先天性心疾患と犬の症状と診断
先天性心疾患の犬に現れる症状の特徴
犬の先天性心疾患では、疾患の種類や重症度によって様々な症状が現れます 。軽度の場合は全く症状を示さないことも多く、生後間もなく重篤な症状を示すケースまで幅広く存在します 。
参考)http://www.anicom-sompo.co.jp/doubutsu_pedia/node/905
最も注意すべき症状として、運動不耐性(すぐに疲れる)、長く続く咳、呼吸困難、チアノーゼ(舌や歯茎が青白くなる)があります 。子犬の場合、他の子犬と比べて遊んでいてもすぐに疲れてしまったり、苦しくなってへたり込んだりする症状が特徴的です 。
重篤な症状としては、発作(ふらつき、失神)、胸水や腹水の貯留、食欲不振、体重減少が挙げられます 。特に安静時の呼吸数が1分間で40回を超える場合は危険なサインとされており、急いで受診が必要です 。
動脈管開存症の犬における診断と特徴
動脈管開存症は犬の先天性心疾患の中で最も発症率が高い疾患です 。プードルやマルチーズ、コリー系の犬種に多く見られる傾向があります 。
診断において最も特徴的な所見は、聴診時に聞かれる連続性雑音です 。これは心臓の収縮から拡張までの間ずっと続く特徴的な音で、動脈管開存症の重要な診断指標となります 。
参考)犬の動脈管開存症について│遺伝が関係する病気…心雑音があれば…
超音波検査により心臓の構造や血流の方向を詳細に評価することができ、手術適応の判断に重要な情報を提供します 。血液が大動脈から肺動脈へ流れている場合は手術可能ですが、アイゼンメンジャー化といって肺動脈から大動脈に血液が流れる場合は手術により病態が悪化するため、手術適応外となります 。
参考)犬の動脈管開存症について href=”https://tateishi-ah.jp/column/dog-patent-ductus-arteriosus/” target=”_blank”>https://tateishi-ah.jp/column/dog-patent-ductus-arteriosus/amp;#8211; 調布にある「タテイ…
心室中隔欠損症の犬での病態と診断法
心室中隔欠損症は左右の心室を分ける壁に生まれつき穴が開いている疾患で、犬の先天性心疾患の中で6.2〜15.2%を占める比較的頻度の高い疾患です 。柴犬、ミニチュアダックスフント、フレンチブルドッグに発生しやすいとされています 。
参考)【獣医師監修】犬の先天性心奇形、心室中隔欠損とは?症状や治療…
欠損孔が小さい場合はほとんど問題となりませんが、ある程度大きい場合は左心室から右心室への血液の短絡が起こり、左心系への負荷が増大します 。これにより左心房と左心室の拡大、咳や運動不耐性などの症状が現れます 。
診断は聴診による心雑音の検出、X線検査による心拡大の確認、血管造影による血液の逆流確認、胸部超音波検査による欠損孔の直接観察と血流速度測定により行われます 。欠損部が小さいほど血流速度が速くなるという特徴があり、欠損孔の大きさ推定に活用されます 。
肺動脈狭窄症の犬における症状と検査
肺動脈狭窄症は心臓から肺へ血液を送り出す肺動脈にある肺動脈弁またはその付近が狭窄し、心臓から肺への血液が流れにくくなる先天性心疾患です 。小型犬に多く見られ、まれに猫でも発症します 。
参考)「生まれつき心臓が悪い?」代表的な先天性心疾患を5つ紹介
右心室から肺へ血液を送り出す部分に狭窄が生じるため、右心室に負荷がかかり、右心室の肥大や心不全症状を引き起こす可能性があります 。軽度の狭窄では無症状のことも多いですが、重度になると運動不耐性や呼吸困難などの症状が現れます 。
診断には心電図検査、胸部X線検査、心臓超音波検査が用いられ、狭窄の程度と右心室への影響を評価します 。重度の狭窄が確認された場合は、カテーテルを用いたバルーン拡張術や開心手術による治療が検討されます 。
参考)心臓外科について href=”https://www.v-cardiacsurgery.com/facility/v-cardiac-surgery/” target=”_blank”>https://www.v-cardiacsurgery.com/facility/v-cardiac-surgery/amp;#8211; 動物心臓外科センター href=”https://www.v-cardiacsurgery.com/facility/v-cardiac-surgery/” target=”_blank”>https://www.v-cardiacsurgery.com/facility/v-cardiac-surgery/amp;#…
犬の先天性心疾患における遺伝要因と予防的アプローチ
先天性心疾患は遺伝的要因が強く関与しており、特定の犬種で発症率が高いことが知られています 。動脈管開存症では遺伝が関係することが確認されており、両親や兄弟に同疾患の病歴がある場合は注意が必要です 。
予防的アプローチとして最も重要なのは、子犬期からの定期的な健康診断です 。多くの先天性心疾患は聴診による心雑音の検出で早期発見が可能であり、症状が現れる前の段階での診断が治療成績向上の鍵となります 。
ブリーダーから子犬を迎える際は、両親の心疾患歴や健康診断結果を確認することが推奨されます。また、飼い始めた直後の健康診断では、心雑音の有無を含めた循環器系の詳細な検査を受けることが重要です 。早期発見により適切な治療タイミングを逃さず、より良い予後が期待できます 。
先天性心疾患と犬の症状と診断
外科手術による先天性心疾患の根治治療
動脈管開存症の根治的治療として、外科的な動脈管閉鎖術が行われます 。手術方法には心臓の外側から動脈管を糸で縛る方法と、血管を通じて動脈管にコイルを詰めて血流を止める方法があります 。外科的結紮を行った犬の1年後生存率は92%、2年後生存率は87%と良好な成績が報告されています 。
参考)犬の動脈管開存症
心室中隔欠損症に対しては、欠損孔の大きさや位置に応じて複数の治療選択肢があります 。開心下欠損孔閉鎖術では人工心肺装置を使用して欠損孔の直接閉鎖や人工パッチグラフトによる修復を行いますが、高いリスクと合併症が課題となっています 。
参考)心臓病~先天性心疾患・心室中隔欠損症(VSD)~|横浜市戸塚…
より低侵襲な治療として、経皮的血管内治療法があります 。頸部血管からカテーテルを心臓に通し、欠損孔にアプローチして孔を塞ぐ方法で、コイル塞栓術やAmplatzer閉塞栓による塞栓術が選択されます 。
カテーテル治療による先天性心疾患の低侵襲治療
カテーテルインターベンション治療は、胸を開かずに血管内からアプローチする低侵襲治療法です 。肺動脈狭窄症に対してはバルーン拡張術が行われ、狭窄部を風船状のデバイスで拡張します 。
心房中隔欠損症や心室中隔欠損症に対しても、カテーテルを用いた閉鎖術が適応される場合があります 。専用の閉鎖デバイスを用いて欠損孔を塞ぎ、開心術と比較して侵襲が少ないことが利点です 。
開胸下血管内治療法は、開胸術とカテーテル治療を組み合わせた方法で、心臓を開くことなく大型デバイスの使用が可能となり、小型犬や猫の治療選択肢を広げています 。
内科治療による先天性心疾患の症状管理
先天性心疾患に対する内科治療は、主に心不全症状の緩和と病気の進行抑制を目的とします 。動脈管を閉鎖させる薬物はないため、内科治療のみでの完治は期待できませんが、手術までの症状管理や手術適応外の症例において重要な役割を果たします 。
参考)犬の動脈管開存症(PDA)|横浜市戸塚区の動物病院|ぬのかわ…
うっ血性心不全が起こっている場合、利尿薬や血管拡張薬を投与して肺への負担を軽減し、手術が可能な状態まで改善させることがあります 。チアノーゼが見られる症例では酸素吸入を行い、入院や自宅への酸素室レンタルが必要となる場合もあります 。
アイゼンメンジャー化した症例など手術適応外の場合は、内科治療で病気の進行を抑制し、生活の質の維持を図ります 。定期的な経過観察により、症状の変化に応じて治療内容を調整していきます 。
先天性心疾患の犬における予後と生活管理
治療を行った先天性心疾患の予後は疾患の種類と治療方法により大きく異なります。動脈管開存症で他の心疾患を併発していない犬の生存期間中央値は11.5年であり、長期間の生存が期待できます 。しかし、心疾患の併発がある場合は予後が短くなるとされています 。
術後の犬は多くの場合活動的になり、その後健康に過ごすことができます 。ただし、定期的な心臓検査による経過観察は継続して必要であり、新たな心疾患の発症や既存疾患の進行を監視します。
生活管理では適度な運動は推奨されますが、過度な運動は避ける必要があります 。体重管理も重要で、肥満は心臓に負担をかけるため、年齢や体調に合わせた食事管理を行います 。塩分制限や適切なカロリー摂取を意識した食事療法も心疾患管理の重要な要素です 。