尿酸と犬の健康管理
尿酸値の基準値と検査方法
犬の尿酸値は血液検査により測定され、正常値は一般的に0.1-0.6mg/dL程度とされています 。尿酸は体内でプリン体が代謝される際の最終産物で、通常は腎臓から尿中に排泄されます 。検査は血清または血漿を用いた生化学検査で実施され、冷蔵保存が必要な項目です 。
参考）生化学検査
定期的な検査により、愛犬の尿酸値を正常範囲内に維持することが重要です。異常値が検出された場合は、追加検査として尿検査や画像診断を組み合わせて原因を特定します 。犬の場合、尿比重の正常値は1.025～1.040で、この値と合わせて評価することで腎機能の状態を総合的に判断できます 。
参考）https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7704312/
特に高齢犬では腎機能の低下により尿酸値が上昇しやすくなるため、年2回以上の定期検査が推奨されています。早期発見により、適切な食事療法や治療により病気の進行を遅らせることが可能です 。
犬の高尿酸血症の症状と診断
高尿酸血症の犬では初期症状として多飲多尿、食欲不振、元気消失などが見られることがあります 。進行すると尿路結石による排尿困難、血尿、腹痛などの明らかな症状が現れます 。特に尿道閉塞を起こした場合は、完全に排尿できなくなり生命に関わる緊急事態となります 。
参考）犬の尿石症の症状や原因、治療法について獣医師が解説｜立川市の…
診断には血液検査に加えて、尿検査での結晶の確認が重要です。尿酸アンモニウム結晶は顕微鏡検査により特徴的な形状で識別できます 。また、腹部エコー検査により膀胱内の結石を直接確認することも可能で、結石のサイズや個数の評価に有用です 。
参考）犬の尿酸アンモニウム結石症｜横浜市の動物病院｜洋光台ペットク…
確定診断のためには結石の成分分析が行われ、これにより尿酸アンモニウム結石であることが確定できます 。この検査結果に基づいて適切な治療方針が決定され、食事療法の内容も具体的に決められます。
尿酸結石の種類と特徴
犬の尿酸結石には主に尿酸アンモニウム結石があり、これは全結石の中でも比較的稀な種類です 。結石は酸性尿、高濃縮尿、感染尿などの条件下で形成されやすくなります 。最も重要な特徴は、他の結石と異なり療法食では溶解できないことで、一度形成されると手術による除去が必要になる場合があります 。
尿酸結石は主に膀胱で形成されますが、腎臓や尿管にも発生する可能性があります 。腎結石の場合は症状が現れにくいことが多く、定期検査により偶然発見されることもあります 。上部尿路（腎臓・尿管）の結石は特定の犬種で高い頻度で認められ、遺伝的素因の関与が強く示唆されています 。
結石の形成過程では、尿中の尿酸濃度が過剰に高くなることで結晶が析出し、これが核となって徐々に大きな結石へと成長します。感染や炎症が併発すると結石形成がさらに促進されるため、膀胱炎の併発には特に注意が必要です 。
ダルメシアン特有の高尿酸尿症
ダルメシアンは遺伝的に高尿酸尿症を持つ代表的な犬種で、全てのダルメシアンが変異型ホモ接合体を有しています 。この犬種では肝臓と腎近位尿細管での尿酸輸送が非効率的で、血液と尿中の尿酸値が異常に高くなります 。SLC2A9遺伝子の変異により、他の哺乳動物では最終的にアラントインに代謝される尿酸が、ヒトと同様に尿酸のまま蓄積されます 。
参考）https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2573870/
ダルメシアンの高尿酸尿症は常染色体劣性遺伝形式をとり、近年はポインターとの戻し交配により遺伝子素因を持たない個体も作出されています 。しかし、一般的なダルメシアンでは依然として尿酸結石のリスクが非常に高く、特にオスでは尿道の解剖学的特徴により閉塞を起こしやすいとされています 。
この犬種では定期的な尿検査が特に重要で、結石の早期発見により適切な管理を行うことが必要です。食事管理では低プリン体食の給与が基本となり、水分摂取量を増加させて尿の希釈を図ることが推奨されています 。
尿酸管理のための食事療法と予防対策
尿酸値の管理には適切な食事療法が最も重要で、プリン体含有量の少ない処方食の使用が基本となります 。市販の療法食には尿酸結石に対応したものが用意されており、ミネラルバランスとpHが適切に調整されています 。療法食使用時は他の食材やおやつの追加は避け、獣医師の指示に従って厳密な食事管理を行う必要があります 。
参考）https://nocoto-marche.com/blogs/contents/inu-nyoseki
水分摂取量の増加は尿の希釈により結石形成を抑制する効果があります 。冬季は特に飲水量が減少しやすいため、複数箇所への給水器設置、温水の提供、ウェットフードの併用などの工夫が有効です 。目標として、体重1kgあたり50-100mlの水分摂取が推奨されています。
参考）犬の尿石症とは？ 原因や対策、予防法をご紹介！【獣医師監修】…
定期的な運動と適切な排尿頻度の維持も重要な予防策です 。膀胱内に長時間尿が貯留することで結石形成のリスクが高まるため、散歩回数を増やして排尿機会を確保することが大切です。室内飼育の犬では特に注意が必要で、トイレ環境の整備により快適な排尿を促進します。
日本獣医泌尿器学会の尿石症ガイドライン（結石の分類と治療指針について詳細な情報を提供）
アニコム損害保険の尿石症解説ページ（一般的な症状と予防法について分かりやすく説明）
SLC2A9遺伝子変異に関する研究論文（ダルメシアンの高尿酸尿症の遺伝的メカニズムについて詳細に解説）