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犬回虫の感染経路と卵の生存期間や予防対策

犬回虫の感染経路と卵

犬回虫感染の基礎知識
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虫卵の生存力

排出後1-3週間で感染力を持ち、数年間環境中で生存可能

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主要感染経路

経口感染・経胎盤感染・経乳感染の3つのルート

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人への感染リスク

トキソカラ症として人にも感染し、重篤な症状を引き起こす可能性

犬回虫の卵の特徴と感染可能期間

犬回虫(Toxocara canis)の虫卵は、感染の成立において極めて重要な役割を果たします。排出直後の虫卵には感染力がなく、外界で1~3週間かけて感染可能な状態に発育します。この期間中に虫卵内で感染幼虫が形成され、初めて他の犬や人への感染源となります。
虫卵の環境抵抗性は驚くほど高く、適切な条件下では数年間にわたって感染力を保持し続けます。土壌や砂場などの環境中で長期間生存できるため、一度汚染された場所では継続的な感染リスクが存在します。
特に注目すべきは、虫卵の大きさと形状です。犬回虫卵は直径約85μmの球形で、厚い殻に覆われています。この構造が環境での生存を可能にしており、乾燥や温度変化に対する耐性を与えています。
感染可能な虫卵を識別するには、専門的な糞便検査が必要です。獣医師による顕微鏡検査により、虫卵の存在と成熟度を確認できます。しかし、成犬では虫卵の排出が少なくなるため、検査で陰性でも感染している可能性があります。

犬回虫の主要な感染経路(経口・胎盤・経乳)

犬回虫の感染は主に3つの経路で起こります。最も一般的な経口感染では、犬が感染可能な虫卵を口から摂取することで感染が成立します。汚染された土壌、水、食べ物を通じて虫卵が体内に入り、小腸で孵化します。
経胎盤感染は、感染歴のある母犬において特に重要な感染経路です。妊娠約6週目に、母犬の体内で休眠していた幼虫が再活性化し、胎盤を通じて胎児の肝臓に侵入します。この感染は出生前に起こるため、生後すぐの子犬でも回虫症を発症する可能性があります。
経乳感染では、授乳期間中に母犬の乳汁を通じて幼虫が子犬に移行します。再活性化した幼虫は乳腺に移動し、授乳のたびに子犬の体内に入ります。この感染経路により、母犬が適切に駆虫されていても子犬が感染する場合があります。
待機宿主を介した感染も重要な経路の一つです。ウシやニワトリなどの動物が犬回虫卵を摂取すると、これらの動物の体内で幼虫が被嚢化し、犬がこれらの動物の生肉を摂取することで感染が起こります。
環境からの再感染も頻繁に発生します。一度駆虫されても、汚染された環境に存在する虫卵から再び感染する可能性があるため、継続的な対策が必要です。

犬回虫の年齢による感染パターンの違い

犬回虫感染では、犬の年齢によって体内での幼虫の移行パターンが大きく異なります。この現象は「年齢抵抗性」と呼ばれ、犬の免疫システムの発達と密接に関連しています。
生後2~3ヶ月の子犬では「気管型移行」が主体となります。摂取された虫卵は小腸で孵化し、幼虫は腸壁から血管系に侵入します。その後、肝臓→心臓→肺→気管支→気管→咽頭の順に移動し、再び嚥下されて小腸に到達して成虫となります。この過程は約4~5週間で完了し、虫卵の排出が始まります。
約6ヶ月齢を過ぎた犬では「全身型移行」が主体となります。この場合、幼虫の多くは肺を通過せず、全身の筋肉や臓器に分散して被嚢化し、発育を休止します。成虫への発達はほとんど起こらないため、糞便中への虫卵排出も稀になります。
興味深いことに、被嚢化した幼虫は感染力を保持したまま長期間生存し続けます。雌犬の場合、妊娠時にホルモンの変化により幼虫が再活性化し、胎盤感染や経乳感染の原因となります。
この年齢による違いは診断にも影響します。子犬では糞便検査による虫卵検出が比較的容易ですが、成犬では感染していても検査で陰性となることが多いため、予防的駆虫が重要となります。
免疫系の未熟な子犬では重篤な症状が現れやすく、嘔吐、下痢、発育不良、腹部膨満などが観察されます。大量寄生では腸閉塞を起こす危険性もあります。

犬回虫による人への感染リスクとトキソカラ症

犬回虫は重要な人獣共通感染症の原因となり、人に感染した場合「トキソカラ症」と呼ばれる疾患を引き起こします。人は犬回虫の本来の宿主ではないため、幼虫は適切な発育ができず、様々な臓器に迷入して病害を引き起こします。
人への感染経路は主に3つあります。最も一般的なのは、汚染された砂場や土壌から手指に付着した虫卵を偶然摂取することです。特に幼児は手を口に入れる行動が多いため、感染リスクが高くなります。
犬との濃厚な接触も感染の原因となります。犬を撫でた後の手洗い不足や、犬に口を舐められることで感染が起こる可能性があります。また、ニワトリやウシの肝臓(レバー)の生食も重要な感染経路です。
トキソカラ症は内臓移行型と眼移行型に分類されます。内臓移行型では発熱、食欲不振、倦怠感などの全身症状に加え、幼虫の侵入部位により異なる症状が現れます。肝臓への侵入では肝機能異常、肺では咳や喘息様発作、脳では痙攣やてんかん様症状が起こる可能性があります。
眼移行型は特に深刻で、視力低下や失明に至ることがあります。幼虫が網膜や脈絡膜に侵入することで、不可逆的な視覚障害を引き起こす場合があります。
日本では毎年約10名がトキソカラ症で死亡しており、感染から発症までの期間が長いため「時限爆弾」のような性質を持つ疾患として警戒されています。特に5歳以下の幼児での感染は重篤化しやすく、注意が必要です。
予防には犬の定期的な駆虫、適切な糞便処理、砂場の清潔維持、手洗いの徹底が重要です。また、レバーなどの内臓類は十分に加熱調理することが推奨されます。

犬回虫の予防と環境管理の重要性

犬回虫症の効果的な予防には、定期的な駆虫と環境管理の両方が不可欠です。予防策は犬の年齢や生活環境に応じて調整する必要があります。
子犬の場合、母犬からの感染を考慮して生後3週間以内に初回駆虫を行うことが推奨されます。その後も2~4週間間隔で複数回の駆虫を実施し、成虫が産卵する前に駆除することが重要です。成犬では月1回の定期駆虫が一般的ですが、感染リスクに応じて頻度を調整します。
現在使用される駆虫薬には、イベルメクチン、ミルベマイシンオキシム、パモ酸ピランテル、セラメクチンなどがあります。多くはフィラリア予防薬と併用されており、一剤で複数の寄生虫に対応できる製品が普及しています。
環境管理では、排便後の迅速な処理が最も重要です。虫卵が感染力を持つまでには1~3週間かかるため、24時間以内に糞便を除去すれば感染リスクを大幅に減少できます。
室内環境では、犬の生活エリアの定期的な清掃と消毒が有効です。虫卵は一般的な消毒薬では死滅しないため、物理的な除去が重要となります。高温(80℃以上)での洗浄や、日光による乾燥が効果的です。
屋外環境では、散歩コースや公園での排便マナーの徹底が社会的責任となります。特に子供が利用する砂場や遊び場での排便は避け、万が一排便した場合は確実に除去する必要があります。
多頭飼いの場合は、1頭でも感染が確認されれば全頭の駆虫を同時に行うことが推奨されます。また、新しい犬を迎える際は、事前の健康検査と予防的駆虫を実施することで、既存の犬への感染拡大を防げます。
妊娠犬では、出産前の適切な駆虫により胎盤感染のリスクを軽減できます。ただし、妊娠中に使用できる駆虫薬は限られるため、獣医師との相談が必要です。
埼玉県獣医師会の寄生虫に関する詳細情報
長期的な予防戦略では、地域全体での取り組みが重要です。動物病院、自治体、飼い主が連携して、回虫症の発生率を低下させる努力が求められています。定期的な糞便検査による早期発見と、適切な治療により、犬と人の両方を回虫感染から守ることができます。