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脊椎異常(犬)症状と治療方法:椎間板ヘルニアから脊髄変性まで

脊椎異常の症状と治療方法

犬の脊椎異常:主要な疾患と特徴
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椎間板ヘルニア

最も多い脊椎異常。ダックスフンドなど軟骨異栄養性犬種に多発

🧠

脊髄変性症

進行性の難病。コーギーに多く、治療法が限定的

環軸椎不安定症

小型犬に多い。首の骨の不安定による神経圧迫

脊椎異常の主な症状と早期発見のポイント

犬の脊椎異常は初期症状が軽微なため、飼い主が見落としやすい疾患です。最も重要な早期症状として、背中を触った時の痛みによる鳴き声があります。この症状は椎間板ヘルニアの初期段階で最も多く見られ、愛犬が普段と違う反応を示した場合は注意が必要です。
歩行異常も重要な指標となります。具体的には以下のような症状が現れます。

  • 階段の昇り降りを嫌がる、特に降りる動作の困難
  • ソファやベッドへの飛び乗りを避ける行動
  • 足を引きずるような歩き方
  • 後肢の力が入らない、ふらつき
  • 前肢と後肢の協調性が失われたtwo-engine gait

さらに進行すると、排尿・排便のコントロールが困難になり、これは神経損傷が深刻化している証拠です。特に急性発症の場合、24-48時間以内に症状が急激に悪化することがあるため、初期症状を見逃さない観察力が愛犬の予後を大きく左右します。
興味深いことに、脊椎症では瞬膜(第3眼瞼)の突出が認められることがあり、これは脊髄軟化症という深刻な病態のサインとなる場合があります。このような多様な症状パターンを理解することで、より早期の発見が可能になります。

椎間板ヘルニアの診断と治療法

椎間板ヘルニアは犬の脊椎異常の中で最も頻度が高く、ハンセンⅠ型とⅡ型に分類されます。ハンセンⅠ型は軟骨異栄養性犬種(ダックスフンド、フレンチブルドッグコーギー等)に多く、若齢から椎間板変性が始まり突然発症するのが特徴です。一方、ハンセンⅡ型は中高齢犬に多く、線維輪の肥厚により徐々に進行します。
診断には神経学的検査が重要で、反射の有無や痛覚反応を確認し、脳の問題か脊髄の問題かを鑑別します。確定診断には全身麻酔下でのMRI検査が必要で、椎間板による脊髄圧迫を詳細に確認できます。
治療法は症状の重症度により選択されます。
内科的治療(グレード1-2)

外科的治療(グレード3-5)

  • 片側椎弓切除術(腰部ヘルニア)
  • 腹側減圧術(頸部ヘルニア)
  • 小範囲片側椎弓切除術

手術により脊髄圧迫を解除した後は、リハビリテーションが回復の鍵となります。水中トレッドミルや物理療法により、神経機能の回復を促進し、筋力維持を図ります。

脊髄変性症の特徴と進行過程

脊髄変性症(変性性脊髄症)は、治療法が確立されていない進行性の難病です。この疾患は椎間板ヘルニアと似た症状を呈するため、鑑別診断が重要になります。
原因はSOD1遺伝子の変異による異常タンパク質の生成と考えられています。本来、SOD1タンパク質は抗酸化作用により神経細胞を保護しますが、機能異常により神経変性が誘発されます。日本ではウェルシュ・コーギー・ペンブロークでの発生が多く、ジャーマン・シェパード、ボクサー、ラブラドール・レトリーバーでも報告されています。
症状の進行過程は以下の通りです。
初期段階

  • 後肢の運動失調
  • 後肢の力の入りが弱くなる
  • 歩様の変化、後肢の交差

進行期

  • 症状の上行性進行
  • 前肢の機能不全
  • 起立不能

末期

  • 呼吸機能障害
  • 生命維持困難

診断は除外診断が中心となり、特異的な生前診断法は確立されていません。発症年齢、犬種、症状経過、神経学的検査、画像診断、遺伝子検査を総合的に評価します。
現在、確立された治療法はありませんが、積極的な散歩、プールでのリハビリ、抗酸化作用を持つサプリメントの投与、マッサージなどにより筋力維持に努めることが重要です。

手術適応の判断と術後リハビリ

脊椎異常における手術適応の判断は、症状の重症度、犬の年齢、全身状態を総合的に評価して決定されます。ウォブラー症候群の研究によると、外科的治療では81%が改善を示し、内科的治療の54%を大きく上回る結果が報告されています。
手術適応の基準

  • グレード3以上の神経症状(麻痺の存在)
  • 内科的治療に反応しない激しい痛み
  • 進行性の神経症状悪化
  • 若齢犬での発症(長期予後を考慮)

環軸椎不安定症では、手足の麻痺や神経症状の進行が見られる場合、早期の手術(環軸関節固定術)が必要です。ワイヤー、スクリュー、ピンなどのインプラントを使用して環椎と軸椎を固定し、不安定な関節を安定化させます。
術後リハビリテーションの重要性
手術後のリハビリは段階的に進めることが重要です。

  1. 急性期(術後1-2週間)
    • 創部の安静保持
    • 疼痛管理
    • 基本的な看護ケア
  2. 亜急性期(術後2-6週間)
    • 受動的関節可動域訓練
    • 電気刺激療法
    • マッサージ
  3. 回復期(術後6週間以降)
    • 水中トレッドミル
    • 能動的運動療法
    • バランス訓練

リハビリテーションは神経機能の回復促進だけでなく、筋萎縮の予防、関節拘縮の防止、心理的ストレスの軽減にも効果があります。早期のリハビリ開始により、回復の見込みが大きく向上することが知られています。

脊椎異常予防のための生活環境改善法

脊椎異常の予防には、日常生活環境の工夫が極めて重要です。多くの飼い主が見落としがちな環境要因が、実は脊椎への負担を大きく左右しています。
住環境の最適化
床材の選択は予防の基本です。滑りやすいフローリングは犬の姿勢を不安定にし、脊椎への負担を増加させます。滑り止めマットの設置や、コルクマットの使用により、犬の足腰への負担を大幅に軽減できます。
段差の管理も重要で、以下の対策が効果的です。

  • ソファやベッドへのスロープ設置
  • 階段の昇降制限
  • 高所からの飛び降り防止

抱っこ方法の改善
抱っこ方法は多くの飼い主が軽視しがちですが、脊椎への影響は深刻です。犬の上半身のみを支えて腰を宙に浮かせる抱き方は、腰椎に過度な負担をかけます。正しくは背骨が地面と水平になるよう、身体全体を支えることが重要です。
運動管理のポイント
適度な運動は筋力維持に重要ですが、以下の点に注意が必要です。

  • 激しいジャンプの制限
  • 高速で走り回る運動の回避
  • 水泳など関節負荷の少ない運動の推奨

体重管理の重要性
肥満は脊椎に過度な圧力を加える主要因子です。適正体重の維持により、椎間板への負荷を大幅に軽減できます。定期的な体重測定と、獣医師による栄養指導を受けることが推奨されます。
定期健康診断の活用
脊椎異常は無症状で進行することが多いため、定期的な健康診断による早期発見が重要です。特に軟骨異栄養性犬種やコーギーなどの好発犬種では、若齢からの定期的な神経学的検査が推奨されます。
獣医師による専門的な脊椎検査と診断について詳しい情報
岐阜大学動物病院 神経科の脊椎疾患診断・治療ガイド
これらの環境改善により、脊椎異常の発症リスクを大幅に低減できることが、近年の研究で明らかになっています。愛犬の健康な生活のため、今日から実践できる予防策を取り入れることが大切です。