犬体を痒がる原因と対処法
愛犬が体を頻繁に掻いたり、口で舐めたり噛んだりしている様子を見ると、飼い主としては心配になりますよね。犬のかゆみは単なる生理的な反応ではなく、多くの場合、何らかの病気や不調のサインです。実は、犬のかゆみの原因として最も多いのは感染症で、全体の約7割を占めています。
犬がかゆがっているサインとして、以下のような行動が見られます。
- 後ろ足で体をカリカリと掻く
- 口を使って患部を舐めたり噛んだりする
- かゆい部位を床や壁にこすりつける
- 足先を頻繁に舐める
これらの症状が見られる場合は、皮膚の状態をチェックし、必要に応じて動物病院での診察を受けることが重要です。
犬体を痒がる感染症の原因と症状
犬のかゆみの原因として最も多いのが感染症です。特に膿皮症とマラセチア皮膚炎が代表的な感染症として挙げられます。
膿皮症は、皮膚に常在している黄色ブドウ球菌が異常に増殖することで起こる皮膚炎です。症状として以下が見られます:
- 赤く小さい点がポツポツと現れる
- 次第にニキビのような乳白色のおできが形成される
- はじけると黄色いフケのようなものが付着する
- 内股や胸、背中などに好発する
膿皮症は気温と湿度の高い夏の時期に発症しやすく、繰り返す場合はアレルギー性皮膚炎やホルモン疾患が根底にある可能性があります。
マラセチア皮膚炎は、マラセチアという酵母菌が皮脂をエサに増殖することで起こります。特徴的な症状は:
- 皮膚の赤みとべたつき
- 首や内股、指の間、耳などに好発
- 体が脂っぽい脂漏症の犬に併発しやすい
- 独特の臭いを伴うことがある
診断は、症状のある皮膚にセロハンテープを当てて染色したものを顕微鏡で観察し、マラセチアを確認することで行われます。
皮膚糸状菌症もかゆみを伴う感染症の一つで、カビの菌が感染することで起こります。初期は脱毛が見られ、次第にかゆみが強くなります。免疫力の低い子犬や老犬、ホルモン疾患を持つ犬に好発し、人間にも感染する可能性があるため注意が必要です。
治療には、薬用シャンプー、抗生剤の内服、消毒薬による清拭などが用いられます。抗真菌薬を含むシャンプーによる週2〜3回の洗浄や、原因となる脂漏のコントロールのためのクレンジングと保湿も重要な治療法です。
犬体を痒がるアレルギー性皮膚炎の特徴
アレルギー性皮膚炎は、犬のかゆみの原因として感染症に次いで多く見られる疾患です。アレルギー性皮膚炎には主に以下の種類があります:
食物アレルギーは、特定の食べ物に対する過敏反応で起こります。特徴として:
- 一年中かゆがる症状が見られる
- 牛肉、鶏肉、乳製品などの一般的なドッグフードの成分が原因となることが多い
- 初発が1歳未満の若い犬に見られやすい
- 目や口の周り、耳に赤みとかゆみが現れる
犬アトピー性皮膚炎は、環境中のアレルゲンに対する反応で起こります。主なアレルゲンには:
- 花粉(特にライ麦花粉は45%の犬で陽性反応)
- ハウスダスト(ヤケヒョウヒダニは91%の犬で陽性反応)
- カビ
- ダニ
アトピー性皮膚炎の症状は、指の間やわきの下、内股、肛門周囲に赤みが見られ、次第に黒ずみが生じます。また、小型犬での発症が多く、マルチーズ、フレンチブルドッグ、ゴールデンレトリーバー、ウエストハイランドホワイトテリアなどの特定の犬種に好発する傾向があります。
ノミアレルギー性皮膚炎は、ノミの唾液に対するアレルギー反応で、ノミアレルゲンは15%の犬で陽性反応を示します。
興味深いことに、アレルギー性皮膚炎の犬の多くは食物と環境の両方にアレルゲンがあると言われており、また、オス犬、室内飼いの犬、ドライフードを与えられている若い犬でアレルギー性皮膚疾患のリスクが高いという統計的な分析結果も報告されています。
治療では、原因となるアレルゲンの特定と除去が最も重要です。アレルギー検査や除去食試験が有用ですが、すべてのアレルゲンを特定できるわけではないため、時間がかかる場合もあります。スキンケアやサプリメントによる皮膚バリア機能の正常化も効果的で、漢方薬を併用してステロイド剤や免疫抑制剤を減らす治療法も行われています。
犬体を痒がる外部寄生虫感染の診断と治療
外部寄生虫による感染は、犬のかゆみの重要な原因の一つです。主な外部寄生虫には以下があります:
疥癬は非常に強いかゆみを引き起こす寄生虫感染症です。特徴として:
- 耳の縁、肘、膝から足首にかけて好発する
- 人間にも移る可能性がある(人獣共通感染症)
- 肉眼では虫体を確認できないほど小さい
- かゆみが非常に強く、愛犬が掻きむしってしまう
ニキビダニ(毛包虫)感染は、免疫力の低下した犬に見られます:
- 四肢端、体幹、顔などに膿皮症に似たニキビ様のぷつぷつが現れる
- 免疫力の弱い子犬や老犬に好発
- ホルモン疾患により免疫力が低下した犬
- 免疫抑制剤を内服している犬にリスクが高い
ノミ・ダニは一般的な外部寄生虫で、散歩中に付着することが多いです。完全な屋内飼育であっても、人が持ち込んでしまう場合があるため、予防が重要です。
診断には「掻把試験」という専用の器具で皮膚をこすり、採取した検体を顕微鏡で観察して虫体を確認する検査が行われます。これらの寄生虫は非常に小さいため、肉眼での確認は困難です。
治療には駆虫薬が使用され、一部のノミ・マダニ予防薬には疥癬やニキビダニを駆虫できるものもあります。定期的な予防薬の投与により、これらの寄生虫感染を防ぐことが可能です。
予防策として以下が重要です。
- 定期的なノミ・ダニ予防薬の投与
- 散歩後の体のチェック
- 他の犬との接触時の注意
- 環境の清潔保持
犬体を痒がる症状の日常ケアと予防法
愛犬のかゆみを予防し、症状を軽減するための日常ケアは非常に重要です。自宅でできる対処法として、以下のような方法があります:
適切なシャンプーケア
- シャンプーの頻度や種類はその子の肌質により異なる
- 薬用シャンプーの使用でかゆみが改善される場合がある
- 過剰なシャンプーや誤った使用方法は症状を悪化させる可能性がある
- 獣医師の指導のもとで適切な方法を学ぶことが重要
皮膚バリア機能の向上
- 皮膚のバリア機能を高めるサプリメントの使用
- 必須脂肪酸の長期的な摂取により、かゆみが軽減される可能性
- 食事療法による栄養バランスの改善
環境管理
- ハウスダストやダニの除去
- 空気清浄機の使用
- 定期的な寝具の洗濯と交換
- 室内の湿度管理(40-60%が理想的)
皮膚の日常観察
愛犬が体を掻いているときは、まずその部分の毛をかき分けて皮膚の状態を確認することが大切です。以下のような症状が見られる場合は動物病院への受診を検討してください:
- 体にポツポツとニキビのようなものができている
- 足先をよく舐めている
- 体をよく掻いており、毛が抜けている
- 体をよく掻いており、皮膚がべたついている
- 耳や目の周りが赤くなっている
- かゆみがあり、フケが出てくる
ストレス管理
意外に知られていないのが、ストレスとかゆみの関係です。内臓の病気やストレスがかゆみの原因になることもあるため、愛犬の生活環境を見直すことも重要です。
注意すべき点
受診する際は、皮膚症状が明確な方が診断しやすくなるため、シャンプーなどのケアを行わず、そのままの状態で動物病院を受診することが推奨されます。
犬体を痒がる時の最新治療法と薬物療法
現代の獣医学では、犬のかゆみ治療において様々な革新的な治療法が開発されています。従来のステロイド治療から、より安全で効果的な治療選択肢が増えています。
最新の注射治療
ロキベトマブという薬剤が注目されています。これは犬の炎症サイトカインに対する抗体製剤で、かゆみを引き起こす物質に直接作用することでかゆみを断ち切ります。特徴として:
- 1ヶ月に1回の注射投与
- ステロイドと比較して副作用が少ない
- 長期間の効果持続が期待できる
- アトピー性皮膚炎に特に効果的
免疫調整療法
免疫を適切にコントロールすることで、かゆみを鎮める治療法です:
- シクロスポリンが最も使用される薬剤
- 免疫異常による特殊な皮膚炎で用いられる
- 長期使用による副作用の監視が必要
- 定期的な血液検査でのモニタリングが重要
栄養療法的アプローチ
必須脂肪酸の長期使用により、かゆみが軽減される可能性があると報告されています。これは炎症を抑制し、皮膚バリア機能を改善する効果があります。
漢方医学の活用
近年、西洋医学と東洋医学を組み合わせた治療が注目されています。漢方薬を併用することで:
- 皮膚の健康状態を整える
- ステロイド剤や免疫抑制剤の使用量を減らす
- 体質改善による根本的な治療効果
個別治療計画の重要性
現代の治療では、一律の治療ではなく、個々の犬の状況に応じたオーダーメイド治療が重要視されています。
- アレルギー検査結果に基づく治療選択
- 犬種特性を考慮した治療計画
- 年齢や免疫状態に応じた薬剤選択
- 飼い主のライフスタイルに合わせた治療継続プログラム
実際の治療では、複数の治療法を組み合わせて使用することが多く、症状の改善度合いを見ながら治療内容を調整していきます。また、治療中は皮膚の状態だけでなく、愛犬の全身状態や生活の質(QOL)の向上も重視されています。
治療の成功には、飼い主と獣医師の密な連携が不可欠で、日々の観察記録や治療への理解と協力が治療効果を大きく左右します。早期発見・早期治療により、多くの場合で症状の改善と快適な生活の実現が可能となっています。