甲状腺ホルモンと犬の健康管理
甲状腺ホルモンの基本的な働きと犬への影響
甲状腺ホルモンは、犬の首の前側に左右一対で位置する甲状腺から分泌される重要なホルモンです 。主にサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の2種類があり、T4は主に甲状腺から分泌され、体内でより作用の強いT3に変換されます 。
参考)犬の甲状腺機能低下症とは?犬に多く見られる内分泌疾患を解説【…
このホルモンは犬の体において以下のような重要な機能を担っています。
- 代謝促進機能:エネルギーの産生、蛋白や酵素の合成、炭水化物や脂質の代謝を活発にします
- 体温調整機能:体温の維持と調整に深く関与しています
- 皮膚・被毛の健康維持:皮膚や被毛の新陳代謝やターンオーバーを正常に保ちます
甲状腺ホルモンの分泌は、脳の下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)によってコントロールされており、精密なフィードバック機構によって調整されています 。
甲状腺機能低下症の症状と犬への深刻な影響
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が少なくなることで起こる疾患で、犬では時々見つかるホルモンの病気です 。特に中高齢犬に多く見られ、大型で純血の犬に多いと言われています 。
参考)犬の甲状腺機能低下症
典型的な症状には以下があります。
- 活動性の低下:元気がなくなり、散歩を嫌がったり寝ている時間が増えます
- 体重増加:食事量は変わらないのに太ってしまいます
- 悲劇的顔貌:顔が腫れぼったく悲しそうな表情に見えるようになります
- 皮膚・被毛の異常:脱毛、乾燥、皮膚炎、膿皮症を繰り返すことがあります
- 寒がり:寒さに敏感になり、暖かい場所を好むようになります
甲状腺機能低下症は日本国内では副腎皮質機能亢進症についで2番目によく見られる犬の内分泌疾患という報告もあります 。
参考)【獣医師監修】最近老けてきた?愛犬の甲状腺ホルモンが異常かも…
甲状腺ホルモン検査による早期発見方法
甲状腺機能低下症の診断には、血液検査による甲状腺ホルモンの測定が不可欠です 。主要な検査項目は以下の通りです:
基本的な検査項目。
- T4(総サイロキシン):甲状腺から直接分泌されるホルモン
- fT4(遊離T4):生物学的に活性な形のT4で、より信頼性が高い指標
- TSH(甲状腺刺激ホルモン):脳下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺機能低下時に上昇
診断における重要なポイントとして、T4およびfT4が低値を示し、TSHが高値を示す場合に甲状腺機能低下症が疑われます 。ただし、甲状腺機能低下症の犬の約1/4はTSHの上昇が見られないため、複数の検査を組み合わせることが重要です 。
参考)犬に多い甲状腺機能低下症の治療法|老化に似た症状が見られる?…
また、甲状腺機能低下症の犬のうち75%で高コレステロール血症が見られると報告されており、血液生化学検査も診断の補助として有用です 。
甲状腺機能低下症の治療と長期管理
甲状腺機能低下症の治療は、ホルモン補充療法が基本となります 。最も一般的に使用される薬剤は、合成サイロキシン(レボチロキシンナトリウム)です 。
参考)犬の甲状腺機能低下症の症状や原因、治療法について獣医師が解説…
治療の特徴。
- 生涯治療:甲状腺の機能を回復させることは困難なため、生涯にわたって治療を続ける必要があります
- 個別調整:投薬量は犬の体重や症状に応じて調整されます
- 定期モニタリング:2-4週間ごとに血液検査を行い、ホルモンレベルをモニタリングします
治療効果は良好で、適切な治療により症状は大幅に改善し、犬はほぼ通常の生活を送ることが可能です 。投薬から数週間で改善する症状もありますが、数か月を要するものもあります 。
参考)https://hoken.kakaku.com/pet/dog_injuries/hormone/kojosen/
食事療法として、甲状腺機能をサポートする栄養バランスの取れたフードの選択や、ヨウ素を含むサプリメントの獣医師指導下での使用も推奨されています 。
甲状腺ホルモン異常が犬の日常生活に与える意外な影響
甲状腺ホルモンの異常は、一般的に知られている症状以外にも、犬の日常生活に様々な意外な影響を与えることが研究で明らかになっています。
行動面への影響。
甲状腺機能低下症の犬では、興奮、鳴き声、一人でいるときの排尿などの行動が頻繁に観察されることが報告されています 。また、注意を引こうとする行動も一般的に見られる特徴です 。
参考)302 Found
生殖機能への影響。
甲状腺ホルモンは精子の質にも生理学的に影響を与え、テストステロン濃度を変化させることで、精子の運動性、生存性、精液量などの様々な精液パラメータに影響を与えることが研究で示されています 。
参考)https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/1828051X.2021.1911695?needAccess=true
酸化ストレスへの影響。
甲状腺機能低下症の犬では、血清や唾液中の酸化ストレスマーカーに変化が見られることが報告されており、これは犬の生活の質に有害な影響を与える可能性があります 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9896751/
他疾患との関連性。
関節炎などの非甲状腺疾患を持つ犬では、甲状腺機能検査の結果に影響が出ることがあり、甲状腺機能低下症の過剰診断のリスクが高まることが知られています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC340149/
これらの多面的な影響を理解することで、より包括的な犬の健康管理が可能になります。早期発見と適切な治療により、犬の生活の質を大幅に改善することができるため、定期的な健康診断での甲状腺ホルモン検査の重要性が高まっています 。