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犬の腫瘍は良性と悪性の見分け方と早期発見のポイント

犬の腫瘍と良性悪性の見分け方

犬の腫瘍の基本情報
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発生頻度

犬の腫瘍は加齢とともに発生率が上昇し、特に8歳以上の犬では約50%が何らかの腫瘍を発症します

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良性と悪性の割合

犬の腫瘍全体では約半数が良性、半数が悪性とされていますが、種類によって割合は異なります

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早期発見の重要性

腫瘍の早期発見・早期治療は犬の生存率と生活の質を大きく向上させます


犬の腫瘍は、近年の獣医療の進歩と飼育環境の改善により犬の寿命が延びたことで、診察する機会が増えてきています[4]。犬の体に腫瘍が見つかった場合、まず気になるのはそれが良性なのか悪性なのかという点でしょう。腫瘍の性質によって治療方法や予後が大きく異なるため、正確な見分け方を知ることは非常に重要です。

犬の腫瘍における良性と悪性の基本的な違い

犬の腫瘍を良性と悪性に分ける基本的な違いを理解することは、飼い主が早期発見するための第一歩となります。

良性腫瘍の特徴:

  • 成長がゆっくりしている
  • 境界がはっきりしている
  • 周囲の組織に浸潤しない
  • 転移しない
  • 触ると柔らかく、可動性がある(動かせる)

悪性腫瘍の特徴:

  • 急速に成長する傾向がある
  • 境界が不明瞭なことが多い
  • 周囲の組織に浸潤する
  • 転移する可能性がある
  • 触ると硬く、可動性が乏しい(動かしにくい)

ただし、これらの特徴はあくまで一般的な傾向であり、見た目だけで確実に判断することはできません。例えば、良性腫瘍でも大きくなりすぎると生活に支障をきたすことがあります[3]。また、悪性腫瘍の中には初期段階では良性腫瘍と区別がつきにくいものもあります。

犬の腫瘍を発見したときの触診による見分け方

愛犬の体に腫瘤(しこり)を発見した場合、まず自宅でできる簡単な触診があります。これは獣医師が行う専門的な診断の前段階として役立ちます。

触診のポイント:

  1. 大きさの確認: 直径を測定し記録しておく
  2. 硬さの確認: 指で優しく押してみて硬さを確認
  3. 可動性の確認: しこりが皮膚や下の組織と一緒に動くか確認
  4. 表面の状態: 表面が滑らかか凸凹しているか確認
  5. 痛みの有無: 触ったときに犬が痛がる様子を示すか観察

一般的に、良性腫瘍は柔らかく、動きやすいことが多いのに対し、悪性腫瘍は硬く、動かないことが多いとされています[5]。しかし、これはあくまでも傾向であり、触診だけで確定的な判断はできません。
定期的に腫瘤の大きさを測定し、変化を記録しておくことも重要です。急速に大きくなる腫瘤は悪性の可能性が高いため、早急に獣医師の診察を受けるべきです。また、腫瘤の写真を定期的に撮影しておくと、獣医師が変化を正確に把握するのに役立ちます[5]。

犬の腫瘍の種類別の良性と悪性の特徴と見分け方

犬の体に発生する腫瘍はさまざまな種類があり、発生部位や組織によって特徴が異なります。ここでは代表的な腫瘍の種類と、それぞれの良性・悪性の特徴を解説します。

1. 皮膚腫瘍(体表腫瘤)

犬の腫瘍の中で最も多いのが皮膚腫瘍です。

良性の代表例:

  • 脂肪腫: 中高齢の犬によく見られる柔らかい腫瘤。ほとんどが無症状で、生活に支障をきたさないことが多いですが、大きくなりすぎると外科手術が必要になることもあります[3]。
  • 組織球腫: 若齢の犬によく見られる赤く腫れた丸い腫瘤。急速に大きくなることもありますが、多くの場合1〜2ヶ月ほどで自然に退縮します[3]。

悪性の代表例:

  • 軟部組織肉腫: 皮下に硬く触れる腫瘤として発見されることが多く、筋肉に腫瘍細胞が固着している場合もあり、再発や転移のリスクがあります[3]。
  • 肥満細胞腫: 体表に赤いしこりとして現れ、特にパグやフレンチ・ブルドックといった犬種で好発します[3]。

2. 乳腺腫瘍

乳腺腫瘍は、特に中高齢の未避妊メスに多く見られます。

  • 犬の乳腺腫瘍は約50%が良性、50%が悪性とされています[6][7]。
  • 悪性腫瘍の場合、その半数が転移するとも言われています[7]。

良性乳腺腫瘍の特徴:

  • 小さく(直径1cm程度)、表面が滑らかで柔らかい
  • 周囲との境界がはっきりしており、可動性がある
  • 圧痛はなく、皮膚との癒着もない
  • しこりができている以外、身体的な異常は見られないことが多い[7]

悪性乳腺腫瘍の特徴:

  • 大きくなるスピードが早い
  • しこりの中心や周囲が破れることがある
  • 進行すると自壊して化膿したり、痛みを伴ったりすることもある[7][3]

重要なのは、犬の乳腺腫瘍は良性でも時間経過で悪性に転化する恐れがあるため、早期の外科的切除が推奨されることです[7]。

3. 口腔腫瘍

犬の口腔腫瘍の発生数は10万頭あたり70.4頭であるといわれ、扁平上皮癌、黒色腫、線維肉腫などの悪性腫瘍が多く、一般に予後は不良です[4]。しかし、早期に発見され、広範な浸潤が認められなければ、下顎切除術あるいは上顎の部分切除手術を行うことによって治療可能であることが報告されています[4]。

犬の腫瘍の獣医学的診断方法と確定診断への流れ

自宅での観察や触診だけでは、腫瘍が良性か悪性かを確定することはできません。獣医師による専門的な診断が必要です。

1. 初診時の診察

獣医師は最初に詳細な問診と身体検査を行います。腫瘤の大きさ、硬さ、可動性、周囲の組織との関係などを専門的に評価します[5]。

2. 細胞診(バイオプシー)

腫瘍の性質を詳しく調べるために、細胞診が行われます。細い針を使って腫瘍から細胞を採取し、顕微鏡でその細胞を検査します。細胞診は比較的短時間で結果が得られますが、100%の診断は難しいものの、腫瘍の悪性や良性、さらに腫瘍細胞の種類についての情報が得られます[2][5]。

3. 組織生検

より確実な診断のために、腫瘍と疑われる患部の組織を取り除き、その細胞の種類や組織の変化を顕微鏡で捉えて病気の診断を行います。腫瘍の特定とともに良性病変か悪性かを判定します[2]。
患部の場所にもよりますが、組織(しこりの一部あるいは全部)を採取するため、鎮痛を含めた鎮静または全身麻酔が必要になります。したがって、動物への負担も大きくなりますが、補助治療の必要性などを判断するための大切な検査です[2]。

4. 画像診断

腫瘍の広がりや転移の有無を確認するために、レントゲン検査、超音波検査、CTスキャンなどの画像診断が行われることもあります。特に悪性腫瘍が疑われる場合、転移の有無を確認することは治療方針を決める上で重要です[3]。

犬の腫瘍における血清α1-acid glycoprotein (α1AG)の診断的価値

腫瘍の診断において、近年注目されている指標の一つに血清α1-acid glycoprotein (α1AG)があります。これは獣医学の専門的な分野ですが、飼い主としても知っておくと役立つ情報です。

研究によると、乳腺腫瘍の犬における腫瘍摘出術前後の血清α1AG濃度の動態について、以下のような知見が得られています[1]:

  • 血清α1AG濃度は悪性腫瘍症例で高値を示す傾向がある
  • 良性・悪性腫瘍症例とも手術により血清α1AG濃度は術後2日目に上昇するものの14日目には術前値に戻る
  • 悪性腫瘍症例のうち術後再発・死亡した例では14日目においても血清α1AG濃度は高値を維持する傾向がある

これらの結果から、犬において血清α1AG濃度は腫瘍の進行度、術後の経過観察および予後の診断に有用であることが示唆されています[1]。つまり、単に腫瘍の良性・悪性を判断するだけでなく、治療後の経過を予測する指標としても活用できる可能性があります。

この検査は一般的な動物病院ではまだ広く普及していませんが、専門的な腫瘍治療を行う施設では取り入れられつつあります。愛犬が腫瘍と診断された場合、このような先進的な検査についても獣医師に相談してみるとよいでしょう。

犬の腫瘍の早期発見のための日常的なチェックポイント

犬の腫瘍を早期に発見するためには、飼い主による定期的なチェックが重要です。特に中高齢犬(7歳以上)では、腫瘍の発生リスクが高まるため、より注意深く観察する必要があります。

日常的なチェックポイント:

  1. 定期的な触診
    • 月に1回程度、全身を優しく撫でながら異常がないか確認する
    • 特に皮膚、乳腺、口腔内、肛門周囲などは入念にチェック
  2. 被毛の短い部分の視診
    • お腹や脇の下など、被毛が薄い部分は目視でも確認しやすい
    • 皮膚の色の変化や隆起がないか観察する
  3. 行動の変化に注意
    • 特定の部位を気にして舐める、噛むなどの行動
    • 食欲不振や元気のなさなど、全身状態の変化
  4. 定期健診の活用
    • 年に1〜2回の定期健診で獣医師による専門的なチェックを受ける
    • 高齢犬では半年に1回程度の健診が望ましい

腫瘍を発見したときの記録方法:

腫瘍を発見した場合、以下の情報を記録しておくと獣医師の診断に役立ちます:

  • 発見した日付
  • 腫瘤の位置(写真があるとなお良い)
  • 大きさ(直径をmmやcm単位で)
  • 表面の状態(滑らか、凸凹など)
  • 硬さ(柔らかい、弾力がある、硬いなど)
  • 可動性(動くか動かないか)
  • 犬の反応(痛がるか、気にするかなど)

これらの情報を時系列で記録しておくことで、腫瘤の変化を追跡できます。急速に大きくなる、色が変わる、出血するなどの変化があれば、すぐに獣医師に相談すべきです[5]。

犬の腫瘍の治療選択肢と予後に影響する要素

犬の腫瘍が良性か悪性かによって、治療方法や予後は大きく異なります。ここでは、腫瘍の性質別の一般的な治療選択肢と予後に影響する要素について解説します。

良性腫瘍の治療選択肢:

  1. 経過観察
    • 小さく、成長が遅い良性腫瘍の場合、定期的な観察のみで対応することもある
    • ただし、犬の乳腺腫瘍は良性でも悪性化する可能性があるため、切除が推奨される[7]
  2. 外科的切除
    • 良性腫瘍でも大きくなりすぎると生活に支障をきたす場合は切除が必要[3]
    • 完全に切除できれば再発のリスクは低い

悪性腫瘍の治療選択肢:

  1. 外科的切除
    • 悪性腫瘍の治療の第一選択は外科手術による腫瘍の切除[2]
    • 周囲の健康な組織も含めて広範囲に切除することが多い
  2. 化学療法
    • 手術後の再発や転移防止のために行われることがある[3]
    • 腫瘍の種類によって効果は異なる
  3. 放射線治療
    • 手術で完全に切除できない場合や、特定の腫瘍タイプに対して行われる[3]
    • 専門的な設備を持つ施設でのみ実施可能

予後に影響する要素: