尿崩症とは何なのか基本知識を解説
尿崩症とは何なのか定義と概要
尿崩症は、体内の水分量を適切に調節できなくなる内分泌疾患です。正常な状態では、腎臓が水分の再吸収を行い、尿を濃縮して体内の水分バランスを保っています。しかし尿崩症では、この水分調節機能が働かなくなり、大量の薄い尿が排出される特徴があります。
この病気は人間だけでなく犬にも発症し、愛犬家にとって注意すべき疾患の一つです。健康な犬の場合、1日の尿量は体重1kg当たり60ml以下ですが、尿崩症では体重1kg当たり100ml以上の尿量となり、明らかに異常な状態となります。
尿崩症という名前から糖尿病と混同されがちですが、実際には全く異なる疾患です。糖尿病は血糖値の異常が原因ですが、尿崩症は抗利尿ホルモンの分泌や機能に関わる問題が原因となっています。
尿崩症とは何なのか症状の詳細解説
尿崩症の症状は非常に特徴的で、主に三つの症状が同時に現れることが知られています。
多尿(尿量の増加)
最も顕著な症状は尿量の異常な増加です。成人では1日に3リットル以上、時には10リットル以上の尿が排泄されることもあります。犬の場合も同様に、体重1kg当たり100ml以上の大量の尿が排出されます。
激しい口渇感
大量の水分が尿として失われるため、体内が常に水分不足の状態となり、激しい喉の渇きを感じます。唾液の分泌も減少し、常に大量の冷たい飲み物を欲するようになります。
多飲(水分摂取の増加)
過剰な水分損失を補うため、頻繁かつ大量の水分摂取が必要となります。個人差はありますが、体重50kgの人で1日5リットル以上、時には10リットル以上の水を飲むケースもあります。
これらの症状により、患者は常に体力を消耗し、日常生活に大きな支障をきたします。また、尿の色も透明または薄い色となり、正常な黄色い尿とは明らかに異なる外観を示します。
尿崩症とは何なのか原因と分類
尿崩症は発症メカニズムによって大きく二つのタイプに分類されます。
中枢性尿崩症
脳の視床下部や下垂体後葉からのバソプレシン(抗利尿ホルモン)の分泌が不足することで起こります。主な原因として以下が挙げられます:
腎性尿崩症
バソプレシンの分泌は正常ですが、腎臓でのホルモン感受性が低下することで発症します。主な原因には:
犬においても同様の分類が適用され、腫瘍の転移や交通事故による外傷が原因となることもあります。
尿崩症とは何なのか診断方法と検査
尿崩症の診断には複数の検査が組み合わせて行われます。
基本検査
まず尿検査と血液検査が実施されます。尿比重の測定では、正常であれば1.020以上の値を示しますが、尿崩症では1.005以下の非常に薄い尿となります。血液検査では血中ナトリウム濃度の上昇(高ナトリウム血症)が確認されることがあります。
水制限試験
最も重要な診断検査の一つです。一定時間水分摂取を制限し、尿量と尿濃縮能力の変化を観察します。正常な場合は水分制限により尿が濃縮されますが、尿崩症では水分制限を行っても尿の濃縮が起こりません。
バソプレシン負荷試験
合成バソプレシンを投与し、腎臓の反応を確認します。中枢性尿崩症では投与後に尿濃縮が改善されますが、腎性尿崩症では反応が見られません。この検査により、中枢性と腎性の鑑別診断が可能となります。
画像検査
MRIやCTスキャンにより、脳腫瘍や下垂体の異常の有無を確認します。特に中枢性尿崩症が疑われる場合には必須の検査となります。
尿崩症とは何なのか治療法と生活管理
尿崩症の治療は原因と病型により異なるアプローチが取られます。
中枢性尿崩症の治療
主な治療法はホルモン補充療法です。バソプレシンの類似物質であるデスモプレシン(DDAVP)を点鼻薬や経口薬として投与します。治療開始後の数日間は体重、尿量、尿比重、血中ナトリウム濃度を厳密に監視し、適切な投与量を決定します。
犬の治療においても同様にデスモプレシン酢酸塩水和物が使用されますが、決して安価な薬ではなく、生涯にわたる投与が必要となる場合があります。
腎性尿崩症の治療
根本的な治療法は存在しないため、主に対症療法が行われます。治療の柱となるのは:
- 十分な水分摂取の確保
- 塩分制限(低ナトリウム食)
- タンパク質制限
- 原因疾患の治療
薬物療法としては、サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジド)が逆説的に尿量を減少させる効果があります。また、非ステロイド系抗炎症薬(インドメタシンなど)やアミロライドも症状改善に役立つことがあります。
生活管理の重要性
治療薬が高価であったり、根本的治療が困難な場合でも、適切な生活管理により症状をコントロールできます。特に重要なのは:
- 自由な水分摂取環境の確保
- 脱水予防のための水分補給
- 定期的な医療機関での経過観察
- 電解質バランスの監視
愛犬の場合、自由飲水と自由排尿ができる環境を整えることで、無治療でも生活が可能な場合があります。ただし、飲水制限は致命的となるため絶対に行ってはいけません。
予後について
特発性の尿崩症では適切な治療により予後は良好です。外傷性や炎症性疾患が原因の場合も、原疾患の治療が可能であれば予後は良好となります。しかし、腫瘍性疾患が原因の場合は、その腫瘍の性質や進行度により予後が左右されます。
早期発見と適切な治療開始が重要であり、多飲多尿の症状が見られた場合は速やかに医療機関を受診することが推奨されます。