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犬のSFTSの症状と予防法と治療対策まとめ

犬のSFTSの症状と予防と治療

犬のSFTSの基本情報
🦟

感染経路

主にマダニを介して感染するウイルス性疾患

🩺

致死率

犬では約26%(ネコでは64.7%と高い)

⚠️

人獣共通感染症

感染動物から人への感染事例あり

犬のSFTSの症状と特徴的な臨床所見

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、Dabie bandavirus(SFTSウイルス)によって引き起こされるマダニ媒介性の動物由来感染症です。犬がSFTSに感染した場合、以下のような症状が現れます。

主な症状:

  • 元気・食欲の低下(最も一般的な初期症状)
  • 発熱
  • 白血球減少
  • 血小板減少
  • CRPの上昇(犬では特徴的)

犬のSFTSの特徴として、ネコと比較して症例数が少なく、不顕性感染が多いことが挙げられます。これは、犬の体内でウイルスが増殖しても、明確な症状として現れないケースが多いためです。2022年9月までの調査では、ネコで560症例が確認されているのに対し、犬では36症例と少ない傾向にあります。

興味深いことに、富山県の犬の症例では、発症から2ヶ月以上の長期間にわたって尿中にウイルスが検出され続け、持続感染の可能性が示されています。これは臨床現場で見逃されやすい重要な特徴と言えるでしょう。

また、犬のSFTSでは、ネコでよく見られる黄疸や嘔吐などの消化器症状が比較的少ないという特徴があります。このため、単なる体調不良と誤診されるリスクがあるため、マダニの寄生歴や地域的な発生状況を考慮した診断が重要です。

犬のSFTSの感染経路とマダニ対策の重要性

SFTSの主な感染経路は、ウイルスを保有するマダニに咬まれることです。特に西日本を中心に発生が確認されていましたが、近年では東日本や北陸地方でも発生が報告されており、全国的な警戒が必要になっています。

マダニ対策の重要ポイント:

  • 定期的なマダニ駆除薬の投与(月1回の予防が基本)
  • 散歩後のブラッシングと体表チェック
  • 草むらや河川敷などのマダニが生息しやすい場所への立ち入り制限

特筆すべきは、マダニ予防を定期的に実施していた犬でも発症例が報告されていることです。これは、現行のマダニ駆除薬だけでは完全な予防が難しい可能性を示唆しています。

犬の体にマダニが付着しているのを発見した場合、無理に取り除こうとせず、専門の動物病院で処置を受けることが重要です。無理に取り除くと、マダニの口器部分が皮膚内に残り、化膿の原因になったり、マダニの体液が逆流してウイルス感染のリスクが高まる可能性があります。

また、室内飼いの犬でも、散歩などの外出時にマダニが付着する可能性があるため、帰宅後のチェックを怠らないようにしましょう。特に耳の裏や足の間、腹部などのマダニが好む部位を重点的に確認することが大切です。

犬のSFTSの診断方法と検査アプローチ

SFTSの確定診断には、遺伝子検出および抗体検出による実験室診断が必要です。現在、国内の研究機関や国立感染症研究所獣医科学部でこれらの検査が実施されています。

診断に有用な検査項目:

  • PCR検査:ウイルス遺伝子の検出
  • 血清学的検査:抗体の検出
  • 血液検査:白血球減少、血小板減少の確認
  • 生化学検査:CRP上昇、肝酵素の上昇

犬のSFTSを疑う場合の臨床的アプローチとしては、まず発熱や元気・食欲低下などの非特異的症状に注目し、血液検査で白血球減少や血小板減少が認められた場合に、さらに詳細な検査を進めることが推奨されます。

診断の難しさとして、不顕性感染が多いことが挙げられます。つまり、ウイルスに感染していても明確な症状を示さないケースが多く、感染の実態把握が困難です。富山県の調査では、イヌの血清からSFTSウイルスの中和抗体が検出されており、無症状のまま感染・回復している犬が少なくないことが示唆されています。

また、尿中へのウイルス排出が長期間続く可能性があるため、回復後も感染源となるリスクがあります。このため、SFTSが疑われる犬の取り扱いには、回復後も一定期間の注意が必要です。

犬のSFTSの治療法と予後管理のポイント

現在のところ、SFTSに対する特異的な治療法やワクチンは確立されていません。治療は主に対症療法が中心となります。

主な治療アプローチ:

  • 静脈内輸液による脱水の改善
  • 血小板減少に対する支持療法
  • 二次感染予防のための抗生物質投与(必要に応じて)
  • 全身状態の管理と栄養サポート

犬のSFTSの致死率は約26%と報告されており、ネコの64.7%と比較すると低いものの、依然として高い数値です。早期発見と適切な支持療法が予後改善の鍵となります。

治療中および回復期の管理ポイントとして、感染犬の体液(血液、唾液、尿、糞便など)には全てウイルスが含まれている可能性があるため、取り扱いには十分な注意が必要です。特に、獣医療従事者は感染リスクが高いため、適切な防護具の着用と衛生管理が不可欠です。

また、回復した犬でも尿中へのウイルス排出が長期間続く可能性があるため、完全回復の判断には慎重を期する必要があります。富山県で報告された症例では、発症から2ヶ月以上にわたって尿中にウイルスが検出され続けたことが確認されています。このことから、回復後も定期的な検査と経過観察が重要です。

犬のSFTSの人獣共通感染症としてのリスク管理

SFTSは人獣共通感染症であり、感染した犬から人への感染事例が報告されています。2024年の調査では、ペットから人へのSFTS感染事例が少なくとも12件確認され、そのうち1件は死亡例であったことが判明しています。

感染リスク軽減のためのポイント:

  • 犬の体調不良時は直接的な接触を最小限にする
  • 犬の体液(血液、唾液、尿など)との接触を避ける
  • 接触後は必ず手洗いを徹底する
  • 過剰な接触(口移しで食べ物を与える、一緒の布団で寝るなど)を避ける

特に獣医療従事者は、SFTSを疑う犬の診察や処置の際には、適切な個人防護具(手袋、マスク、ガウンなど)を着用し、針刺し事故などによる感染リスクを最小限に抑える必要があります。

また、飼い主への適切な情報提供も重要です。SFTSに感染した犬の看護や介護を行う飼い主に対しては、感染リスクと予防策について十分に説明し、理解を得ることが大切です。特に、犬の体液との接触を避け、接触後の手洗いを徹底するよう指導しましょう。

2023年の調査では、ネコのSFTS発症例が300件を超えていることが判明しており、犬の症例数は少ないものの、今後増加する可能性も考慮する必要があります。獣医療従事者は、この疾患に関する最新情報を常に把握し、適切な診断と治療、そして予防策の提供に努めることが求められています。

犬のSFTSの地域別発生状況と季節性の傾向

SFTSの発生は地域によって差があり、従来は西日本を中心に報告されていましたが、近年では東日本や北陸地方にも拡大しています。特に注目すべきは、富山県ではヒトのSFTS患者の届出がない時点でもイヌのSFTS症例が報告されていることです。

地域別の特徴:

  • 西日本:従来からの発生地域で症例数が多い
  • 北陸地方:石川県や富山県でも症例確認
  • 東日本:千葉県などでも発生が確認されている

季節的には、ネコの症例データから推測すると、2月から発生数が上昇し始め、3〜5月にピークを迎える傾向があります。これはヒトの症例と比較して発生時期が早く始まる特徴があり、犬や猫がマダニを介した自然界でのSFTSウイルスの流行をより早く検出する「センチネル(見張り番)」の役割を果たしている可能性があります。

興味深いことに、千葉県や富山県のイヌ・シカ・イノシシなどの野生動物からもSFTSウイルスの中和抗体が検出されており、これらの地域でもSFTSウイルスが循環していることが示唆されています。このことから、従来SFTSの発生が少ないと考えられていた地域でも、潜在的なリスクが存在する可能性があります。

獣医師は、地域の発生状況を把握し、特に発生リスクが高まる時期には、飼い主へのマダニ対策の強化を促すとともに、不明熱や血小板減少を示す犬に対してはSFTSの可能性も考慮した診断アプローチを心がけることが重要です。

また、地域のSFTS発生状況のモニタリングに協力することで、公衆衛生上の早期警戒システムの一翼を担うことができます。特に新たな地域での初発例の検出は、その後のヒトでの発生を予測する上で重要な情報となります。

犬のSFTSと他のマダニ媒介性疾患との鑑別診断

犬のSFTSの症状は、他のマダニ媒介性疾患と類似している場合があり、正確な鑑別診断が重要です。特に発熱、食欲不振、白血球減少、血小板減少などの症状は、バベシア症やエーリキア症などでも見られます。

主な鑑別疾患:

  • バベシア症:赤血球内寄生虫による貧血が特徴
  • エーリキア症:白血球内に封入体が見られることがある
  • アナプラズマ症:顆粒球内に菌体が観察される
  • 免疫介在性血小板減少症:他の感染症状がなく血小板のみ減少

SFTSの特徴的な所見として、CRPの上昇が高率に認められることが挙げられます。また、バベシア症では貧血が顕著であることが多いのに対し、SFTSでは貧血よりも血小板減少が目立つ傾向があります。

鑑別診断のためには、血液塗抹標本の詳細な観察に加え、特異的な検査(PCR検査など)が必要です。また、地域の発生状況や季節性も診断の手がかりとなります。

興味深い点として、同一の犬が複数のマダニ媒介性疾患に同時感染している可能性もあります。マダニは複数の病原体を保有していることがあるため、一つの疾患が診断されても、他の疾患の可能性も考慮する必要があります。

また、犬のSFTSでは、発症から回復までの期間が比較的長く、尿中へのウイルス排出が長期間続く可能性があるため、回復後も定期的な検査と経過観察が重要です。特に、他のマダニ媒介性疾患と異なり、SFTSでは回復後も感染源となるリスクがあることを認識しておく必要があります。

獣医師は、マダニ媒介性疾患の地域的な発生状況を把握し、症状や検査所見を総合的に評価することで、正確な診断と適切な治療方針の決定に努めることが求められます。

犬のSFTSに関する最新研究と今後の展望

SFTSに関する研究は日々進展しており、特に犬における感染メカニズムや治療法の開発に関して新たな知見が蓄積されています。

注目すべき最新の研究動向:

  • ウイルスの持続感染メカニズムの解明
  • 犬における不顕性感染の実態調査
  • 新たな診断マーカーの探索
  • 治療薬やワクチン開発の取り組み

特に興味深い研究として、犬におけるSFTSウイルスの持続感染のメカニズム解明が進んでいます。富山県で報告された症例では、発症から2ヶ月以上にわたって尿中にウイルスが検出され続けたことが確認されており、このような持続感染が犬の間で一般的なのか、また感染拡大にどのような役割を果たしているのかについての研究が進められています。

また、犬の抗体保有率調査から、多くの犬が不顕性感染している可能性が示唆されています。これは、犬がSFTSウイルスに対して一定の抵抗性を持っている可能性を示すものであり、この抵抗性のメカニズム解明が治療法開発につながる可能性があります。

将来的な展望としては、SFTSに対する特異的な治療薬やワクチンの開発が期待されています。現在、いくつかの抗ウイルス薬の候補物質が研究段階にあり、動物実験での有効性が検討されています。また、ワクチン開発も進められており、将来的には犬や猫、そしてヒトへの応用が期待されています。