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毛包虫症(犬)の症状と治療方法|獣医師向け完全解説

毛包虫症(犬)症状と治療方法

毛包虫症(犬)の概要
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原因

デモデックス・カニスによる寄生性皮膚炎で、免疫力低下時に発症

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発症率

母犬からの感染率100%、発症率約30%(主に幼犬期)

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治療

イソキサゾリン系薬剤やイベルメクチンによる駆虫治療が主体

毛包虫症(犬)の基本的な症状と病型分類

毛包虫症は、デモデックス・カニス(イヌニキビダニ)による寄生性皮膚炎であり、臨床的に局所型と全身型の2つの病型に分類されます。

局所型の症状

  • 目の周りや口の周りの限局性脱毛
  • 足先(特に前肢)の脱毛
  • 境界不明瞭な無痒性脱毛斑
  • 色素沈着を伴う慢性化した病変
  • 鱗屑の増加と粗大鱗屑の付着

全身型の症状

  • 急速な病巣の拡大
  • 滲出液を伴う湿疹様病変
  • 深在性膿皮症の併発
  • 潰瘍や瘻管の形成
  • 悪臭を伴う膿汁の排泄

発症年齢は10ヶ月齢未満、特に2~3ヶ月齢での初発が多く、品種による差はほとんど認められません。初発部位は頭部、特に口および眼周囲と前肢端が典型的で、患部と接触しやすい部位に波及していきます。

毛包虫症(犬)の診断方法と検査手順

毛包虫症の確定診断には、虫体の検出が不可欠です。

皮膚掻爬検査

  • 病変部を出血するまで掻爬
  • 10%KOH液を滴下し混和後、顕微鏡検査
  • 卵、幼ダニ、若ダニ、成ダニの確認
  • 初期は虫体数が少ないため、反復検査が重要

毛の採取検査

  • 病変部の毛を引き抜いて顕微鏡観察
  • 毛包内のダニの存在確認

生検検査

  • 必要に応じて皮膚の一部を切り取り詳細検査
  • 組織学的検査による確定診断

細菌検査

膿皮症を併発している場合は、溶血性表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)が高率で分離されます。また、変形菌や緑膿菌の検出もあり、特に緑膿菌による広範囲の深在性膿皮症例は予後不良の傾向があります。

毛包虫症(犬)の治療薬と投与方法

治療は病型と重症度に応じて選択します。

幼犬の局所型治療

  • 軽症例では自然治癒を期待し経過観察
  • 薬用シャンプーによる外用療法
  • アミトラズ(ダニカット)0.025~0.05%乳剤の毎日塗布
  • ネグホン液などの有機リン製殺虫剤の局所塗布

成犬・全身型治療

  • イベルメクチン 200~600μg/kg 週1回または連日投与
  • ミルベマイシンオキシム
  • イソキサゾリン系化合物(最新の治療選択肢)

注意すべき薬剤制限

⚠️ コリー、シェットランドシープドッグではMDR1遺伝子変異により、イベルメクチンで重篤な副作用のリスクがあります

⚠️ フィラリア感染犬では血液検査での確認後に投与

⚠️ 副腎皮質ホルモンは禁忌

併発症の治療

  • 細菌感染:感受性の高い抗生物質の全身投与
  • 深在性膿皮症:5~10%ホウ酸水による洗浄と排膿
  • 局所感染:セファロキシン、リンコマイシン、エリスロマイシンの注入

毛包虫症(犬)の予防対策と飼育管理

毛包虫症の予防は免疫力の維持と適切な飼育環境の整備が基本となります。

免疫力強化対策

  • バランスの取れた高品質なフードの給与
  • 必要に応じたビタミン・ミネラルサプリメントの追加
  • 十分な運動と遊びの時間確保
  • ストレス要因の軽減と安心できる環境整備

衛生管理

  • 定期的なブラッシングとシャンプー
  • 抗寄生虫薬を含むシャンプーの使用
  • 飼育スペースの定期的な清掃と消毒
  • ベッドやクッションの洗浄・消毒

定期健康診断

  • 免疫力低下犬や高齢犬の定期検査
  • 早期発見・早期治療の重要性
  • 他の皮膚病予防(ノミ・ダニ駆虫など)

繁殖管理

局所型毛包虫症に罹患した雌犬は、遺伝的素因の可能性を考慮し、繁殖には使用しないことが推奨されます。

毛包虫症(犬)の予後と再発防止のポイント

毛包虫症の予後は一般的に良好で、適切な治療により多くの症例で治癒が期待できます。

年齢別予後

  • 若齢犬:おおよそ2歳までには治癒することが多い
  • 高齢犬:背景疾患のコントロールにより症状改善が見られる
  • 老化に伴う免疫機能低下例:継続治療によりQOL維持が可能

治癒判定と管理

治療開始3~8週で病巣拡大がなく、被毛の発生が認められれば治癒と判定できます。ただし、完全駆虫は必ずしも必要ではありません。

再発防止のための長期管理

  • 免疫抑制薬の長期使用回避
  • ストレス管理の継続
  • 定期的な皮膚検査
  • 基礎疾患の適切な管理

飼い主指導のポイント

一度治癒すれば再発は少ないものの、免疫力の維持が重要であることを飼い主に十分説明し、日常的な健康管理の重要性を理解してもらうことが大切です。

治療期間中は定期的な経過観察を行い、薬剤の副作用や治療効果を慎重にモニタリングしながら、個体に最適な治療プロトコルを選択することが成功の鍵となります。