犬 多飲多尿 原因と症状
犬の多飲多尿は、単なる水分摂取の増加ではなく、様々な健康問題の初期兆候である可能性があります。通常、健康な犬が1日に飲む水の量は体重1kgあたり50〜100mlとされています。多飲と判断されるのは、これを超えて体重1kgあたり100ml以上の水を摂取する場合です。例えば、5kgの犬であれば500ml以上、一般的なペットボトル1本以上を1日に飲んでしまう状態を指します。
多飲は多くの場合、多尿(頻繁な排尿)を伴います。多尿の基準は1日に体重1kgあたり60ml以上の尿を排出することです。これらの症状が見られる場合、飼い主さんは愛犬の健康状態に注意を払う必要があります。
多飲多尿は犬の体内で何らかの異常が生じているサインであり、適切な診断と早期の治療が重要です。この症状を見逃さないことが、愛犬の健康を守る第一歩となります。
犬 多飲多尿の主な原因となる病気
多飲多尿を引き起こす主な病気には以下のようなものがあります:
- 糖尿病:インスリンの不足により持続的な高血糖状態となり、多飲多尿を引き起こします。犬の糖尿病は比較的よく見られる疾患で、多飲多尿以外にも体重減少や白内障などの症状を伴うことがあります。
- 慢性腎不全:腎臓の機能が低下することで、水分の再吸収が不十分になり、体に必要な水分も尿として排泄されてしまいます。これにより犬は常に喉が渇いた状態になり、水をよく飲むようになります。
- クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症):副腎皮質からグルココルチコイドが過剰に分泌される病気で、犬では発症率が比較的高いとされています。多飲多尿は最も一般的な症状の一つで、他にも多食、腹部膨満、脱毛などが見られます。
- 子宮蓄膿症:避妊手術を受けていない高齢のメス犬に発生しやすい病気で、子宮内に膿が溜まる状態です。多飲多尿のほか、食欲不振、嘔吐、腹部膨満などの症状を示します。
- 尿崩症:抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌や作用が不足することで起こる病気です。中枢性と腎性の2種類があり、著しい多飲多尿が特徴的な症状です。
これらの病気は早期発見・早期治療が重要です。多飲多尿の症状に気づいたら、できるだけ早く獣医師の診察を受けることをおすすめします。
犬 多飲多尿の測定方法と正常値
愛犬が多飲多尿かどうかを判断するためには、飲水量と排尿量を正確に測定することが重要です。自宅でも比較的簡単に測定できる方法をご紹介します。
飲水量の測定方法:
- ペットボトルなど計量できる容器に水を入れて犬に飲ませる
- 一定時間(24時間など)後に残った水の量を測る
- 元の水の量から残った量を引いて、飲水量を計算する
排尿量の測定方法:
- ペットシートを使用している場合は、使用前と使用後のシートの重さを測る
- その差が排尿量となる(1gが約1mlに相当)
- 24時間分を合計して1日の排尿量を算出する
正常値と異常値の目安:
- 正常な飲水量:体重1kgあたり50〜100ml/日
- 多飲と判断される量:体重1kgあたり100ml以上/日
- 正常な排尿量:体重1kgあたり20〜60ml/日
- 多尿と判断される量:体重1kgあたり60ml以上/日
例えば、10kgの犬の場合、1日1リットル以上の水を飲み、600ml以上の尿を排出していれば多飲多尿の可能性が高いと言えます。
測定結果を記録しておくと、獣医師の診察時に役立ちます。また、尿のサンプルを採取して持参すると、診断がより正確になります。尿は清潔な容器に採取し、冷蔵保存してください。
犬 多飲多尿と季節変動の関係性
犬の多飲多尿は季節によっても変動することがあります。これは病気だけでなく、環境要因も大きく影響するためです。
夏季の多飲多尿:
夏の暑い時期には、体温調節のために犬の飲水量が自然と増加します。犬は汗腺が少なく、主にパンティング(口を開けて舌を出す呼吸)で体温を下げるため、水分を失いやすくなります。そのため、夏季には通常より20〜30%程度飲水量が増えることがあります。
冬季の変化:
冬は一般的に飲水量が減少する傾向にありますが、室内の暖房が効きすぎている環境では、乾燥により喉の渇きを感じて飲水量が増えることもあります。
季節変動と病気の見分け方:
- 季節的な変動:徐々に変化し、気温の変化に比例する
- 病気による多飲多尿:急激に始まることが多く、季節に関係なく継続する
季節的な変動と病気による多飲多尿を区別するポイントとして、以下の点に注意してください:
- 変化の急激さ(急に飲水量が増えた場合は注意)
- 他の症状の有無(食欲不振、嘔吐、元気消失など)
- 尿の性状の変化(色、濁り、臭いなど)
季節による自然な変動であっても、体重1kgあたり120ml以上の飲水が続く場合は、獣医師に相談することをおすすめします。特に高齢犬や持病のある犬は、季節変動による影響を受けやすいため、より注意深く観察する必要があります。
犬 多飲多尿の診断方法と検査内容
多飲多尿の原因を特定するためには、獣医師による適切な診断が不可欠です。診断プロセスは通常、以下のような流れで進められます。
初診時の問診内容:
- いつから症状が始まったか
- 飲水量と排尿量の変化(可能であれば測定値)
- 食欲や体重の変化
- その他の症状(嘔吐、下痢、元気消失など)
- 既往歴や服用中の薬
基本的な身体検査:
- 体温、脈拍、呼吸数の測定
- 体重測定と体型評価
- 腹部触診(腎臓や膀胱の状態確認)
- 口腔内検査(脱水症状の確認)
実施される検査項目:
- 尿検査:比重、pH、タンパク質、糖、ケトン体、潜血などを調べます。尿比重が低い場合は、腎臓の濃縮能力低下を示唆します。
- 血液検査:
- 一般的な血液検査(CBC):貧血や炎症の有無を確認
- 生化学検査:腎機能(BUN、クレアチニン)、肝機能、電解質バランス、血糖値などを評価
- 内分泌検査:
- ACTH刺激試験:クッシング症候群の診断
- 甲状腺機能検査:甲状腺機能亢進症の確認
- 抗利尿ホルモン(ADH)測定:尿崩症の診断
- 画像診断:
- レントゲン検査:腎臓や膀胱の大きさ、結石の有無を確認
- 超音波検査:腎臓、膀胱、副腎などの内部構造を詳細に観察
- CT・MRI検査:より詳細な画像診断が必要な場合に実施
これらの検査結果を総合的に判断して、多飲多尿の原因となっている疾患を特定します。診断が確定したら、その疾患に応じた治療計画が立てられます。
検査費用は病院や地域によって異なりますが、基本的な血液検査と尿検査で1万円前後、内分泌検査や画像診断を含めると3〜5万円程度かかることが一般的です。保険に加入している場合は、これらの検査費用の一部がカバーされることもあります。
犬 多飲多尿の治療法と家庭でのケア方法
多飲多尿の治療は、原因となっている病気によって大きく異なります。ここでは、主な疾患別の治療法と、家庭でできるケア方法についてご紹介します。
疾患別の治療法:
- 糖尿病の治療:
- インスリン療法(通常1日2回の注射)
- 食事療法(特別な療法食の給餌)
- 定期的な血糖値モニタリング
- 治療費目安:月額約2万円(インスリン、検査費用含む)
- 慢性腎不全の治療:
- 腎臓サポート用の療法食
- 水分補給(皮下輸液など)
- 高リン血症や貧血などの二次的症状の管理
- 治療費目安:初期〜中期で月額1〜2万円、末期では月額9万円程度
- クッシング症候群の治療:
- 内服薬によるホルモンコントロール(トリロスタンなど)
- 副腎腫瘍の場合は外科的切除も検討
- 定期的なホルモン値モニタリング
- 治療費目安:内服薬治療で月額2万円程度、手術の場合は30万円以上
- 子宮蓄膿症の治療:
- 外科的治療(卵巣子宮全摘出術)
- 術後の抗生物質投与
- 治療費目安:10万円程度(手術、入院費用含む)
- 尿崩症の治療:
- デスモプレシン(抗利尿ホルモン製剤)の投与(点眼薬または点鼻薬)
- 水分摂取管理
- 治療費目安:月額3万円程度
家庭でのケア方法:
- 水分管理:
- 常に新鮮な水を用意する(水は制限しない)
- 飲水量を記録して変化を観察する
- 複数の場所に水を置いて飲みやすくする
- 排尿環境の整備:
- 頻繁な排尿に対応できるよう、トイレシートを多めに用意する
- 外出時は排尿の機会を増やす
- 夜間も排尿できるよう環境を整える
- 食事管理:
- 獣医師の指示に従った療法食を与える
- 食事の時間と量を一定に保つ
- おやつは病状に合ったものを選ぶ
- 定期的な健康チェック:
- 体重を定期的に測定する(週1回程度)
- 飲水量と排尿量の記録をつける
- 元気、食欲、排便状態などの変化に注意する
- ストレス軽減:
- 静かで落ち着ける環境を提供する
- 規則正しい生活リズムを維持する
- 適度な運動を継続する(病状に合わせて調整)
治療を成功させるためには、獣医師の指示を正確に守り、定期的な通院と検査を欠かさないことが重要です。また、多飲多尿は長期的な管理が必要な場合が多いため、飼い主さんの理解と協力が治療の成否を左右します。
日本獣医学会誌に掲載された犬の多飲多尿症に関する研究論文(詳細な診断アプローチについて記載)
犬 多飲多尿と予防可能な疾患の関係
多飲多尿を引き起こす疾患の中には、適切な予防策を講じることで発症リスクを低減できるものがあります。ここでは、予防可能な疾患と具体的な予防法について解説します。
子宮蓄膿症の予防:
子宮蓄膿症は、避妊手術(卵巣子宮全摘出術)を受けていない高齢のメス犬に多く見られる疾患です。この病気は完全に予防可能です。
- 予防法:若いうちに避妊手術を行う(通常6ヶ月〜1歳頃が推奨)
- メリット:子宮蓄膿症の予防だけでなく、乳腺腫瘍のリスク低減にも効果的
- 手術費用:5〜8万円程度(犬のサイズや病院によって異なる)
- 回復期間:通常1〜2週間程度
腎臓病の予防と早期発見:
慢性腎臓病は完全に予防することは難しいですが、リスク要因を管理することで発症を遅らせたり、早期発見することが可能です。