脳障害における犬の症状と治療
脳障害における犬の初期症状と特徴
犬の脳障害は突然現れる症状が特徴的で、飼い主が異変に気づきやすい疾患群です。最も代表的な症状は、人間のてんかん発作と同様に、急に意識がなくなって痙攣する症状で、これは数分以内に治まることがほとんどです。
脳障害の初期段階では、元気や食欲がなくなる、フードの好みが変わるなど生活習慣面での変化から始まることが多く、これらの微細な変化を見逃さないことが重要です。その後、歩行時や走行時のふらつき、一方向への旋回運動や徘徊、緩慢で鈍い動きなど、行動面での明確な変化が現れます。
参考）https://vetzpetz.jp/blogs/column/dog-brain-tumor
さらに進行すると、視覚や聴覚に影響が出ることもあり、頭や首が傾いてしまう症状や、物にぶつかる頻度が増える、性格が極端に変化する、大量によだれが出るといった症状も脳障害の特徴的な兆候として知られています。
脳障害の主要な原因と発症メカニズム
犬の脳障害の原因は多岐にわたり、先天性と後天性の両方が存在します。先天性の脳障害では、水頭症が代表的で、脳内に過剰な脳脊髄液が蓄積し脳を圧迫することで発症し、特にチワワ、トイ・プードル、ヨークシャー・テリア、ポメラニアンといった小型犬が好発犬種として知られています。
後天性の脳障害では、脳腫瘍が重要な原因の一つとなり、髄膜腫、神経膠腫（グリオーマ）、下垂体腺腫、リンパ腫などの様々な種類があります。脳腫瘍の発生率は人間と比べて非常に高く、7歳以上で初めててんかん発作が起こった場合、脳腫瘍の可能性を第一に考える必要があります。
脳血管障害も重要な原因で、犬の脳梗塞は小脳が最も多く発生し、次いで大脳中部で発症します。甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症などの内分泌疾患や、心臓疾患、腫瘍性疾患、犬糸状虫などの寄生虫疾患も脳血管障害を引き起こす要因となります。
参考）【獣医師が解説】脳梗塞や脳血管障害：犬のMRI検査でわかるこ…
脳障害の診断方法と検査プロセス
犬の脳障害の診断には、複数の検査を組み合わせた総合的なアプローチが必要です。まず最初に行われるのが神経学的検査で、足の動きや刺激に対する反応、目の反射などを確認し、神経に異常が出ていないかを詳細に評価します。
血液検査では、内臓の状態や炎症のマーカーなどを確認し、全身状態を評価するとともに、脳障害の原因となる基礎疾患の有無を調べます。特に肝性脳症の場合、アンモニアなどの毒素が血液に乗って脳にまわることで神経症状を起こすため、肝機能の評価が重要になります。
参考）犬の脳・神経の病気10種まとめ。症状や特徴、原因、治療法は？…
最も重要な検査がMRI検査で、脳に炎症や腫瘍などがないかを詳細に確認できます。MRI検査により、脳梗塞の特徴的な画像所見を認めることができ、急性壊死性脳症などの診断も可能になります。
参考）https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12919
脳障害における犬種別発症傾向と統計
犬の脳障害には明確な犬種差が存在し、特定の犬種で高い発症率を示すことが知られています。神経疾患全体の発症統計では、チワワが前脳梗塞の15.4％を占め、小脳梗塞ではパグとM・ダックスフンドがそれぞれ18.6％を占めています。
参考）https://jvma-vet.jp/mag/07101/c1.pdf
非感染性脳炎の犬種別好発傾向を見ると、壊死性髄膜脳炎および壊死性白質脳炎では、パグ、ヨークシャー・テリア、チワワ、マルチーズ、パピヨン、ポメラニアンなどの小型犬種で多く発症します。一方、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎は小型犬に多く、ステロイド反応性髄膜炎-動脈炎はビーグル、ボクサー、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、ワイマラナーで好発します。
参考）https://www.ivma.jp/promotion/magazine/document/48-2/01_48_2_review.pdf
てんかんの発症率は犬で約0.7〜1％とされており、トイ・プードル、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリアでは脳炎だった割合も比較的高く、脳炎の好発年齢は特発性てんかんと同様に若齢から中齢である傾向が報告されています。
参考）https://www.animal-purpleday.com/books/book_04.pdf
脳障害の治療法と管理戦略
犬の脳障害の治療は、原因疾患に応じて多様なアプローチが選択されます。非感染性脳炎の場合、ステロイド製剤や免疫抑制剤が主要な治療薬として使用され、痙攣がある場合には抗てんかん薬も併用されます。
参考）脳の疾患
脳腫瘍の治療では、外科手術、放射線治療、薬物治療、緩和療法、食事療法など複数の選択肢があります。外科手術は腫瘍を直接取り除く方法で、特に髄膜腫など表面に近い場所にある腫瘍に対して実施され、完全摘出できれば完治の可能性もあります。放射線治療は腫瘍細胞を破壊するために放射線を照射する治療法で、腫瘍の縮小や進行抑制効果が期待できます。
参考）犬の脳腫瘍の種類や症状、治療法とは？脳腫瘍ができる原因や自宅…
脳梗塞の治療では、脳圧亢進を防ぐために脳圧降下剤、痙攣がみられる場合は抗てんかん薬など、状態に合わせた薬物療法が行われます。補助的にビタミン剤やサプリメントの投与、リハビリなどの運動療法も効果的です。
参考）http://www.anicom-sompo.co.jp/doubutsu_pedia/node/921
日常的なケアとして、滑りやすい床材での転倒事故を防ぐため防滑マットを使用したり、適切な食事管理や栄養補給、オメガ-3脂肪酸などの特別食材の追加も改善効果が期待できます。