高血糖が犬に与える影響
高血糖による犬の初期症状
犬の高血糖は、初期段階では飼い主が気づきにくい症状として現れます 。最も典型的な症状として多飲多尿があり、血液中の糖分濃度が高くなると、体は余分な糖を尿として排出しようとします 。この際に大量の水分も一緒に排出されるため、おしっこの量が増え、結果として水をたくさん飲むようになります 。
体重減少も重要なサインの一つです 。細胞がエネルギーとしてブドウ糖を利用できないため、代わりに筋肉や脂肪を分解してエネルギーを得ようとします 。そのため、食欲旺盛にもかかわらず体重が減少していくという現象が起こります 。
活動量の低下も見逃せない症状です 。エネルギーが不足するため、愛犬が以前よりも元気がなくなり、遊ぶ量や散歩の時間が減るといった変化が見られることがあります 。これらの症状が複数見られた場合は、速やかに動物病院での検査を受けることが重要です 。
高血糖の原因となる犬の糖尿病
犬の糖尿病は、血糖値を下げるために膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが不足することで発症します 。犬の糖尿病は主に「インスリン欠乏性」と「インスリン抵抗性」の2種類に分けられます 。
参考)https://vetzpetz.jp/blogs/column/dog-diabetes
インスリン欠乏性糖尿病は、膵臓からのインスリン分泌が不足することで発症し、中齢から高齢の犬で多く見られます 。先天的な要因や膵炎、免疫異常などが原因と考えられています 。一方、インスリン抵抗性糖尿病は、ホルモン異常などによって引き起こされ、発情後や妊娠中に発症することもあります 。
特に注目すべきなのが、メス犬における発情後高血糖です 。これは発情後に高血糖になる現象で、これを繰り返しているうちにインスリンの分泌能力が低下して糖尿病に陥ることがあります 。そのため、糖尿病の予防として避妊手術を行うことが推奨されています 。
犬の血糖値検査と診断方法
犬の血糖値の正常範囲は60~120mg/dlとされており、空腹時では60~100mg/dlが目安です 。糖尿病の診断には、血液検査と尿検査が必要不可欠です 。
参考)犬の正常な血糖値はどれくらい? 糖尿病、低血糖のように「血糖…
血液検査では持続的な高血糖が認められ、その他にも高脂血症や低ナトリウム血症、高カリウム血症などが確認されることがあります 。尿検査では持続的に尿糖が陽性になり、糖尿病の犬は膀胱炎を発症していることが多いため、炎症反応や細菌が検出されることもあります 。
さらに詳しい検査として、糖化ヘモグロビン(HbA1c)の測定も行われることがあります 。これは過去2~3か月間の平均血糖値を反映する指標で、長期的な血糖コントロールの評価に有用です 。診断が確定したら、レントゲン検査やエコー検査を行い、肝臓や膵臓、腎臓などの状態を確認し、合併症の有無を調べます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9266505/
高血糖による深刻な合併症
高血糖が持続すると、犬は様々な深刻な合併症を発症するリスクが高まります。最も危険なのが糖尿病性ケトアシドーシスで、これは糖尿病の重大な合併症として知られています 。
ケトアシドーシスは、インスリンの欠乏によって体がブドウ糖の代わりとして脂肪を使うことで生じるケトン体が蓄積し、体を酸性(アシドーシス)に導く状態です 。症状として高血糖、脱水、意識障害、昏睡、ショック状態などが挙げられ、1日~7日という短期間で進行するため 、早期治療が生命を左右します 。
また、白内障も高血糖による重要な合併症の一つです 。糖尿病による高血糖は水晶体の変性を引き起こし、白濁を引き起こします 。特に糖尿病が原因である白内障の場合、症状が急速に現れることが多く、わんちゃんが元気でも1〜2日で視力を失ってしまう可能性があります 。
その他の合併症として、慢性腎臓病やぶどう膜炎、網膜症などの目の病気も発症しやすくなります 。これらの合併症を防ぐためにも、早期発見と適切な治療が極めて重要です。
高血糖の犬に対する治療アプローチ
高血糖の犬の治療は、血糖値のコントロールと合併症の予防を目的として行われます 。犬の糖尿病は膵臓からのインスリン分泌がほとんどない1型糖尿病が多いため、インスリン注射が治療の基本となります 。
インスリン療法では、獣医師が犬の体重や血糖値の推移に合わせて適切な種類のインスリンと投与量を決定し、飼い主が自宅で皮下注射を行います 。毎日決まった時間に、決まった量のインスリンを投与することが血糖値を安定させるために重要です 。第一選択は中間型インスリン製剤であるNPHインスリンですが、小型犬の場合は作用時間が短くなる傾向があるため、持続型インスリンが使用されることもあります 。
参考)イヌの糖尿病の治療法
食事療法も治療の重要な柱です 。糖尿病の犬では、毎回同じ種類のフードを同じ量与え、食べ切ってもらうことが重要で、食物繊維が豊富に含まれた療法食を与えることで食後の急激な血糖値上昇を防ぐことができます 。
参考)犬の糖尿病の原因・症状・治療法、日常生活における注意点を解説…
適度な運動も血糖値のコントロールに効果的ですが、インスリン投与の前後で激しい運動をすると低血糖になることがあるため注意が必要です 。また、メス犬では発情後高血糖を防ぐために避妊手術を行うことが推奨されています 。
参考)自宅での糖尿病管理法