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クームス試験と犬の免疫介在性溶血性貧血診断

クームス試験と犬の免疫介在性溶血性貧血

犬のクームス試験について
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診断の重要性

免疫介在性溶血性貧血の確定診断に必要な特殊検査

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検査方法

直接法と間接法の2つの検査手法で詳細に評価

早期診断

迅速な診断により適切な治療法の選択が可能

クームス試験の基本的仕組みと犬における意義

クームス試験(抗グロブリン試験)は、犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の診断において極めて重要な検査です 。この検査は、赤血球表面に付着している抗体(IgG、IgM)や補体(C3)を検出するために開発された特殊な血液検査法で、自己免疫反応による赤血球破壊を客観的に証明する唯一の方法とされています 。

参考)免疫学検査:自己免疫

犬のIMHA診断におけるクームステストの感度は61~82%、特異度は95~100%と報告されており、偽陽性が極めて少ない信頼性の高い検査として位置づけられています 。正常な状態では、犬の赤血球は自己抗体と結合していませんが、免疫システムの異常により自身の赤血球を異物と認識してしまった場合、抗体が赤血球表面に付着し、この検査で検出されるのです 。
検査は温式(37℃)と冷式(4℃)の2つの温度条件で実施され、64倍以上の希釈で凝集が確認された場合を陽性と判定します 。この温度条件の違いにより、異なるタイプの自己抗体を識別することが可能で、治療方針の決定にも重要な情報を提供します。

クームス試験における直接法と間接法の違い

犬のクームス試験には直接クームステスト間接クームステストの2つの方法があり、それぞれ異なる目的で実施されます 。直接クームステストは、赤血球表面に現在付着している自己抗体や補体成分を直接検出する方法で、IMHAの確定診断に最も重要な検査です 。

参考)http://senoopc.jp/exam/cooms.html

一方、間接クームステストは、血清中に遊離状態で存在する抗赤血球抗体を検出する検査法です 。この検査では、患者の血清を正常な検査用赤血球と反応させ、抗体が結合するかどうかを確認します。直接法が「現在起きている」免疫反応を示すのに対し、間接法は「将来起こり得る」免疫反応の可能性を評価する点で大きく異なります 。

参考)免疫血液学検査(免疫血液検査 / Immunohematol…

犬の診療現場では、直接クームステストがIMHAの診断に主に使用され、間接クームステストは輸血前の交差適合試験や不規則抗体のスクリーニングに応用されています 。最近の研究では、犬のクロスマッチにおいてクームス血清を用いることで、従来法では検出できないIgG型の不適合を発見できることが報告されています 。

参考)クロスマッチとクームス血清

犬の免疫介在性溶血性貧血診断における球状赤血球の評価

クームス試験とともに、犬のIMHA診断では球状赤血球の出現頻度が重要な指標として評価されます 。正常な犬の赤血球は中央部にくぼみ(セントラルペーラー)を持つ特徴的な形状をしていますが、免疫反応により部分的に貪食された赤血球は、このくぼみが失われて球状に変化します 。

参考)早期診断が鍵となる!犬の免疫介在性溶血性貧血(IMHA)の病…

研究により、顕微鏡の対物レンズ100倍で1視野あたり5個以上の球状赤血球が確認された場合、IMHAの診断を強く支持する所見とされています 。球状赤血球≧5個/視野の基準では感度63%、特異度95%、より厳しい≧3個/視野の基準では感度74%、特異度81%と報告されています 。
球状赤血球は変形能力に乏しく、脾臓内で捕捉されやすいため血管外溶血を引き起こします 。このため、球状赤血球の増加、赤血球自己凝集、直接クームス試験の3つの評価項目のうち2つ以上が陽性の場合、IMHAの診断が強く示唆されます 。

犬の品種別発症傾向とクームス試験の臨床応用

犬のIMHAには明確な品種傾向があり、コッカー・スパニエル、プードル、マルチーズ、シー・ズー、フラットコーテッド・レトリーバーなどで発症率が高いことが知られています 。また、2~8歳の中年齢期で発症しやすく、雌犬の発症率は雄犬の3~4倍高いという性差も報告されています 。

参考)免疫介在性溶血性貧血 / 犬の病気|JBVP-日本臨床獣医学…

これらの好発品種では、定期的な健康診断時にクームス試験を含む血液検査を実施することで、無症状の段階でIMHAを早期発見できる可能性があります 。特に、食欲不振、元気消失、運動不耐性といった非特異的症状が見られた場合、迅速なクームス試験により確定診断が可能です 。

参考)犬の溶血性貧血について|にゅうた動物病院|相模原市 相模大野…

臨床現場では、赤褐色尿や黄疸といった明確な症状が現れる前に、粘膜の蒼白化や歯茎の色調変化に注意深く観察することが重要です 。これらの初期症状段階でクームス試験を実施することにより、劇症型への進行を防ぎ、治療成績の向上につながります。

クームス試験結果に影響する要因と検査時の注意点

犬のクームス試験の結果には、さまざまな要因が影響を与える可能性があります。薬剤性溶血性貧血では、特定の薬物が赤血球表面に付着し、それに対する抗体が形成されることでクームス試験が陽性となることがあります 。また、感染症や腫瘍が原因となる二次性IMHAでは、原疾患の治療と並行してクームス試験による免疫状態の評価が必要です 。

参考)獣医師が丁寧に解説

検査の信頼性を確保するため、検体の取り扱いには細心の注意が必要です。EDTA全血を室温で保存し、採血後速やかに検査を実施することが推奨されています 。検査過程では、赤血球の洗浄が不十分な場合や試薬の劣化により、偽陰性結果が生じる可能性があるため、クームスコントロール血球を用いた品質管理が重要です 。

参考)国試レベルでクームス試験(直接/間接 抗グロブリン試験)をわ…

近年の研究では、フローサイトメトリー法を用いたクームス試験の改良版も開発されており、従来法と比較して感度67-100%、特異度87.5-92%の高い診断精度が報告されています 。これらの新しい検査法により、より正確で迅速な診断が可能になりつつあります。