犬の股関節脱臼について
犬の股関節脱臼の原因と発症メカニズム
犬の股関節脱臼は、大腿骨頭が寛骨臼から完全に外れてしまう状態を指します。股関節は、大腿骨頭と寛骨臼というボールとカップの構造をしており、大腿骨頭靭帯によって固定され、関節包という袋に覆われています。
主な原因 🔍
- 外傷による脱臼
- 交通事故による強い衝撃
- 高所からの落下
- ソファからの飛び降り(小型犬に多い)
- フローリングでの滑り
- 基礎疾患による脱臼
- 股関節形成不全(大型犬に多発)
- レッグ・カルベ・ペルテス病
- ホルモン疾患(副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症)
- 関節の炎症や変性
特に注目すべきは、近年増加している日常生活での脱臼です。中年齢以上のトイ犬種で、ジャンプの失敗やフローリングでの滑りなどの軽微な外力で脱臼が起こるケースが報告されています。これは、もともと股関節を安定化させる構造に問題を抱えている可能性が示唆されています。
犬の股関節脱臼の症状と行動変化
股関節脱臼を発症した犬には、以下のような特徴的な症状が現れます:
急性期の症状 🚨
- 歩行異常
- 脱臼した側の後肢を完全に挙上
- 3本足での歩行(けんけん歩行)
- 足を引きずるような跛行
- 疼痛反応
- 股関節部分を触ると嫌がる、痛がる
- 脱臼の瞬間に「キャン」と鳴く
- 起き上がろうとしても起き上がれない
- 全身症状
- 震えてじっとしている
- 元気がなくなり、食欲が落ちる
- 歩くのを嫌がる
慢性期の症状 📈
股関節形成不全などの基礎疾患がある場合、頻繁な脱臼により痛みに対する感受性が低下し、大きな痛みを感じないこともあります。しかし、変形性関節炎が進行し、慢性的な歩行異常が継続する可能性があります。
脱臼の方向による分類 📊
- 頭背側脱臼:発生率75-80%、最も一般的
- 尾腹側脱臼:発生率25%、小型犬に多い
犬の股関節脱臼の診断方法と検査
股関節脱臼の診断は、複数の検査を組み合わせて行われます:
身体検査 🔍
- 歩行観察
- 歩行パターンの異常を確認
- 体重負荷の状況を評価
- 姿勢の異常をチェック
- 触診検査
- 左右の対称性の確認
- 股関節の可動域測定
- 筋肉の萎縮の有無
- 疼痛反応の評価
画像診断 📱
- レントゲン検査
- 脱臼の確認と方向性の判定
- 骨折の有無の確認
- 股関節の形態的異常の評価
- 変形性関節炎の程度の確認
- CT検査
- より詳細な骨構造の評価
- 手術計画の立案に有用
術前検査 🧪
手術を行う場合は、以下の検査が必要です:
- 血液検査(全身状態の評価)
- 心電図検査
- 胸部レントゲン検査
診断は、脱臼してからの経過時間、既往歴、併発する骨折や基礎疾患の有無などを総合的に評価して行われます。
犬の股関節脱臼の治療選択肢とリハビリ
股関節脱臼の治療は、保存治療と外科治療に大きく分類されます:
保存治療(非観血的整復) 🏥
適応条件:
- 股関節の整合性が保たれている
- 脱臼以外の併発疾患がない
- 受傷後早期(4-5日以内)
- 初回脱臼
治療手順:
- 全身麻酔下での徒手整復
- 包帯による外固定(10-14日間)
- 絶対安静の維持
外科治療(観血的整復) 🔧
適応条件:
- 脱臼を繰り返している場合
- 大腿骨頭が整復できない場合
- 整復後に股関節が不安定な場合
主な手術方法 🛠️
- 股関節温存手術
- トグルピン法:人工靭帯による再建
- 関節周囲スクリュー固定
- 股関節非温存手術
- 大腿骨頭切除術:最も一般的
- 股関節全置換術:専門施設で実施
術後管理とリハビリテーション 💪
リハビリテーションは治療成功の重要な要素です:
急性期リハビリ
- 十分なアイシングによる疼痛緩和
- 患部周辺のマッサージ
- 関節の緩やかな屈伸運動
回復期リハビリ
- 患肢の床への接地練習
- 段階的な体重負荷
- 徐々な歩行訓練
当院のデータでは、適切な手術とリハビリにより、全頭が問題なく歩けるようになっています。特にトグルピン法では、手術から2日後には歩行可能になることもあります。
犬の股関節脱臼予防と日常管理のポイント
股関節脱臼の予防は、飼い主による日常的な環境管理と健康管理が重要です:
環境改善策 🏠
- 高所対策
- ソファや椅子への飛び乗りを制限
- 階段の上り下りを避ける
- 段差部分での抱っこサポート
- 床面対策
- フローリングに滑り止めマット設置
- カーペットの敷設
- 廊下の滑りやすい場所への注意
- 散歩時の注意
- 段差のない散歩コース選択
- 上り坂の積極的な活用(筋力強化)
- リードの確実な装着
体重管理と運動 ⚖️
- 適正体重の維持
- 関節への負担軽減
- 食事量の調整
- 定期的な体重測定
- 筋力維持
- 適度な運動の継続
- 後肢筋力の強化
- 関節可動域の維持
早期発見のための観察ポイント 👀
- 歩行の変化
- わずかな跛行や歩き方の変化
- 後肢の使い方の異常
- 座り方や立ち上がり方の変化
- 定期健康チェック
- 避妊去勢手術時のレントゲン検査
- 生後6-7か月での股関節評価
- 中高齢での定期的な関節チェック
ハイリスク犬への特別な配慮 ⚠️
股関節形成不全やホルモン疾患を持つ犬では、以下の点に特に注意が必要です:
- 小さな段差でも抱っこサポート
- 玄関での飛び降り防止
- 興奮時の制御
- 定期的な獣医師による評価
最新の研究では、遺伝的要因による股関節異常は外見だけでは判断できないため、定期的な専門的評価が重要であることが示されています。
この記事の情報は、愛犬の股関節脱臼に関する正確な理解と適切な対応に役立つはずです。少しでも異常を感じたら、早期の獣医師相談が重要です。