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膝蓋骨内方脱臼の全て:小型犬飼い主が知るべき症状と治療法

膝蓋骨内方脱臼とは

膝蓋骨内方脱臼の基礎知識
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病気の概要

膝のお皿が正常な位置から内側にずれる疾患

🐕

好発犬種

トイプードル、チワワ、ポメラニアンなど小型犬に多発

重要ポイント

早期発見と適切な治療で症状悪化を防げる

膝蓋骨内方脱臼の原因と小型犬好発犬種

膝蓋骨内方脱臼は、膝関節の構造的な問題によって引き起こされる疾患です。膝蓋骨(膝のお皿)が大腿骨の滑車溝という溝から内側に外れてしまう状態を指します。

この疾患の主な原因は以下の通りです。

  • 滑車溝の形成不全:膝蓋骨が収まる溝が浅い、または平坦であること
  • 関節包の緩み:膝関節を包む膜が緩んでいること
  • 筋肉の張力バランス異常:内側に引っ張る筋肉の力が強すぎること
  • 脛骨粗面の内方変位:膝蓋骨の靭帯が付着する部分が内側にずれていること

好発犬種として、以下の犬種が特に多く発症することが知られています。

小型犬種

中・大型犬種

多くの症例は先天性と考えられており、遺伝的素因により骨格の成長過程で脱臼しやすい構造になることが原因です。成長期に膝蓋骨周囲の筋肉や靭帯のバランスが崩れることも関与しています。

膝蓋骨内方脱臼の症状とグレード分類

膝蓋骨内方脱臼の症状は、脱臼の程度によって大きく異なります。軽度の場合は無症状のこともありますが、重度になると歩行困難を伴います。

主な症状

  • 間欠的な跛行:外れた時に後肢を上げてしまう
  • スキップ様歩行:一瞬後肢を上げてすぐに普通に歩く
  • パキッという音:膝蓋骨が外れる時の音
  • 段差を慎重に歩く:脱臼を避けようとする行動
  • 腰を落とした歩行:重症例では常に腰を落として歩く

膝蓋骨内方脱臼は重症度により4段階のグレードに分類されます。

グレード 症状の特徴 膝蓋骨の状態
Grade I 通常は無症状、激しい運動後に跛行 触診により脱臼可能、自然整復
Grade II 間欠的な跛行、自然に改善することが多い 運動時や検査時に脱臼
Grade III 慢性的な跛行、骨格変形開始 常時脱臼、手動で整復可能
Grade IV 歩行困難、重度の骨格変形 常時脱臼、整復不可能

Grade IIIやIVでは、脛骨の内旋変形や外反変形などの重度な骨格異常が認められるようになります。また、膝蓋骨が正常な位置にないことで、前十字靭帯断裂を併発するリスクも高まります。

膝蓋骨内方脱臼の治療法:手術適応と術式

膝蓋骨内方脱臼の根本的な治療は外科的治療のみです。保存療法は症状の緩和にとどまり、完治は期待できません。

保存療法

軽度の症例や手術適応外の場合に実施されます。

  • 鎮痛剤の投与:痛みや炎症の緩和
  • 装具の装着:膝蓋骨の安定化
  • 環境改善:滑りにくい床材への変更
  • 体重管理:関節への負担軽減

外科的治療

Grade IIで症状が頻繁な場合、Grade III以上では手術が強く推奨されます。手術では複数の術式を組み合わせて実施します。

主要な術式

  1. 滑車溝形成術
    • 浅い滑車溝を深く形成する手術
    • Roof-fall法により軟骨を温存しながら実施
  2. 脛骨粗面転移術
    • 膝蓋靭帯の付着部を外側に移動
    • 内側への引っ張り力を軽減
  3. 内側支帯解放術
    • 内側の関節包や筋肉を切離
    • 内側への張力を解除
  4. 外側支帯縫縮術
    • 外側の関節包を縫い縮める
    • 膝蓋骨の外側安定化
  5. 脛骨内旋制動術
    • 脛骨の内旋を防ぐ手術
    • スーチャーアンカーと縫合糸を使用

特殊な症例への対応

重症例では追加の処置が必要となることがあります。

  • 再脱臼防止スクリュー:内側滑車稜近位端にスクリューを設置
  • 前十字靭帯再建術:併発症例では筋膜グラフトを使用
  • 矯正骨切術:重度の骨変形がある場合

手術の成功率は非常に高く、Grade IIIまでの症例では90%以上の良好な成績が報告されています。

膝蓋骨内方脱臼の予防とリハビリテーション

膝蓋骨内方脱臼は先天性の疾患であるため、完全な予防は困難ですが、症状の悪化を防ぐ対策は可能です。

予防対策

  • 体重管理:適正体重の維持で関節への負担を軽減
  • 床材の改善:滑りにくいマットやカーペットの使用
  • 適度な運動:筋力維持のための適切な運動
  • 定期検診:成長期は1歳まで定期的にチェック
  • 無理な運動の回避:激しいジャンプや急な方向転換を避ける

リハビリテーション

術後のリハビリテーションは回復を促進し、再発防止に重要です。

術後早期(1-2週間)

  • 安静期間の遵守
  • 傷の管理
  • 軽い関節可動域訓練

術後中期(2-6週間)

  • 徐々に歩行開始
  • 筋力強化訓練
  • マッサージによる血行促進

術後後期(6週間以降)

  • 通常の歩行訓練
  • 筋肉量の左右差改善
  • 正常な歩行パターンの再教育

リハビリの具体的方法

  • 水中歩行療法:関節への負担を軽減しながら筋力強化
  • バランス訓練:不安定な面での立位保持
  • ストレッチング:関節可動域の維持・改善
  • マッサージ:筋肉の緊張緩和と血行促進

多くの症例で術後2-3日で歩行開始、1週間後には正常歩行に近づきます。しかし、重症例や併発症がある場合は、回復により時間がかかることがあります。

膝蓋骨内方脱臼の治療費と飼い主が知るべき注意点

膝蓋骨内方脱臼の治療には、症状の程度や選択する治療法によって様々な費用が発生します。飼い主として知っておくべき重要なポイントを解説します。

治療費の目安

実際の治療費は動物病院や地域によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。

  • 診断費用:レントゲン検査、CT検査など 1-3万円
  • 内科的治療:鎮痛剤、サプリメント 月額5千-1万円
  • 外科手術:片側の手術で15-35万円程度
  • 術後管理:抜糸、リハビリ、定期検診 1-3万円

Grade IVの重症例や両側同時手術の場合、費用はさらに高額になる可能性があります。

ペット保険の活用

膝蓋骨内方脱臼は遺伝的疾患とされることが多く、保険適用の条件は会社によって異なります。

  • 加入前発症:保険適用外となることが多い
  • 加入後発症:条件により適用される場合がある
  • 待機期間:加入後一定期間は適用外

事前に保険会社への確認が重要です。

早期発見の重要性

膝蓋骨内方脱臼は放置すると確実に悪化する疾患です。飼い主が知っておくべき警告サインは以下の通りです。

要注意サイン

  • 散歩中に急に足を上げる
  • スキップのような歩き方
  • 段差を嫌がる
  • 膝を曲げたまま歩く
  • 活動量の減少

定期検診のタイミング

  • 子犬期:3-4ヶ月ごとの検診
  • 成長期:6ヶ月ごとの評価
  • 成犬期:年1回の関節チェック
  • 高齢期:半年ごとの詳細検査

セカンドオピニオンの重要性

膝蓋骨内方脱臼の手術は専門性が高く、病院によって術式や成績に差があります。重要な決断をする前に、複数の獣医師の意見を聞くことをお勧めします。

特に以下の場合はセカンドオピニオンを検討しましょう。

  • Grade IIで手術を迷っている場合
  • 高齢犬での手術適応
  • 両側同時手術を提案された場合
  • 前十字靭帯断裂を併発している場合

術後の長期管理

手術が成功しても、長期的な管理が必要です。

  • 体重管理の継続:肥満は関節に負担をかける
  • 適度な運動の維持:筋力低下を防ぐ
  • 定期的な関節チェック:再発や他の関節疾患の早期発見
  • 環境整備の継続:滑りにくい床材の維持

膝蓋骨内方脱臼は適切な治療により、多くの犬が正常な生活を取り戻せる疾患です。しかし、早期発見と適切な治療選択が成功の鍵となります。愛犬の歩き方に異常を感じたら、迷わず獣医師に相談することが、愛犬の健康な生活を守る最良の方法です。