左心室と犬の健康
犬の心臓は人間と同様に4つの部屋で構成されており、左心室は全身に血液を送るという重要な役割を担っています 。犬の心疾患において、左心室に関連する問題は非常に多く、早期発見と適切な治療が愛犬の健康維持に不可欠です 。
左心室の基本的な役割と構造
左心室は心臓の左下部分に位置し、酸素を豊富に含んだ血液を全身に送り出すポンプの役割を果たしています 。健康な犬の場合、左心房から送られた血液は僧帽弁を通って左心室に入り、心臓の収縮により大動脈を通じて全身の臓器や組織に届けられます 。
参考)僧帽弁閉鎖不全症 / 犬の病気|JBVP-日本臨床獣医学フォ…
心臓の左側(左心房と左心室)は、きれいな血液を肺から受け取り全身に送る働きをしており、特に左心室は強力な筋肉で構成されているため、全身への血液循環において中心的な役割を担います 。左心室の壁の厚さや収縮能力は、心臓全体の機能を評価する上で重要な指標となっています 。
参考)肥大型心筋症 [犬]|【獣医師監修】うちの子おうちの医療事典
左心室に影響する犬の主要疾患
犬の左心室に最も多く影響を与える疾患は僧帽弁閉鎖不全症です 。この疾患では、左心房と左心室の間にある僧帽弁がうまく閉じなくなり、血液が左心室から左心房へ逆流してしまいます 。小型犬の欝血性心不全の95%がこの病気によるものとされ、特にマルチーズ、ポメラニアン、ヨークシャーテリアなどの小型犬に多く見られます 。
肥大型心筋症も左心室に重大な影響を与える疾患の一つです 。この疾患では心筋が異常に厚くなり、左心室の壁が分厚くなることで全身にうまく血液を送ることができなくなります 。犬においては稀な疾患ですが、ジャーマンシェパードやドーベルマンでの報告があり、遺伝的な素因が関与している可能性が指摘されています 。
左心室機能の評価方法と心エコー検査
左心室の機能評価において最も重要な検査が心エコー検査(心臓超音波検査)です 。この検査では、プローブと呼ばれる端子を皮膚に当て、超音波の反射を利用して左心室の大きさ、壁の厚さ、収縮能力をリアルタイムで観察できます 。
心エコー検査により、左心室の拡張末期径や収縮末期径、左心室壁の厚さ、左心房の拡大の有無などを詳細に評価できます 。肥大型心筋症の場合、左心室の壁が異常に厚いことと左心房の拡張が特徴的な所見として確認されます 。検査時間は通常15~30分程度で、動物に痛みや負担をかけることなく実施できます 。
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左心室疾患の症状と早期発見の重要性
左心室に関連する疾患の初期症状は非常に分かりにくく、多くの場合無症状で経過します 。しかし、病状が進行すると以下のような症状が現れます:
特に僧帽弁閉鎖不全症では、左心房の肥大により左側の気管支が圧迫されることで咳が目立つ症状となります 。症状が出始めた犬は極めて短命(9ヶ月間で50%の犬が予後不良)に終わることがデータで判明しているため、早期発見と適切な治療開始が極めて重要です 。
左心室疾患に対する治療アプローチと管理方法
左心室に関連する疾患の治療は、主に内科的治療が中心となります 。僧帽弁閉鎖不全症の場合、ピモベンダンという強心薬がよく使用され、心臓の収縮力を高めて血液循環を改善します 。中等度から重症の場合には、血管拡張剤や利尿薬なども併用されます 。
肥大型心筋症の治療では、β遮断薬やカルシウムチャネル遮断薬を使用して心拍数をコントロールし、心臓への負担を軽減します 。うっ血性心不全の兆候がある場合には、利尿薬やACE阻害薬などの血管拡張薬も使用されます 。
治療と並行して、運動制限や食事管理も重要な管理方法となります 。定期的な心エコー検査により左心室の状態を継続的に監視し、治療効果を評価することで、愛犬の生活の質を維持できます 。
左心室に関連する心疾患は完治が困難な場合が多いため、早期発見と継続的な管理により、愛犬の健康な生活を長期間維持することが治療の主要な目標となります 。