持しやすくなります 。食事と食事の間に少量の犬用おやつを与えることで、血糖値の急降下を防ぐことも可能です 。
定期的な運動は犬の体重減少と血糖値低下に重要な役割を果たします 。適度な運動により糖の吸収を抑制し、肥満予防にもつながるため、糖尿病の予防と治療の両面で効果を発揮します 。運動量の多い犬では、エネルギー不足にならないよう食事の量や回数を柔軟に調整し、ライフスタイルに合わせた血糖管理が必要です 。
犬の低血糖症の詳細な病態生理と管理方法に関する研究論文
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