腹部超音波検査と犬の健康診断
犬の腹部超音波検査は、体内の臓器を非侵襲的に観察できる重要な診断手法です。この検査により、肝臓、腎臓、膀胱、脾臓、胃腸などの腹部臓器の状態を詳細に確認することが可能となります。特に初期症状が現れにくい疾患の早期発見において、腹部超音波検査は極めて有効な役割を果たしています。
現代の獣医療において、腹部超音波検査は広く普及し、その信頼性は47-95%の感度と60-100%の特異性を誇ります。レントゲン検査では確認しにくい軟部組織の詳細な観察が可能で、リアルタイムでの臓器の動きや血流の確認もできるため、多角的な診断情報を提供します。
腹部超音波検査で発見できる犬の隠れた病気
犬の腹部超音波検査では、症状が現れる前の段階で多くの疾患を発見することができます。慢性腎臓病は高齢犬に特に多い疾患で、初期には食欲もあり元気に見えるため見逃されがちですが、超音波検査により腎臓の形状変化や皮質の異常を早期に発見できます。
参考)https://www.mdpi.com/2306-7381/7/4/147/pdf
肝臓疾患についても、血液検査で異常値が出る前に超音波検査で構造的変化を確認できる場合があります。胆泥症は本来さらさらだった胆汁が泥のようになる病気で、超音波検査では非常に発見しやすい疾患の一つです。膵炎は重篤化しやすい病気として知られており、超音波検査により膵臓の炎症状態を的確に評価できます。
参考)【2024年最新】腹部超音波診断の有用性:ペットの健康を守る…
犬の腹部超音波検査における適応症と実施タイミング
犬の腹部超音波検査は、様々な症状や状況で実施が推奨されます。嘔吐や下痢などの消化器症状では胃腸炎や腸閉塞、腫瘍の可能性を評価するために実施されます。食欲不振の場合は膵炎や肝疾患の可能性を確認し、体重減少では内臓腫瘍や慢性疾患の有無を調査します。
定期的な健康診断における実施時期については、小型・中型犬では7歳頃から年1回以上、大型犬では5歳前後からの実施が推奨されています。特定の犬種では遺伝的に腫瘍や内臓疾患のリスクが高いため、より早期からの定期検査が有効です。症状が軽度であっても、腹部超音波検査により原因を特定できれば症状の悪化を防ぐことが可能です。
参考)犬の健康診断は必要?受ける時期から費用や検査項目・保険の活用…
犬の腹部超音波検査の費用と検査前の準備
犬の腹部超音波検査の費用は病院により異なりますが、一般的に3,300円から11,000円程度が目安となります。検査の目的や範囲により費用が変わるため、診察時に獣医師と相談することが重要です。健康診断全体の費用は5,000円から30,000円程度で、検査項目の組み合わせによって大きく変動します。
検査前の準備として、腹部超音波検査では8~12時間の絶食が推奨されます。これは犬のお腹に食べ物があると検査で確認したい部位が隠れてしまう可能性があるためです。検査当日に間違って食べ物を与えてしまった場合は、検査を別日にするか時間を遅らせることになる場合があります。水については、絶水の指示が出ていなければ与えても問題ありません。
参考)犬の健康診断前の絶食はなぜ必要? 検査前にごはんを抜く理由|…
犬の腹部超音波検査で見つかりやすい疾患の詳細
腹部超音波検査では、多様な臓器疾患を発見することが可能です。腎臓関連では腎結石や腎腫瘍、腎嚢胞の診断が行えます。肝臓では肝腫瘍や肝膿瘍、門脈体循環シャントの評価が可能で、特に門脈体循環シャントの検出では94%の正確性を示します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/24/1/24_10/_pdf/-char/ja
消化器系では胃炎や十二指腸炎、慢性腸症の診断に活用されます。腸重積や腸閉塞などの緊急性を要する疾患の迅速な診断にも重要な役割を果たします。膀胱疾患では膀胱結石や膀胱炎、ポリープの存在を確認でき、泌尿器系トラブルの早期発見に貢献します。内分泌系では副腎皮質機能亢進症の診断支援や前立腺肥大の評価、雌犬における子宮蓄膿症の診断にも活用されています。
犬の腹部超音波検査における最新技術と将来性
現在の犬の腹部超音波検査では、従来のBモード検査に加えて造影超音波検査(CEUS)の活用が始まっています。造影超音波検査は主に肝臓腫瘍の診断に適応されますが、膵臓や胆嚢への応用も検討されており、より詳細な病変の評価が可能になりつつあります。
参考)検査・健康診断|山県市の動物病院、鍼灸「たかとみ動物病院」
FAST(外傷超音波検査)は腹腔内の液体の存在を2分間で検出できる迅速な検査法で、わずか2ml/kgの体液を検出することができます。この技術により、従来の身体検査やX線撮影では発見困難な少量の腹水も早期に発見できるようになっています。
カラードップラー機能を活用した血流評価では、臓器の血流異常や血管構造の異常を詳細に観察できます。これにより、腫瘍の血管新生や炎症による血流変化を定量的に評価し、より精密な診断と治療方針の決定が可能となっています。将来的には人工知能を活用した画像解析技術の導入により、さらなる診断精度の向上が期待されています。