腎臓に水がたまる原因と症状
犬の水腎症(すいじんしょう)は、尿の流出障害によって腎盂が拡張した状態を指します。通常、尿は腎臓で作られ、腎盂で集められ、尿管を通って膀胱に貯留されますが、何らかの原因で尿の通り道がふさがることで、腎臓内部に尿がたまってしまう疾患です。
腎臓に水がたまる水腎症の基本的なメカニズム
水腎症は、尿路の閉塞によって起こる複雑な疾患です。重度になると、腎臓の組織が薄くなり、まるで水風船のような状態になってしまいます。
また、尿管がせきとめられた尿で膨れている状態を水尿管(すいにょうかん)と呼び、水腎症と同時に起こることもよくあります。この疾患の進行により、腎機能が徐々に低下し、最終的には生命に関わる重篤な状態に発展する可能性があります。
症状の現れ方は閉塞の程度や部位によって大きく異なります。片側の尿管閉塞であれば、多くの場合は無症状で推移し、腎盂の拡張によって腎臓が著しく大きくなって初めて発見されることが多いとされています。
腎臓に水がたまる症状の段階的変化
初期段階では明確な症状が現れないことが多く、病気の発見が遅れがちです。しかし、尿路の完全閉塞では、腎盂が拡張する前に尿毒症の症状が見られるようになります。
具体的な症状として以下が挙げられます。
- 食欲不振:最も早期に現れる症状の一つで、84%の犬に見られます
- 元気消失(無気力):77%の犬に見られる一般的な症状です
- 嘔吐:55%の犬に現れ、尿毒症の進行とともに頻度が増します
- 下痢や便秘:消化器系に影響が及ぶことで起こります
- 腹部の膨張:腎臓が大きくなることで腹部が膨らみます
- 疼痛:腹部や腰部に痛みが生じ、触ると痛がります
さらに進行すると、尿臭のする息、体重減少、貧血、不整脈、痙攣などの深刻な症状が現れます。これらは尿毒症の兆候であり、緊急の治療が必要となります。
腎臓に水がたまる原因となる疾患
水腎症を引き起こす原因は多岐にわたります。最も一般的な原因は尿路の閉塞であり、以下のような要因が挙げられます:
結石による閉塞
- 尿路結石
- 腎結石
- 尿管結石
これらの結石は、特定の犬種で好発傾向があります。シーズー、ウェルシュコーギーペンブローク、柴犬、ミニチュアシュナウザー、ヨークシャーテリア、ラサアプソ、パピヨンが特に注意が必要な犬種とされています。
腫瘍による閉塞
- 腎腫瘍
- 尿管腫瘍
- 膀胱腫瘍
その他の原因
- 腎虫
- 血液の固まり
- 外傷
- 神経障害
- ヘルニア
- 先天的な奇形
- 外科手術の合併症
細菌感染を伴う場合は腎盂腎炎の症状も併発し、発熱、食欲不振、嘔吐、多飲多尿などの追加症状が見られることがあります。
腎臓に水がたまる病気の診断方法
水腎症の診断には、複数の検査方法が用いられます。
画像診断
- X線造影検査:拡張した腎盂を検出する基本的な検査
- 超音波検査:非侵襲的で繰り返し実施できる有用な検査
- CT検査:より詳細な画像情報が得られる
ただし、腎障害が重度な場合は、静脈内に入れた造影剤が十分に濾過されず、X線検査では検出できないことがあります。このような場合は、超音波検査がより有効な診断手段となります。
血液検査
腎機能の評価のために、血中尿素窒素(BUN)やクレアチニン値の測定が行われます。これらの値の上昇は腎機能低下を示す重要な指標となります。
尿検査
尿中の異常成分や細菌の有無を調べることで、感染症の併発や結石の種類を特定することができます。
腎臓に水がたまる治療の独自アプローチ
従来の治療法に加えて、最新の研究では犬の水腎症に対する新しいアプローチも注目されています。
低侵襲手術技術の導入
従来の開腹手術に代わり、内視鏡を用いた低侵襲手術が一部の専門施設で実施されるようになってきました。これにより、手術による身体への負担を大幅に軽減することが可能になっています。
再生医療の可能性
海外では、幹細胞を用いた腎機能回復治療の研究が進んでいます。まだ実験段階ですが、将来的には腎組織の再生による根本的な治療が可能になる可能性があります。
栄養療法の重要性
水腎症の治療において、適切な栄養管理は回復に大きな影響を与えます。タンパク質制限、リンの調整、ナトリウム量の管理、必須脂肪酸の補給など、個々の症状に合わせた食事療法が重要です。
犬の水腎症では、片側の尿管が完全に閉塞した後でも、閉塞を1週間以内に解除すれば糸球体濾過量は100%回復し、4週間後の解除でも30%は回復したという報告があります。このことからも、早期発見・早期治療の重要性が理解できます。
治療の基本は尿の流出障害を取り除くことです。尿管結石の場合、尿管を切開して結石を取り出す方法や、結石があった箇所の尿管を切り取って尿管を繋げる方法が採用されます。
しかし、腎盂が著しく拡張し、腎実質がほとんど認められなくなっている場合は、他の臓器への圧迫や細菌感染の温床を防ぐ目的で、水腎化した腎臓を摘出することもあります。ただし、摘出はもう片方の腎臓の機能が維持されていることを確認したうえで行う必要があります。
水腎症の予防には、原因となる疾患の早期発見・早期治療が最も重要です。尿路結石の生成を防ぐためには、結晶ができにくい療法食を与える、おやつを与え過ぎない、十分な水分摂取を促すなど、日頃からの健康管理が欠かせません。
特に飲水量の管理は重要で、水分をたくさん取ることで結石のもととなる物質の濃度を薄めることができます。ウェットフードを与える、ドライフードをふやかして与えるなどして、愛犬の飲水量を確保することが予防につながります。
定期的な健康診断による早期発見と、適切な生活環境の整備により、愛犬を水腎症から守ることができるのです。