認知機能低下の犬への対策
認知機能不全症候群の症状と進行度
愛犬の認知機能低下は人間のアルツハイマー病に似た病気で、DISHAAという6つの症状カテゴリーで評価されます 。これらは見当識障害(Disorientation)、社会的交流の変化(social Interaction changes)、睡眠・覚醒周期の変化(Sleep-wake cycle changes)、排泄や学習記憶の問題(House soiling/learning and memory)、活動量の変化(Activity changes)、不安の増加(Anxiety)を指します 。初期段階では飼い主の呼びかけに対する反応が鈍くなり、トイレの失敗が増え、夜間の無駄吠えが多くなる傾向があります 。進行すると部屋の隅に頭をくっつけて動けなくなったり、同じ場所をぐるぐる回り続ける旋回行動、目的のない徘徊などが見られます 。
参考)https://vetzpetz.jp/blogs/column/old-dog-dementia
犬の認知機能障害症候群の有病率は14~35%と推定され、14歳以上のシニア犬に多く発症し、17歳以上では半数以上に症状が見られます 。特に小型犬より大型犬、柴犬などの日本の純血種で発症しやすい傾向があります 。症状は進行性で治癒は困難ですが、早期発見と適切な治療により進行を遅らせることが可能です 。
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認知機能改善のための栄養療法
栄養学的アプローチは犬の認知機能障害の管理において重要な役割を果たします 。健康な脳はブドウ糖を主なエネルギー源としていますが、老犬では脳のブドウ糖代謝効率が低下し、エネルギー枯渇を招きます 。この問題を解決するため、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)が注目されています。MCTは脳に代替エネルギー源であるケトン体を提供し、脳のエネルギー需要の60~70%を供給することができます 。
DHA・EPAなどのオメガ3脂肪酸は記憶力や学習能力を改善し、認知症の進行を遅らせる可能性があります 。これらの必須脂肪酸は体内で合成できないため、食事やサプリメントから摂取する必要があります 。ビタミンCやEなどの抗酸化物質は酸化ストレスを軽減し、神経細胞の損傷を防ぎます 。また、血流改善に役立つアルギニンや神経機能をサポートするビタミンB群も重要な栄養素です 。
栄養的サポートによる犬の認知症予防について詳細な研究データが紹介されています
犬の認知機能維持のための運動と脳トレーニング
適度な運動は血流改善やストレス緩和、抗炎症作用など多くのメリットがあり、認知機能維持に欠かせません 。散歩では道を認識したり、他人や他の犬と交流することで脳への適度なトレーニングになります 。自力で歩けない場合でも、ペットカートや抱っこでの散歩、タオルを使った補助的な立ち上がり運動が効果的です 。
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ノーズワークは犬の優れた嗅覚能力を活用した脳トレーニング法で、認知症予防に高い効果が期待されています 。犬の嗅覚受容体は約3億個(人間の6倍)で、嗅覚情報は脳に膨大な刺激をもたらします 。おやつ探し課題は認知機能と直接関連し、感覚・認知機能の維持に効果があることが研究で証明されています 。知育玩具の活用や「お手」「お座り」などの基本コマンドの練習、新しいコマンドの学習も脳の活性化に役立ちます 。
毎日の散歩ルートを変える、坂道や芝生など異なる地形を体験させる、他の犬との交流機会を増やすなど、環境の変化による刺激も認知機能維持に重要です 。
認知機能低下の早期発見チェックポイント
愛犬の認知機能低下を早期発見するため、日常生活での変化を注意深く観察することが重要です 。初期症状として最も見つけやすいのが夜鳴きや無駄吠えの増加で、これまでになかった時間帯での鳴き声は要注意のサインです 。扉の蝶番側から出ようとする、目の前に飼い主がいるのに突然探しに行くなどの見当識障害も初期症状として現れます 。
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トイレの失敗が増える、食事後にも関わらず過剰に食べ物を要求する、名前を呼んでも反応が鈍い、遊びへの興味を示さなくなるなどの行動変化も重要な指標です 。進行すると同じ方向への旋回、目的のない徘徊、部屋の隅で動けなくなる、昼夜逆転などの症状が現れます 。
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7~9歳の中年齢期から症状が現れることもあるため 、シニア期に差し掛かる愛犬では些細な変化も見逃さないよう注意が必要です。気になる症状があれば早めに動物病院を受診し、専門的な評価を受けることが進行予防につながります 。
認知機能サポートのための生活環境整備
認知機能が低下した愛犬にとって安全で快適な生活環境を整備することは、症状の悪化を防ぎ生活の質を向上させる重要な対策です 。部屋づくりでは滑りにくいペット用床材を選び、障害物を片づけ、家具の角を保護するなどケガ防止対策が必要です 。認知症になると方向感覚が失われ、物にぶつかりやすくなるためです 。
排泄サポートでは、トイレの場所を覚えられなくなったり排泄タイミングを意識できなくなることに配慮が必要です 。トイレの近くにベッドを配置し、定期的にトイレに誘導して成功時には褒めてあげることが大切です 。失敗した際は叱らず、必要に応じてオムツの使用も検討しましょう 。
夜泣きや徘徊への対策として、寝床は暖かく少し明るくすることで不安を軽減できます 。昼間に散歩や遊びを取り入れ、夜に寝る習慣をつけることで昼夜逆転の改善が期待できます 。症状がひどい場合は抗不安薬や睡眠薬による薬物療法も効果的で、家族だけで抱え込まず専門機関への相談が重要です 。