犬の誤嚥性肺炎の症状と原因
犬の誤嚥性肺炎とは何か
犬の誤嚥性肺炎とは、食べ物や水、嘔吐物などが本来通るべき食道ではなく、誤って気管に入り込むことで肺に炎症が起こる病気です。通常、物を飲み込むことを嚥下といい、この過程で気管に異物が入ってしまうことを誤嚥と呼びます。
この病気は急性の呼吸困難(42-55%)、咳(57%)、発熱(31%)などの症状を引き起こし、重症例では突然死や治療後も死に至ることがある深刻な疾患です。犬では比較的遭遇することの多い疾患で、肺炎と診断される犬の中で誤嚥による肺炎はかなり多いと考えられています。
誤嚥したものの内容や量により重症度が異なり、特にpH の低い胃酸の場合は強い炎症を引き起こします。また、食べ物が含まれる場合には細菌の温床となり、二次感染を生じやすくなる特徴があります。
犬の誤嚥性肺炎の主な症状
犬の誤嚥性肺炎では以下のような症状が現れます。
呼吸器症状
- せき込む(特に食後や水を飲んだ後)
- 呼吸が荒く、しんどそうな様子を見せる
- 呼吸時に異常な音がする(ゼーゼー、ヒューヒュー)
- 呼吸困難やチアノーゼ
全身症状
- 発熱(体温上昇)
- 元気がない、ぐったりしている
- 食欲不振
- 横になれず、犬座姿勢をとる
興味深いことに、誤嚥による細菌性肺炎の犬の31〜57%は直腸温も正常で、58%は呼吸数も正常、28〜31%は診断時の肺音も正常であったという報告があり、必ずしも典型的な症状が現れるわけではないことが知られています。
聴診器による検査では、肺音の増加、ウイーズ、クラックルまたはロンカイなどの異常な音が聞こえることが多いとされています。
犬の誤嚥性肺炎の原因とリスク要因
犬の誤嚥性肺炎には様々な原因とリスク要因があります。
基礎疾患によるリスク
医療処置に関連するリスク
麻酔をかけた犬の0.17%で誤嚥性肺炎が発生し、麻酔時間が誤嚥発症リスクと相関しているという報告があります。また、麻薬を用いた麻酔前投与により胃からの逆流や吐出が起こりやすくなることが知られています。
犬種による違い
特定の犬種でリスクが高いことが分かっています。
- 短頭犬種:フレンチ・ブルドッグ、パグなど(短頭種気道症候群のため)
- ダックスフンド:椎間板ヘルニアや慢性鼻炎を生じやすい
- 大型犬:アイリッシュ・ウルフハウンド、ラブラドールなど(喉頭麻痺を生じやすい)
年齢による要因
老犬では嚥下反射や咳反射の低下により誤嚥しやすく、さらに口腔内環境の悪化により感染リスクが高まります。
犬の誤嚥性肺炎診断と治療法
診断方法
診断は主に胸部X線検査が日常的に最も用いられる手法です。誤嚥性肺炎では異常を認める肺の位置に特徴があり、右中葉、右前葉、左前葉後部に好発するとされています。
血液検査では、誤嚥後36時間以上経過して発熱、体温上昇、血液検査での強い炎症反応(白血球の左方移動やCRP上昇)が認められた際には二次感染が疑われます。
治療方法
基本的には支持療法を実施しながら自己治癒を待つことになります。
- 抗生剤投与:二次感染の予防・治療が主体
- 酸素療法:誤嚥性肺炎の79%で低酸素血症が認められるため重要
- 気管支拡張剤:気道収縮期には重要な治療法
- 呼吸理学療法:適切な時期に実施
禁忌治療
利尿剤の投与は禁忌です。肺水腫ではないため、脱水を招き全身状態を悪化させる可能性があります。また、ステロイド剤の投与の有効性は証明されておらず、現時点では推奨されていません。
予後
多くの症例は3〜7日ほどで回復しますが、誤嚥したものの種類や年齢によっては重症化することもあります。ある報告では死亡率は18.4%とされており、決して油断できない疾患です。
犬の誤嚥性肺炎予防の独自視点アプローチ
従来の予防法に加えて、季節ごとの管理と食事環境の最適化という観点からの予防アプローチが重要です。
季節別予防戦略
- 夏季:新鮮な水を常に用意し、冷たすぎない温度で提供。室内の温度と湿度を適切に管理
- 冬季:温かい食事を与えることで飲み込みやすくし、室内の適切な温度保持と加湿を心がける
食事環境の科学的最適化
食器の高さは犬の肩の高さに合わせることが理想的で、この調整により犬が無理のない自然な姿勢で食事を摂ることができ、誤嚥リスクを大幅に減らすことができます。
意外な予防ポイント
- 慢性鼻炎の管理:何度も誤嚥性肺炎を繰り返す犬には慢性鼻炎が隠れていることが多く、その管理が重要
- 口腔ケアの徹底:口腔内環境の悪化が感染リスクを高めるため、定期的な歯磨きや口腔ケアが予防に効果的
- 食事の粒度調整:シニア犬には小粒のフードやぬるま湯でふやかしたフードの提供が効果的
慢性鼻炎についての詳細情報
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