てんかん犬の症状と治療方法
てんかん犬の症状の種類と見分け方
犬のてんかん発作は、脳のどの部分が異常を起こすかによって症状が大きく異なります。発作は主に「全般発作」と「焦点性(部分)発作」の2つに分類されます。
全般発作の症状:
- 意識を失い、全身をぴーんと突っ張る「強直発作」
- 意識を失い、全身をガクガクさせる「間代発作」
- 強直と間代が混ざった「強直間代発作」
- 体の一部または全身の筋肉が瞬間的にピクッと収縮する「ミオクロニー発作」
- 突然力が抜けてバタッと倒れる「脱力発作」
- けいれんを伴わず短時間意識がなくなる「欠伸発作」
焦点性発作の症状:
- 体の一部だけが突っ張る「運動発作」
- 口をくちゃくちゃしたり舌なめずりする「辺縁系発作」
- 何もないのにハエを追うような視線移動をする「Fly-biting」
- 普段おとなしい犬が突然攻撃的になる「攻撃発作」
てんかん発作には周期性があり、発作前の異常な状態(前駆期)、実際の発作期、発作後のもうろう状態(発作後期)という流れで進行します。発作中は飼い主が声をかけても反応せず、1-3分程度続くことが一般的です。
てんかん犬の治療方法と薬物療法
てんかんの治療は主に抗てんかん薬による発作のコントロールが中心となります。治療の目的は発作を完全に止めることではなく、発作の頻度を3ヶ月に1回程度に抑えることです。
主な抗てんかん薬:
- フェノバルビタール:最も一般的に使用される第一選択薬
- ゾニサミド:副作用が比較的少ない
- レベチラセタム:他の薬と併用しやすい
- 臭化カリウム:長期間効果が持続
- ガバペンチン:神経痛にも効果
投薬開始のタイミング:
- 6ヶ月以内に2回以上の発作がある場合
- てんかん重積状態(5分以上続く発作)を経験した場合
- 発作後の異常行動が24時間以上続く場合
- 発作の頻度や持続時間が悪化している場合
- 構造的てんかん(脳腫瘍など)が明らかな場合
治療では血中濃度を一定に保つため、毎日決まった時間に投薬する必要があります。薬の効果確認のため定期的な血液検査も必要で、1回7,000~15,000円程度の検査費用がかかります。
治療費の目安:
体重5kgの犬の場合、薬代だけで月約5,000円以上かかる可能性があります。長期的な治療が必要なため、ペット保険への早期加入も検討すべきでしょう。
てんかん犬の食事療法とMCTオイルの効果
近年、薬物療法に加えて食事療法の有効性が注目されています。特に中鎖トリグリセリド(MCT)オイルを用いたケトン食療法とドコサヘキサエン酸(DHA)の効果が報告されています。
MCTオイルによるケトン食療法:
MCTオイルは犬の薬剤抵抗性てんかん患者における発作頻度を有意に減少させることが証明されています。MCTを配合した犬のてんかん療法食も製品化されており、サニメドの「犬用ニューロサポート」などが利用可能です。
DHAの効果:
東京大学の研究により、特発性てんかんの犬に高用量のDHA(50~100mg/kg)を1日2回投与すると、2~3ヶ月で発作頻度が50%以上減少することが示されました。6例中4例が観察期間を完了し、そのうち3例では月0~1回まで発作が減少しました。
東京大学の犬てんかんDHA研究について詳細な研究結果が掲載されています
ケトン食の特徴:
- 炭水化物とタンパク質に対して脂質の割合を高めた食事
- 内服薬と併用することで相乗効果が期待
- 脳内の代謝を変化させ発作を抑制
これらの食事療法は抗てんかん薬による治療と併用することで、より効果的な発作コントロールが期待できます。
てんかん犬の緊急対応と重積状態への対処
てんかん発作が起きた際の適切な対応は、愛犬の安全と飼い主の冷静な判断が重要です。特に5分以上続く「てんかん重積状態」は生命に関わる緊急事態です。
発作中の対応:
- 犬の周りから危険物を取り除く
- 時間を測定し発作の様子を記録(可能であれば動画撮影)
- 犬に触れず、声をかけず静かに見守る
- 舌を引っ張り出そうとしない(噛まれる危険性あり)
- 発作後のもうろう状態では優しく見守る
緊急時の対応:
発作が5分以上続く場合や短時間に頻発する場合は、迅速な動物病院への搬送が必要です。獣医師が処方したミダゾラムなどの抗てんかん薬を鼻腔内投与するか、静脈注射による治療が行われます。
群発発作への注意:
1日に2回以上の発作がある場合、重積状態に移行する可能性があるため注意深い観察が必要です。発作の記録は診察時に貴重な情報となるため、発作の時間、持続時間、症状の詳細を記録しておきましょう。
発作記録のポイント:
- 発作開始時刻と持続時間
- 発作の種類と症状の詳細
- 発作前後の様子
- 環境要因(ストレス、睡眠不足など)
てんかん犬の予後と日常管理のポイント
適切な治療を受けた特発性てんかんの犬の平均寿命は13.5歳で、犬全体の平均寿命(13.7歳)とほぼ同等であることが報告されています。これは妥当な発作コントロール(3ヶ月に1回以下)が達成された場合の数値です。
日常管理の重要なポイント:
📅 定期的な診察と検査
継続的な管理には定期的な動物病院での診察が欠かせません。血液検査により薬の効果や副作用をモニタリングし、治療計画を見直します。
🍽️ 食事管理
てんかん用療法食の使用や、規則正しい食事時間の維持が重要です。MCTオイル配合のフードは発作抑制効果が期待できます。
😴 ストレス管理
ストレスや睡眠不足は発作のトリガーとなるため、規則正しい生活リズムの維持が大切です。騒音や環境の急激な変化を避けましょう。
💊 服薬管理
抗てんかん薬は血中濃度を一定に保つため、毎日決まった時間に投与する必要があります。自己判断での休薬は絶対に避けてください。
薬剤抵抗性てんかんへの対応:
約30%の犬では適切な薬物治療でも発作コントロールが困難な薬剤抵抗性てんかんが発生します。このような場合、最近では以下のような新しい治療法が導入されています。
- てんかん外科(海馬切除術、脳梁離断術、迷走神経刺激)
- カンナビジオール(CBD)オイルによるサプリメント療法
- 高用量DHAサプリメント
犬猫のてんかん治療における最新の外科的治療法について詳細な学術情報が記載されています
飼い主の心構え:
てんかんは完治が困難な慢性疾患ですが、適切な治療と管理により多くの犬が通常の生活を送ることができます。飼い主の理解と継続的なサポートが愛犬の生活の質向上に大きく貢献します。発作が起きても慌てず、獣医師との連携を密にして長期的な視点で向き合うことが重要です。