急性胃炎犬の症状と治療方法
急性胃炎犬の症状と見分け方
急性胃炎を発症した犬は、特徴的な症状を示します。最も一般的な症状は摂食物や胆汁の断続的な嘔吐で、これは胃粘膜の炎症により胃の機能が低下するためです。
初期症状として以下が挙げられます。
- 嘔吐 – 食事後や空腹時に関係なく起こる
- 嘔吐物に血が混ざる – 胃粘膜の損傷により出血
- 食欲の低下 – 胃の不快感により食事を拒否
- 元気消失 – 全身状態の悪化
重症化すると以下の危険な症状が現れます。
- 貧血 – 口などの粘膜が白っぽくなる
- 黒い便 – 胃からの出血が消化されコーヒー滓状になる
- 脱水症状 – 皮膚をつまんでも戻りが悪い
特に子犬は急性胃炎が重症化しやすく、体重減少は稀ですが、症状の進行が早いため注意が必要です。これらの症状が見られた場合、48時間以内に動物病院を受診することが重要です。
急性胃炎犬の原因と予防対策
犬の急性胃炎には多様な原因があり、それぞれに適した予防策があります。
感染症による原因。
- 細菌感染 – カンピロバクター、サルモネラ菌
- ウイルス感染 – パルボウイルス、コロナウイルス
- 寄生虫 – 回虫、トリコマナス
食事関連の原因。
- 食物アレルギー – 特定の食材に対する過敏反応
- 脂肪分の多い食事 – 消化に負担をかける
- 腐った食べ物 – 細菌増殖により毒性物質産生
- 急激な食事変更 – 胃腸への刺激
薬物による原因。
その他の原因。
- 異物の誤飲 – おもちゃや重金属の摂取
- 環境ストレス – 引越しや飼い主の変化
- 農薬や殺菌剤 – 散歩中の接触や摂取
予防対策として以下が効果的です。
- 新鮮な食事の提供と急激な食事変更の回避
- 異物を食べないよう環境管理
- 定期的な健康診断とワクチン接種
- ストレス要因の最小化
- 散歩時の拾い食い防止
急性胃炎犬の検査と診断方法
急性胃炎の診断には、症状の重症度と原因特定のため複数の検査が実施されます。
基本検査。
- 身体検査 – 触診による腹部の痛みや腫れの確認
- 血液検査 – 全身状態、貧血、脱水、肝腎機能の評価
- 尿検査 – 腎機能と全身の健康状態確認
画像検査。
- レントゲン検査 – 異物の有無と胃の形状確認
- バリウム造影 – 必要に応じて胃の詳細な形状評価
- エコー検査 – 胃壁の肥厚、腫瘍、異物、腸閉塞の確認
特殊検査。
- 内視鏡検査 – 麻酔下で胃粘膜の直接観察
- 胃粘膜生検 – 慢性化や腫瘍の疑いがある場合
診断のポイントとして、獣医療では48時間以内に治る原因不明の急性嘔吐に対して急性胃炎の臨床診断を下すことがあります。これは多くの急性胃炎が自然治癒する特徴を反映しています。
検査の選択は症状の重症度により決定され、軽度の場合は身体検査と血液検査のみで診断することも多く、重症例や治療反応が悪い場合により詳細な検査が実施されます。
急性胃炎犬の治療と薬物療法
急性胃炎の治療は原因療法と対症療法を組み合わせて行われます。
原因療法。
- 有害物質除去 – 胃洗浄により毒性物質を排出
- 感染症治療 – 抗菌薬、抗ウイルス薬、駆虫薬の使用
- 薬物中止 – 原因となる薬剤の使用停止
- 基礎疾患治療 – underlying diseaseへの対応
対症療法。
- 輸液療法 – 脱水改善のため皮下点滴または静脈点滴
- 制吐剤 – 嘔吐症状の緩和
- 制酸剤 – 胃酸分泌抑制による胃粘膜保護
- 胃粘膜保護剤 – 炎症部位の修復促進
薬物療法の詳細。
制酸剤にはプロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬が使用され、胃酸の分泌を効果的に抑制します。胃粘膜保護剤は損傷した粘膜をコーティングし、修復を促進する作用があります。
感染が疑われる場合の抗生剤選択では、広域スペクトラム抗菌薬が第一選択となることが多く、培養結果により適切な薬剤に変更されます。
治療期間と経過観察。
軽度の急性胃炎は24-48時間で自然治癒することが多いですが、重症例では数日から1週間の治療が必要です。治療効果の判定は嘔吐の頻度減少、食欲回復、全身状態の改善により行われます。
急性胃炎犬の食事管理と自宅ケア
急性胃炎の回復期における適切な食事管理と自宅でのケアは、再発防止と早期回復に重要な役割を果たします。
絶食期間の管理。
嘔吐が頻繁な場合、24時間以内の絶食が推奨されます。この期間中も水分補給は必要で、少量ずつ頻回に与えることがポイントです。脱水が軽度の場合は、ブドウ糖加電解質溶液を経口投与します。
回復期の食事療法。
嘔吐消失後は段階的に食事を再開します。
- 第1段階 – 脂肪と繊維を中等度以下に制限した高消化性フード
- 第2段階 – 新奇蛋白質(今まで食べたことのない蛋白源)を使用
- 第3段階 – 2-3日で嘔吐がなければ通常食に戻す
特別療法食の選択。
- 低脂肪食 – 消化負担を軽減
- 低繊維食 – 胃腸への刺激を最小化
- 除去食 – アレルギー反応防止
- 家庭調理食 – 茹でた鶏肉と白米の組み合わせ
自宅でのモニタリング。
飼い主が注意すべき回復の指標。
- 嘔吐の頻度と内容物の変化
- 食欲と水分摂取量
- 便の性状と色
- 活動性と元気度
- 脱水症状(皮膚の戻り具合)
予防的ケア。
再発防止のための長期管理。
- ストレス管理 – 環境変化を最小限に抑制
- 食事の質の管理 – 新鮮で高品質なフードの選択
- 定期健診 – 6ヶ月に1回の健康チェック
- 薬物管理 – 必要時以外の薬物投与回避
特に高齢犬や既往歴のある犬では、**プロバイオティクス(乳酸菌)**の継続投与により、胃腸の健康維持が期待できます。これにより腸内細菌叢のバランスが改善され、消化機能の安定化が図られます。
日本獣医師会の消化器疾患に関する最新ガイドライン