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リンパ腫(犬)の症状と治療方法を獣医師が解説

リンパ腫(犬)の症状と治療方法

犬のリンパ腫:症状と治療の要点
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早期症状の把握

リンパ節腫脹、食欲低下、元気消失などの初期症状を見逃さない

💊

化学療法が第一選択

CHOP療法などの多剤併用で70-90%の寛解率を期待

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予後の理解

適切な治療により平均8-13ヶ月の生存期間延長が可能

リンパ腫(犬)の基本的な症状と病型分類

犬のリンパ腫は、リンパ球が悪性化することで起こる血液がんの一種です。発症部位によって以下の4つの病型に分類されます。

多中心型リンパ腫

最も一般的な病型で、全身のリンパ節が腫脹します。特に以下の部位で触知できることが多いです。

  • 顎下リンパ節
  • 浅頸リンパ節
  • 腋窩リンパ節
  • 鼠径リンパ節

飼い主が最初に気づく症状として、これらの部位にゴロゴロとした硬いしこりを触れることが挙げられます。

消化器型リンパ腫

小腸を中心とした消化管に発生し、以下の症状が見られます。

  • 慢性的な下痢
  • 嘔吐
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 腸閉塞(末期症状)

皮膚型リンパ腫

皮膚や粘膜に病変を形成し、リンパ腫全体の3-8%を占めます。症状は多岐にわたり。

  • 紅斑
  • 脱毛
  • かゆみ
  • 潰瘍形成
  • 色素脱失

皮膚型は他の皮膚疾患との鑑別が困難で、診断が遅れることが多い病型です。

前縦隔型リンパ腫

胸腔内に腫瘤を形成し、以下の呼吸器症状を呈します。

リンパ腫(犬)の診断方法と検査手順

リンパ腫の確定診断には、細胞診および組織診断が必要です。

細胞診検査

リンパ節に細い針を刺して細胞を採取する検査です。迅速に結果が得られ、リンパ腫の可能性を評価できますが、確定診断には限界があります。

組織生検

確定診断のゴールドスタンダードとなる検査です。皮膚型の場合は皮膚生検を、その他の病型では腫大したリンパ節の一部または全摘出を行います。

画像診断

全身の病変分布を把握するために以下の検査を実施。

  • 胸部X線検査
  • 腹部超音波検査
  • CT検査(可能な施設では)

血液検査

全身状態の評価と治療方針決定のために実施。

  • 完全血球計算
  • 血液生化学検査
  • 乳酸脱水素酵素(LDH)
  • カルシウム値

血液検査では白血球数の増加や貧血、血小板減少などが認められることがあります。また、高カルシウム血症は予後不良因子として知られています。

リンパ腫(犬)の化学療法による治療選択肢

犬のリンパ腫治療において、化学療法は最も重要な治療選択肢です。リンパ球は全身を循環する細胞であるため、局所治療よりも全身治療である化学療法が第一選択となります。

CHOP療法プロトコル

最も標準的な治療プロトコルで、以下の薬剤を組み合わせます。

  • シクロホスファミド(C)
  • ドキソルビシン(H)
  • ビンクリスチン(O)
  • プレドニゾロン(P)

これらの薬剤を1-2週間間隔で25週間にわたって投与します。耐性獲得を防ぐために複数の作用機序の異なる薬剤を組み合わせることが重要です。

UW-25プロトコル

ウィスコンシン大学で開発されたプロトコルで、CHOP療法の改良版として位置づけられています。25週間の治療期間中、段階的に薬剤を投与し、高い寛解率を目指します。

皮膚型リンパ腫の特殊治療

皮膚型リンパ腫では、ロムスチン(CCNU)が特に有効とされています。経口投与可能で、以下の点に注意が必要です。

  • 骨髄抑制のリスク
  • 肝機能障害の可能性
  • 定期的な血液検査による監視

治療効果と寛解率

適切な化学療法により、以下の治療成績が期待できます。

  • 寛解率:70-90%
  • 寛解期間:平均6-12ヶ月
  • 2年以上の長期寛解:約20-30%

副作用は人間と比較して軽度であることが多く、生活の質を維持しながら治療継続が可能です。

リンパ腫(犬)の予後と余命に関する重要因子

犬のリンパ腫の予後は、病型、病期、治療反応性、個体要因によって大きく異なります。

病型別予後

  • 多中心型:最も治療反応が良好で、標準的化学療法で良好な予後が期待できます
  • 消化器型:多中心型に比べやや予後不良ですが、外科的切除と化学療法の組み合わせで改善が見込めます
  • 皮膚型:他の病型と比較して予後不良とされています
  • 前縦隔型:若齢犬に多く、予後は中等度です

治療選択による生存期間の違い

無治療の場合:診断確定から4-6週間で死亡することが多いです。これは腫瘍の急速な進行と全身状態の悪化によるものです。

化学療法実施の場合:平均生存期間は8-13ヶ月に延長されます。適切な治療により、症状の改善と生活の質の向上が期待できます。

予後不良因子

以下の因子は予後不良と関連しています。

  • 高カルシウム血症
  • 中枢神経系への浸潤
  • 骨髄浸潤
  • 消化器症状の存在
  • T細胞性リンパ腫(B細胞性と比較して)

末期症状の認識

治療抵抗性や再発時には以下の症状が現れます。

  • 筋肉量減少と体重減少
  • 脾臓腫大
  • 呼吸困難の増悪
  • 腸閉塞症状

これらの症状が出現した場合は、緩和ケアへの移行を検討する必要があります。

リンパ腫(犬)治療における栄養管理と支持療法

リンパ腫治療において、栄養管理は治療成功の重要な要素です。がん悪液質の予防と化学療法の副作用軽減のために、適切な栄養サポートが必要です。

がん悪液質の理解

リンパ腫患者では、腫瘍による代謝異常により以下の変化が生じます。

  • 糖代謝異常(腫瘍細胞の糖利用増加)
  • タンパク質分解の亢進
  • 脂質代謝の変化
  • サイトカイン産生による食欲低下

栄養療法の実践

食欲不振への対策として以下のアプローチが有効です。

  • フードのふやかしによる嗜好性向上
  • 高カロリー・高タンパク質食品の選択
  • リキッドタイプの栄養補助食品の活用
  • 食欲刺激剤の使用(必要に応じて)

オメガ3脂肪酸の活用

EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などのオメガ3脂肪酸は、以下の効果が期待されています。

  • 抗炎症作用
  • 腫瘍増殖抑制効果
  • 化学療法の効果増強
  • 悪液質の改善

東洋医学的アプローチ

近年、補完代替医療として東洋医学的治療法も注目されています。

  • 鍼灸治療による副作用軽減
  • 漢方薬による体質改善
  • 免疫機能の向上
  • 生活の質(QOL)の改善

これらの治療法は西洋医学的治療と併用することで、より良い治療効果が期待できる可能性があります。

参考:日本獣医がん学会による犬のリンパ腫診療ガイドライン

https://www.jvcs.jp/guideline/

参考:小動物臨床腫瘍学に関する最新の研究動向

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jvms