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播種性血管内凝固犬の症状と治療方法

播種性血管内凝固犬症状治療方法

播種性血管内凝固(DIC)の基本理解
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血栓と出血の矛盾

全身に血栓ができるのに出血も止まらない複雑な病態

緊急性の高さ

診断から治療まで24時間以内の迅速な対応が生死を分ける

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基礎疾患の存在

悪性腫瘍や敗血症など重篤な病気が原因となって発症

播種性血管内凝固犬の基本知識と原因

播種性血管内凝固症候群(DIC:Disseminated Intravascular Coagulation)は、犬の命を脅かす最も重篤な疾患の一つです。この病気は全身の血管内で微小血栓が多発する一方で、血液を固める因子が消費されることで止血機能が著しく低下し、出血が止まらなくなる矛盾した病態を示します。
DICの発症メカニズム
正常な状態では、血液中の血小板と凝固因子がバランスよく働き、血栓の形成を防いでいます。しかし、DICでは何らかの基礎疾患により血液凝固が過剰に活性化され、全身に微小血栓が形成されます。同時に血栓を溶かす線溶系も活性化するため、凝固系と線溶系のバランスが完全に崩れてしまいます。
主要な基礎疾患
DICを引き起こす代表的な基礎疾患には以下があります。

  • 悪性腫瘍:特にリンパ腫と血管肉腫は高確率でDICを誘発
  • 感染症:敗血症、子宮蓄膿症など重篤な細菌感染
  • 免疫介在性疾患溶血性貧血などの自己免疫疾患
  • 急性膵炎:重度の炎症が血管内皮を損傷
  • 外傷・熱傷:広範囲な組織損傷による炎症反応
  • 手術:乳腺全摘術など大規模な外科的介入

研究によると、悪性腫瘍罹患犬では健常犬に比べてトロンビン-アンチトロンビンIII複合体(TAT)が極めて高値を示し、常に凝固亢進状態にあることが判明しています。

播種性血管内凝固犬の症状と診断方法

DICの二大症状
DICには特徴的な二大症状があります。

  1. 微小血栓による臓器障害
    • 腎不全:血尿、乏尿、無尿
    • 肝不全:黄疸、腹水貯留
    • 脳梗塞:意識障害、けいれん、四肢麻痺
    • 呼吸障害:肺血栓塞栓症による重篤な呼吸困難
  2. 凝固因子消費による出血症状
    • 血尿、血便、吐血
    • 皮膚の紫斑(あざ)や点状出血
    • 注射部位からの持続的な出血

症状の進行パターン
初期段階では症状が不明確で「なんとなく元気がない」程度の変化しか見られないことが多く、明確な症状が現れた時点では既に重症化しています。犬では血栓形成傾向が強いDICが多いため、出血症状よりも臓器障害症状が先行することが特徴的です。
診断基準と検査項目
DICの診断には以下の検査項目を総合的に評価します。

  • 血小板数:著明な減少(<100,000/μL)
  • プロトロンビン時間(PT):延長
  • 活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT):延長
  • フィブリン分解産物(FDP):高値
  • アンチトロンビンIII(ATIII):低下
  • フィブリノーゲン:低下または高値

4つ以上の項目に異常があればDIC、2-3項目の場合はpre-DIC(DIC準備状態)と診断されます。2017年には日本血栓止血学会の新基準にTAT(トロンビン-アンチトロンビンIII複合体)が追加され、より早期診断が可能になりました。

播種性血管内凝固犬の治療方法と薬物療法

基礎疾患治療の重要性
DIC治療の根幹は基礎疾患の治療です。しかし、基礎疾患の完治には時間がかかるため、並行してDICに対する緊急治療を実施する必要があります。
抗凝固療法
血栓形成を抑制するため、以下の薬剤が使用されます。

  • ヘパリン製剤
  • 未分画ヘパリン:アンチトロンビン活性を促進
  • 低分子ヘパリン:より安全性が高く効果的
  • 皮下注射または静脈内持続投与
  • 合成プロテアーゼ阻害薬
  • メシル酸ガベキサート(エフオーワイ)
  • メシル酸ナファモスタット(フサン)
  • アンチトロンビン非依存性にトロンビンを抑制

補充療法
消費された凝固因子の補充として輸血療法を実施します。

  • 新鮮凍結血漿:凝固因子とアンチトロンビンの補充
  • 全血輸血:重度の貧血を伴う場合
  • 血小板輸血:血小板数が極度に低下した場合

支持療法

  • 輸液療法:循環不全の改善
  • 酸素療法:呼吸機能の支援
  • 酸塩基平衡の補正代謝性アシドーシスの改善

治療効果の判定には、D-ダイマーやTATの推移を継続的にモニタリングします。

播種性血管内凝固犬の予防と早期発見のポイント

予防の基本原則
DICは基礎疾患から続発する疾患のため、直接的な予防法は存在しません。最も重要なのは基礎疾患の早期発見と適切な治療です。
定期健康診断の重要性
以下の項目を定期的にチェックすることで、DICのリスクとなる基礎疾患を早期発見できます。

  • 血液検査:炎症マーカー、肝腎機能、腫瘍マーカー
  • 画像検査:腫瘍の早期発見
  • 尿検査:腎機能、感染症の評価

高リスク犬種と年齢
DICは全犬種で発症する可能性がありますが、以下の要因がリスクを高めます。

  • 高齢犬:腫瘍発生率の増加
  • 未避妊雌犬:子宮蓄膿症のリスク
  • 免疫力低下犬:感染症への感受性増加

飼い主が注意すべき初期症状
以下の症状が見られた場合は、緊急受診が必要です。

  • 元気食欲の急激な低下
  • 呼吸が荒い、苦しそう
  • 歯ぐきの色が白っぽい
  • 皮膚に小さな出血斑
  • 尿の色が赤っぽい

Pre-DIC段階での発見が治療成功の鍵となるため、些細な変化も見逃さないことが重要です。

播種性血管内凝固犬の治療費と飼い主の心構え

治療費の詳細
DIC治療には高額な医療費が必要です。

項目 費用目安
初診・診察料 2,500円~
血液検査 5,500円~
CT/MRI検査 20,000円~
超音波検査 20,000円~
入院費(1日) 3,000円~
手術費用 50,000円~

集中治療が必要な場合、総治療費は数十万円に及ぶことも珍しくありません。24時間体制での監視と治療が必要なため、入院期間も長期化する傾向があります。
ペット保険の重要性
DICのような突発的で高額な治療費に備えるため、ペット保険への加入を強く推奨します。特に高齢犬や基礎疾患を持つ犬では、保険適用により経済的負担を大幅に軽減できます。
家族との話し合い
DICは予後が極めて不良な疾患です。治療開始前に家族間で以下について話し合っておくことが重要です。

  • 治療方針と費用についての合意
  • 延命治療に対する考え方
  • QOL(生活の質)を重視した判断基準

セカンドオピニオンの検討
DICの診断と治療は専門性が高く、経験豊富な獣医師による判断が治療成績を左右します。可能であれば大学病院や専門病院でのセカンドオピニオンを求めることも選択肢の一つです。
終末期ケアの準備
残念ながらDICの多くは救命困難な状況に至ります。愛犬との最期の時間を大切に過ごすため、在宅でのターミナルケアや安楽死についても事前に情報収集しておくことが、飼い主としての責任ある判断につながります。
日本獣医師会によるペットの終末期ケアに関する詳細情報
https://www.jvma.or.jp/