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ブラジキニンと犬の血管拡張や炎症反応の関係

ブラジキニンと犬の健康への影響

ブラジキニンが犬に及ぼす主な作用
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心血管系への影響

冠血管拡張作用により心臓の血流を改善する一方、血圧低下や心拍数増加を引き起こす

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炎症反応の調節

血管透過性を亢進させ、炎症性物質の分泌を促進して組織修復に関与

痛み感受性の増強

痛み受容器を刺激し、熱感受性を高めて炎症部位の保護反応を促進

ブラジキニンの犬における心血管系への作用機序

ブラジキニンは犬の循環器系において強力な血管拡張作用を発揮する重要な生理活性物質です。麻酔下グレーハウンド犬における研究では、ブラジキニンが冠循環に対してキニン受容体を介した血管拡張効果を示すことが確認されています。この血管拡張作用は、B2受容体を主体とした受容体機構により調節されており、犬の心筋への血液供給を改善する重要な働きを担っています。

参考)麻酔下グレーハウンド犬における冠循環に対するブラジキニンの効…

ブラジキニンによる血管拡張は、プロスタグランジン(PG)産生を介した機序も関与しています。実験研究では、アスピリン様のPG合成阻害薬によってブラジキニンの血圧降下作用が部分的に抑制されることから、血管拡張作用の一部がプロスタグランジンを介していることが示されています。さらに、高頻度ペーシング誘発心不全モデル犬においては、ACE阻害薬がブラジキニンを介した冠血管拡張反応を増強することも報告されており、心疾患治療における重要な薬理学的基盤となっています。

参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1570291227164026752

ブラジキニンによる犬の炎症反応と皮膚への影響

犬の皮膚線維芽細胞において、ブラジキニンは炎症性酵素であるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現を誘導することが実験的に確認されています。この反応は、プロテインキナーゼCε(PKCε)によるMEK/ERK経路の調節を介して起こり、炎症反応の重要なカスケードを形成しています。ブラジキニンが引き起こす炎症反応は、組織修復と保護のメカニズムの一部ですが、過剰になると病的状態を引き起こす可能性があります。

参考)イヌ皮膚線維芽細胞におけるブラジキニン誘導性のCOX-2発現…

犬のアレルギー性疾患において、肥満細胞から放出される炎症物質の中にブラジキニンが含まれており、これが皮膚炎症やかゆみの原因となることが知られています。肥満細胞腫などの腫瘍性疾患では、ヒスタミンと共にブラジキニンが大量に放出され、周辺組織に炎症を引き起こします。このような病態では、抗ヒスタミン薬や抗炎症薬による治療が必要になる場合があります。

参考)http://torocco-vet.com/case/post-212/

ブラジキニンと犬の疼痛感受性の関係

ブラジキニンは犬における痛み受容器の感受性を著明に増強する作用を持ちます。実験的研究では、ブラジキニンによる痛み受容器の熱に対する反応の感作にはTRPV1(バニロイド受容体1)が必須であることが示されており、炎症性疼痛の重要なメカニズムとなっています。犬の内臓神経を用いた実験では、ブラジキニンに対する痛み受容器の反応がプロスタグランジン受容体EP3のアゴニストによって増強されることも確認されています。

参考)https://ocw.nagoya-u.jp/files/280/K_mizumura.pdf

関節炎を患う犬では、正常な犬と比較してブラジキニンに対する感受性が著明に増大することが報告されています。これは、炎症状態においてB2受容体を介した痛み感受性の変化が起こることを示しています。歯髄痛の研究では、犬において侵害刺激により遊離される内因性発痛物質がブラジキニンであることが確認されており、その産生にはカリクレインという酵素が血管外で作用していることが示唆されています。

参考)https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/31618/03899_Abstract.pdf

ブラジキニン受容体と犬における薬理学的応用

ブラジキニンの生物学的作用は主に2つの受容体サブタイプ、B1とB2を介して発現されます。B2受容体は犬のほとんどの組織に恒常的に発現しており、組織損傷や炎症時のブラジキニン産生に応じて浮腫、痛み、血圧低下などの反応を引き起こします。一方、B1受容体は炎症や組織傷害により誘導される受容体であり、慢性炎症状態で重要な役割を担います。

参考)ブラジキニンって?

犬の僧帽弁閉鎖不全症治療において、ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)はアンジオテンシンII変換酵素の阻害とブラジキニンの分解阻害により血管拡張作用を発揮します。この二重の作用機序により、心臓への負荷軽減と循環改善が期待できます。具体的には、フォルテコール(ベナゼプリル)やアラセプリルなどの薬剤が、ブラジキニンの分解を阻害することで血管拡張効果を増強し、心不全治療において重要な役割を果たしています。

ブラジキニンに関連する犬の病態と治療への応用

犬の関節疾患において、ブラジキニンによる関節疼痛に対してヒアルロン酸が制御作用を示すことが実験的に確認されています。ビーグル犬を用いた研究では、関節内に投与されたブラジキニンによる疼痛反応がヒアルロン酸投与により軽減されることが示されており、変形性関節症や関節炎の治療における新たなアプローチとして注目されています。

参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1573105974197406336

毒蛇咬傷の分野では、マムシに咬まれた犬において、毒成分としてブラジキニンが含まれており、患部の腫脹、嘔吐、下痢、呼吸困難、血圧低下などの症状を引き起こすことが知られています。これらの症状は、ブラジキニンの血管透過性亢進作用や血管拡張作用によるものであり、迅速な獣医療対応が必要な緊急事態となります。また、犬の膵炎においても、ヒスタミンおよびブラジキニン誘発性毛細血管透過性亢進が膵臓の出血性病変に関与するとされ、重篤な消化器症状の原因となることが報告されています。

参考)https://sagami-central-amc.com/clinicnote/pdf/clinicnote06_02.pdf