オーシストと犬のコクシジウム症対策

オーシストと犬のコクシジウム症

犬のコクシジウム症は、コクシジウムという単細胞の寄生虫によって引き起こされる消化管感染症です 。この病気の最も重要な特徴は、コクシジウムが糞便中に排出する「オーシスト」という卵型の構造物が主要な感染源となることです 。特に子犬において重篤な症状を示すことが多く、適切な知識と対策が必要な疾患といえるでしょう 。

参考）http://www.anicom-sompo.co.jp/doubutsu_pedia/node/937

コクシジウム症の感染経路は主に経口感染で、感染した犬の糞便中に含まれるオーシストを口から摂取することで成立します 。このオーシストは排出直後には感染力を持ちませんが、環境中で一定時間経過すると感染能力を獲得するという特殊な性質があります 。

参考）コクシジウム症｜ペット保険のFPC

オーシストの感染メカニズムと特性

オーシストは、コクシジウムが腸管内で増殖した後に糞便中に排出される卵型の構造物です 。このオーシストの感染プロセスには独特な時間的要素があり、排出された直後は感染力を持ちませんが、約12時間以内に環境中で成熟し、感染能力を獲得します 。

参考）Elanco Logo

感染したオーシストは非常に頑強な構造を持ち、環境中で1～2年間も生存可能とされています 。この長期生存能力により、一度汚染された環境では長期間にわたって感染リスクが持続することになります。また、一般的な消毒薬に対して強い抵抗性を示すため、通常の清拭や消毒では完全に除去することが困難です 。

参考）内科症例｜文京区にある「本駒込動物病院」地域のかかりつけ医　…

オーシストによる感染は、直接的な糞食だけでなく、汚染された足を舐めることや、環境中のオーシストを含む物質を摂取することでも成立します 。さらに、オーシストを摂取したネズミなどの小動物を犬が捕食することでも感染が起こる可能性があります 。

参考）「犬と猫のコクシジウム症」

犬のコクシジウム症における症状と病態

成犬では感染しても無症状であることが多いものの、子犬では重篤な症状を示すことが特徴的です 。主な症状として、水様性または泥状の下痢が最も一般的で、病状が進行すると血液や粘液が混じった血便や粘血便を呈することがあります 。

参考）コクシジウム症 – 文京区の千石ハートワン動物病院｜整形外科…

下痢による脱水症状は子犬にとって特に深刻で、体重減少や栄養失調を引き起こし、重症例では貧血や衰弱状態に陥ることもあります 。さらに、免疫力が低下した状態では、ウイルス感染などの二次感染を併発するリスクも高まります 。

参考）犬のコクシジウム症について

症状の重篤度は、感染したコクシジウムの数、犬の免疫状態、併発感染の有無などによって大きく左右されます 。非衛生的な環境で飼育されている子犬や、既に他の疾患を患っている犬では、致命的な経過を辿ることもあるため注意が必要です 。

参考）犬のコクシジウム症【獣医師執筆】犬の病気辞典

オーシスト検出による診断方法

コクシジウム症の確定診断は、糞便検査によるオーシストの検出によって行われます 。診断には直接法と浮遊法という2つの主要な検査方法があり、直接法では少量の糞便を生理食塩水で希釈して顕微鏡観察を行います 。

参考）獣医師が解説【犬の寄生虫感染症】 コクシジウム症の代表的な症…

浮遊法は、より高い検出率を期待できる方法で、遠心分離などの処理を経てオーシストを濃縮し、検出精度を向上させます 。ただし、オーシストは非常に小さく、一般的な寄生虫卵よりも発見が困難な場合があるため、複数回の検査が必要になることもあります 。

参考）コクシジウム症 [犬]｜【獣医師監修】うちの子おうちの医療事…

重症例や全身症状を伴う場合には、血液検査による全身状態の評価も併せて実施されます 。これにより、脱水の程度や貧血の有無、電解質バランスの異常などを把握し、適切な治療方針を決定することができます。

駆虫薬による治療と対症療法

コクシジウム症の治療には、抗コクシジウム剤として効果的なトリトラズリルが第一選択薬として推奨されています 。この薬剤は、コクシジウムの宿主細胞内寄生ステージ全般に対して広範囲に作用し、1回の投与で効果を示すことが多いとされています 。
従来はサルファ剤が使用されていましたが、現在ではトリトラズリル製剤の有効性が確認され、糞便へのオーシスト排出を減少または停止させる効果が実証されています 。治療期間は通常1～3週間程度で、薬剤によっては単回投与で効果を示すものもあります 。
脱水や栄養失調を伴う重症例では、点滴による水分および電解質の補給が必要となります 。また、血便による貧血が認められる場合には、輸血が検討されることもあります 。対症療法として、消化の良い高栄養食の給与や、下痢止めや制吐剤の併用も行われます 。

二次感染防止と環境管理による予防対策

コクシジウム症の予防において最も重要なのは、環境中のオーシスト数を減らすことです 。感染した犬の糞便は速やかに処理し、オーシストが成熟して感染力を獲得する前に除去することが効果的です 。

参考）鶏コクシジウム症の基礎知識と対策｜畜産ナビ

オーシストの完全な除去には、70℃以上の熱湯または高温スチームによる処理が必要です 。一般的な消毒薬では効果が限定的なため、煮沸処理や高圧蒸気による消毒が推奨されます 。飼育環境の布団や敷物なども、定期的な煮沸消毒を行うことで再感染を防ぐことができます 。

参考）獣医師が解説【猫の寄生虫感染症】 コクシジウム症の代表的な症…

多頭飼育の場合は、感染が確認された犬を他の犬から隔離し、すべての犬に対して予防的な駆虫薬投与を検討することもあります 。また、ネズミなどの小動物が感染源となる可能性もあるため、飼育環境からこれらの動物を排除することも重要な予防策となります 。

参考）猫のコクシジウム症

定期的な便検査による早期発見も予防対策の重要な要素で、症状が現れる前にオーシストを検出し、適切な治療を開始することで重篤化を防ぐことができます 。特に子犬を迎え入れる際や、年1回のワクチン接種時などに定期検査を実施することが推奨されています 。