犬の認知症チェック方法
犬の認知症初期症状の見分け方
犬の認知症(認知機能不全症候群)は、人間の認知症と同様に脳の老化によって引き起こされる疾患です。愛犬の認知症を早期発見するためには、8歳以降に現れる以下の初期症状に注意することが重要です。
方向感覚の喪失による行動変化
- 家の中で迷子になることが増える
- いつも通っている場所で急に立ち止まる
- 部屋の隅でうろうろと歩き回る
- ドアの蝶番側を通ろうとする
- 家具の隙間にはまって出られなくなる
睡眠パターンの変化
- 昼夜逆転のような形で夜中に目を覚ます
- 夜間に落ち着きなく歩き回る
- 昼間はずっと寝ている状態が続く
- 夜鳴きをするようになる
排泄行動の変化
- これまで問題なかったトイレを失敗する
- 家の中で粗相することが増える
- 排泄する場所を忘れてしまう
社会的交流の減少
- 飼い主への反応が鈍くなる
- 以前は喜んで飛びついてきた犬が無関心になる
- 飼い主や同居動物に対して攻撃的になることがある
これらの症状は一つずつ現れることもあれば、複数同時に発生することもあります。毎日愛犬と一緒にいると少しずつの変化に気づきにくいため、定期的なチェックが欠かせません。
犬の認知症DISHAAチェック法
DISHAAは犬の認知症診断における最も信頼性の高いチェックツールの一つです。この方法では、認知機能低下時に現れやすい6つの症状カテゴリーを評価します。
DISHAAの6つのカテゴリー
D:見当識障害(Disorientation)
- 方向やドアの開く方向がわからない
- 床や壁をじっと見つめる
- 視覚や聴覚刺激への反応低下
I:社会的交流(Interaction)
- 飼い主や同居動物への反応が変化
- 過度な依存や攻撃性の増加
- 常に接触したがる行動
S:睡眠/覚醒サイクル(Sleep-Wake Cycles)
- 昼夜逆転の症状
- 夜鳴きの発生
H:粗相、学習と記憶力(Housetraining)
- トイレの粗相が増加
- 寝場所や家を汚す行動
A:活動性(Activity level)
- 無目的な徘徊行動
- 食欲の異常な増加
- 同じ行動を繰り返す
A:不安(Anxiety)
- 理由のない不安や恐怖
- 攻撃的行動の増加
- 分離不安の悪化
DISHAAチェックでは、これらの症状が8歳以降に新たに現れたか、進行してきたかを評価することが重要です。8歳までにその傾向があっても、それ以降特に進行していない場合は該当しないと判定します。
認知症の権威である麻布大学の齋藤弥代子先生監修のセルフチェックツールがベネッセのサイトで利用できます。
犬の認知症100点法による評価
100点法は、動物エムイーリサーチセンターの内野富弥先生によって作成された犬の認知症診断基準です。この方法では10個の項目について5段階で評価し、合計点数で認知機能の状態を判定します。
評価項目と判定基準
主要チェック項目
- 食欲・下痢の有無
- 生活リズムの変化
- 後退行動(方向転換能力)
- 歩行状態の変化
- 排泄状態の変化
- 感覚器異常の有無
- 姿勢の変化
- 鳴き声の変化
判定基準
- 30点以下:正常な老犬
- 31~49点:認知障害予備犬
- 50点以上:認知障害犬
100点法の特徴は、認知症の進行段階を数値化して客観的に評価できることです。また、この判定基準を見ることで、認知障害がどのように進行していくかのおおよその流れを理解できます。
定期的に100点法でチェックすることで、愛犬の認知機能の変化を数値で追跡でき、適切なタイミングで獣医師に相談する判断材料になります。
犬の認知症発症しやすい犬種と年齢
犬の認知症は特定の犬種で発症しやすい傾向があり、年齢とともにリスクが高まることが研究で明らかになっています。
高リスク犬種
日本犬系
- 柴犬:最も発症リスクが高いとされる
- 秋田犬:大型の日本犬でも注意が必要
小型犬
大型犬
- ゴールデンレトリーバー:温厚な性格が症状を見逃しやすい
- ラブラドールレトリーバー:活動性の変化に注意
年齢別発症リスク
- 7~8歳以上:発症リスクが高まり始める
- 12歳以上:症状が顕著に表れる傾向
- 13歳:70%以上が何らかの症状を示す
- 14歳以上:40%の有病率
興味深いことに、日本犬での発症率の高さは遺伝的要因だけでなく、飼育環境や生活習慣も関係している可能性が指摘されています。室内飼いが一般的になった現代では、刺激の少ない環境が認知機能低下を促進する可能性もあります。
また、オスとメスでは若干発症パターンが異なり、オスの方が攻撃性を伴う症状が現れやすく、メスは不安症状が強く出る傾向があることも報告されています。
犬の認知症チェック後の対応策
認知症の疑いが確認された場合、早期対応が愛犬と家族の生活の質を大きく左右します。残念ながら犬の認知症には完全回復する治療法はありませんが、進行を遅らせることは可能です。
即座に取るべき行動
獣医師への相談
認知症様症状を示していても、実際には甲状腺機能低下症や脳腫瘍など他の疾患が原因の場合があります。まずは専門的な診断を受けることが重要です。
環境整備による対策
徘徊対策
- 室内の危険物を除去する
- サークルで安全な範囲を作る
- 滑り止めマットを敷く
- 角にクッション材を設置する
夜鳴き対策
- 睡眠剤や精神安定剤の処方を検討
- 日中の活動量を増やす
- 規則正しい生活リズムの維持
排泄失敗対策
- 犬用オムツの活用
- 防水シートで床を保護
- 行動範囲を制限して清掃しやすくする
薬物療法の検討
現在、犬の認知症に対しては以下の薬物療法が利用されています。
- DHA・EPA配合のサプリメント
- 抗酸化作用のあるビタミンE
- 睡眠障害に対する睡眠導入剤
- 不安症状に対する精神安定剤
これらの薬物は副作用が問題となるケースは稀で、少ない用量から試すことができます。
家族のメンタルケア
認知症の愛犬を介護する家族の負担は非常に大きく、慢性的な睡眠不足や精神的ストレスに陥りがちです。犬を支える家族が倒れては元も子もないため、必要に応じて薬の力を借りることは決して悪い選択ではありません。
認知症は長生きしている犬だけがなれる病気です。あまり悲観的にならず、長生きの証明だと前向きに捉えることで、犬も人もストレスを溜め込むことなく認知症と向き合っていけるでしょう。
定期的なチェックと早期対応により、愛犬との残された時間をより良いものにすることができます。6ヶ月に一度の定期チェックを継続し、変化を見逃さないよう注意深く観察することが大切です。