眼振に困る犬の症状と治療法
眼振の症状と見分け方のポイント
眼振とは、犬の意識とは関係なく眼球が動いたり揺れたりする異常な状態を指します。正常な犬でも見られる生理的眼振と異なり、病的な眼振では以下の特徴が現れます。
参考)【獣医師監修】愛犬の目が揺れている? 獣医師が解説する眼振の…
水平眼振では頭を固定していても目が左右に揺れ続け、垂直眼振は目が上下に動く症状が見られます。さらに回旋眼振では目がぐるぐると回転するように動き、頭位変換誘発性眼振は急に頭を動かした直後に眼振が現れる特殊な症状です。
眼振の症状を正確に観察するため、愛犬の目の動きを動画撮影することが診断に役立ちます。症状の記録は獣医師の診断精度を高め、適切な治療方針の決定に重要な役割を果たします。
参考)犬の眼振と斜頸 考えられる原因と対処法|受診の目安を解説 –…
眼振に伴って現れる症状として、まっすぐ歩けない、立てない状態や首を傾ける斜頸、嘔吐、食欲不振や元気の低下が同時に観察されることが多くあります。
眼振の原因となる前庭疾患の詳細
前庭疾患は眼振を引き起こす最も多い原因のひとつで、内耳の前庭というバランス感覚をつかさどる部位に障害が起きることで発症します。特に老犬に多く見られる特発性前庭疾患では、原因が不明のまま突然症状が現れることが特徴です。
前庭疾患による眼振は、緩徐相が病変側に向かう水平眼振や回転眼振として現れ、病変側への捻転斜頸、前庭性の運動失調、病変側への旋回運動が併発します。これらの症状は前庭系の機能低下により平衡感覚が失われることで生じます。
中耳炎や内耳炎といった耳の感染症が悪化すると、内耳にまで炎症が及んで眼振などの症状が現れます。内耳はバランス感覚をコントロールしているため、感染が波及すると前庭機能に深刻な影響を与えます。
特発性前庭疾患の場合、一般的に2〜4週間で症状が改善する傾向がありますが、食欲不振から栄養失調を起こす危険性があるため早期対策が重要です。
参考)https://www.rakuten.ne.jp/gold/petvery/project/column47/index.html
眼振を引き起こす脳疾患と神経異常
脳の小脳や脳幹に異常がある場合にも眼振や斜頸が発生し、脳腫瘍、脳炎、脳梗塞などが主要な原因として挙げられます。垂直方向の眼振は通常、中枢性(脳)前庭疾患の場合のみに見られる特徴的な症状です。
参考)首が傾く、くるくる回る、老犬に多い突発性前庭疾患 – ふぁみ…
中枢性前庭疾患では末梢性(耳由来)の前庭疾患と異なり、より複雑な神経症状が現れます。脳炎による場合は感染性や免疫介在性の炎症が脳組織にダメージを与え、脳腫瘍では腫瘍の圧迫により正常な神経伝達が阻害されます。
メトロニダゾールなど中枢神経に悪影響を及ぼす薬物の中毒でも眼振が起こり、この場合は原因となる薬物投与の中止が治療の基本となります。頭部の外傷や薬物、中毒物質の影響による眼振も重要な鑑別診断として考慮する必要があります。
代謝性疾患として甲状腺機能低下症でも平衡感覚を失い前庭疾患に分類される症状が現れることがあり、皮膚のむくみ、脱毛、元気消失、心拍数の低下などの症状と併せて血液検査での甲状腺ホルモン測定が診断に役立ちます。
眼振の診断方法と専門検査
眼振の診断では、まず飼い主への詳細な問診を通じて症状の経過や発症状況を把握します。その後、身体検査と神経学的検査を実施し、歩行の様子や姿勢、頭の傾き、眼振などの観察を通じて異常がある場所を特定します。
神経学的検査では眼振の種類や方向、頭部の反応を確認し、前庭機能の状態を評価します。水平眼振、垂直眼振、回旋眼振の違いを正確に判別することで、病変の部位(末梢性か中枢性か)を推定できます。
必要に応じてMRIやCTを用いた画像診断を行い、脳や内耳の状態を詳細に調べます。ただし、CT・MRIは基本的に全身麻酔が必要であることと、設備がある病院が限られているため、まずは除外診断から進めることが一般的です。
血液検査では感染症や中毒の有無を確認し、甲状腺機能低下症が疑われる場合は甲状腺ホルモンを測定します。耳の検査では耳鏡による観察や、必要に応じてオトスコープを使った鼓膜切開による内耳の感染検査も実施されます。
眼振に対する治療法と家庭でのケア方法
眼振の治療法は根本的な原因によって大きく異なります。前庭疾患による場合は吐き気止めなどの対症療法とリハビリテーションが中心となり、脳の異常が原因の場合は薬物療法や放射線治療が選択されます。
特発性前庭疾患に対する特効薬は残念ながら存在せず、ステロイドを使用することもありますが必ずしも治療反応が得られるわけではありません。そのため前庭疾患が原因で起こる症状に対する対症療法が重要になります。
中耳炎・内耳炎による眼振では抗菌薬や抗真菌薬を用いた薬物療法が基本で、内科的治療で改善が乏しい場合は外科手術による治療も検討されます。腫瘍やポリープが発見された場合は外科的切除が必要で、場合によっては全耳道切除術が適応となることもあります。
家庭でのケアとして、ふらつきによる転倒を防ぐため行動範囲を制限し、段差を極力なくし、マットを敷き、鋭利なものを置かない安全な環境づくりが重要です。食事の工夫として、神経症状で上手に食べられない場合は流動食を用意する、フードをふやかす、口元に運んで食事を手伝うなどの対応が必要となります。