ネフローゼ症候群の基礎知識
ネフローゼ症候群とは何か
ネフローゼ症候群は、犬の腎臓の糸球体という部分に障害が起こることで、尿中に大量の蛋白質が漏れ出てしまう病態の総称です。この病気は単一の疾患ではなく、複数の症状が組み合わさった症候群として定義されています。
具体的には、高度の持続性蛋白尿とそれによる低蛋白血症(低アルブミン血症)、浮腫、腹水、高コレステロール血症を示す病態に名づけられた病態診断名です。腎臓は血液中の老廃物をろ過して尿を作る臓器で、通常はタンパク質の一種であるアルブミンなどは排泄されず血液中に保たれます。
しかし、この病気では腎臓の糸球体の障害により、本来なら血液中に留まるべきタンパク質が大量に尿中に排泄されてしまいます。この結果、血液中のタンパク質濃度が低下し、体内の浸透圧系に異常が生じるため、様々な症状が現れるのです。
ネフローゼ症候群の症状と診断
ネフローゼ症候群の症状は、蛋白尿の重症度に比例して重度となります。初期症状として体重減少や、四肢や下腹部の皮下浮腫がみられるようになります。これらの症状は目に見えて分かりやすい変化として現れるため、飼い主にとって重要な観察ポイントです。
主な症状には以下のようなものがあります。
- 浮腫症状 🦴
- 四肢の先端(足の先)が冷たくなり、むくみが生じる
- 顔面の浮腫も見られることがある
- 腹部が不自然に膨張する腹水の貯留
- 全身症状 💤
- 食欲不振が続く
- 元気がなくなる、ぐったりしている
- 体重減少が進行する
さらに病態が進行すると、慢性腎不全や尿毒症の症状が見られるようになることもあります。血液凝固亢進の状態が続くと、肺動脈や腹部大動脈の血栓症を発症するリスクも高まります。
また、全身性高血圧症を招き、左心肥大による心悸亢進、不整脈や軽度の心雑音などが聴取されるようになる場合もあります。眼底出血などの眼症状も見られることがあり、合併症の多さがこの疾患の特徴といえます。
ネフローゼ症候群の原因と発症メカニズム
ネフローゼ症候群の主な原因は、糸球体腎炎と腎アミロイドーシスです。糸球体腎炎には、糸球体に直接異常が起こる原発性と、他の疾患から糸球体に炎症が波及する二次性(続発性)があります。
原発性糸球体腎炎の特徴。
- 遺伝性の要因が関与する場合
- 特定の原因が特定できない特発性の場合が多い
- 免疫システムの異常が主要な発症機序
二次性糸球体腎炎の関連疾患。
発症メカニズムとして、低アルブミン血症による血液の膠質浸透圧の低下と腎臓内のナトリウム貯留から浮腫が発症するとともに、高脂血症がみられます。興味深いことに、ネフローゼ症候群で見られる高脂血症では、血中総コレステロール、リン脂質、中性脂肪の全てが増加します。
この高脂血症が起こる原因として、肝臓における蛋白質とリポ蛋白の合成亢進と、それらの異化作用(分子を小さな構成部分に分解してエネルギーを取り出す代謝過程)の低下が関連していると考えられています。
ネフローゼ症候群の治療方法と管理
ネフローゼ症候群の治療は、基礎疾患に対する治療と対症療法を組み合わせて行います。治療の中心は対症療法になり、複数のアプローチが必要です。
薬物療法。
- 利尿剤 💊
- 浮腫に対する投与
- 体液バランスの改善を図る
- ACE阻害薬 🫀
- 高血圧症に対する治療
- 腎保護作用を持つ薬として継続使用
- 免疫抑制剤 🛡️
- 糸球体障害の原因疾患が不明な場合に使用
- 腎生検に基づいた使用が理想的
- 低用量アスピリン療法 🩸
- 血栓症が疑われる場合に実施
食事療法の重要性。
食事療法も重要な治療の一部であり、以下の点に注意が必要です:
- 低ナトリウム食 – 浮腫の予防のため
- 高品質の蛋白質を含む高カロリー食 – 低アルブミン血症の悪化を防ぐ
- 腎臓病用処方食の使用 – 過剰な蛋白質投与による蛋白尿増加を避ける
治療の継続には定期的な診察と各種検査が不可欠で、免疫抑制剤やACE阻害剤については特に慎重な経過観察が必要です。経過は基礎疾患の状態や糸球体が障害を受けている部位、その進行具合によって大きく左右されます。
ネフローゼ症候群の予防と早期発見のポイント
残念ながら、ネフローゼ症候群の特定の予防方法は確立されていません。しかし、早期発見と適切な管理により、愛犬のQOL(生活の質)を維持することは可能です。
定期検査の重要性 🔬。
定期的な尿検査などを行うことで、ネフローゼ症候群だけでなく、ネフローゼ症候群になる前に腎臓の異常を早期に発見できることもあります。特に以下の検査項目が重要です:
- 尿検査 – 蛋白尿の有無と程度を確認
- 血液検査 – アルブミン値とタンパク質レベルの測定
- 血圧測定 – 高血圧の早期発見
日常での観察ポイント 👀。
飼い主が日常的に観察すべきポイントには以下があります。
- 食欲の変化や元気のなさ
- 腹部の膨らみや異常な形状
- 四肢の浮腫やむくみ
- 排尿の回数や量の変化
- 体重の急激な増減
生活環境の管理 🏠。
愛犬の生活環境を整えることも重要な予防策の一つです。
- 清潔な飲み水の提供
- ストレスの少ない生活環境の維持
- 適度な運動と休息のバランス
- 感染症の予防(ワクチン接種等)
症状に気づきにくい場合もあるため、定期的な尿検査が推奨されており、健康診断での早期発見が愛犬の生命を救う鍵となります。疑われる症状が現れた場合は、放置せずに早期に獣医師に相談することが最も重要です。