シェパードのかかりやすい病気
シェパードの股関節形成不全と症状
ジャーマンシェパードの最も代表的な病気として知られる股関節形成不全は、遺伝的要因が強く関与する疾患です。この病気は股関節を構成する骨盤の骨と大腿骨が正常にかみ合わない状態を指し、The Orthopedic Foundation for Animalsによると、19.8%のジャーマンシェパードが股関節形成不全を患っているとされています。
股関節形成不全の主な症状には以下のようなものがあります。
- 歩行異常:「バニーホップ」と呼ばれる特徴的な歩き方
- 足を引きずる行動:特に後ろ足に症状が現れる
- 運動を嫌がる:散歩や遊びに行きたがらない
- 座り方の異常:通常とは違う座り方をする
- 疲れやすさ:軽い運動でも疲労を感じる
症状の程度は軽度なものから強い痛みを伴うものまで様々で、重症例では車椅子を使用しなければならないケースもあります。早期発見が重要で、生後4〜6ヶ月頃から症状が現れることが多いため、子犬の頃から歩き方に注意深く観察することが大切です。
治療法としては、症状の程度に応じて痛み止めなどの内科的治療から外科的治療まで選択されます。体重管理も重要で、肥満は関節への負担を増大させるため、適切な食事管理が必要です。
シェパードの胃拡張・胃捻転の危険性
胃拡張・胃捻転(GDV:Gastric Dilatation-Volvulus)は、ジャーマンシェパードにとって命に関わる緊急疾患です。この病気は「ブロート」とも呼ばれ、短時間で重篤な状態に陥る可能性があります。
胃拡張は空気や食事の消化不良が原因で胃が膨張する状態で、さらに進行すると胃捻転が起こります。胃捻転では胃が膨らんだ状態で回転し、脾臓と膵臓が一緒に引っ張られて血流が遮断され、心臓に悪影響を及ぼし突然停止してしまうこともある恐ろしい病気です。
主な症状。
- お腹の膨張:明らかに大きく膨らんだ腹部
- 苦しそうなパンティング:呼吸が荒くなる
- 嘔吐しようとするが何も出ない:特徴的な症状
- よだれが大量に出る
- 落ち着きがない:痛みによる行動
この病気は深胸部の犬種や大型犬により多く見られ、ジャーマンシェパードもその体格から胃拡張・胃捻転にかかりやすいとされています。早食いや大食いが引き起こすと考えられていますが、現在でもはっきりとした原因は解明されていません。
予防策として、食事を複数回に分けて与える、食後すぐの激しい運動を避ける、早食い防止の食器を使用するなどの対策が推奨されています。症状が現れた場合は緊急処置が必要なため、すぐに動物病院へ連れて行くことが重要です。
シェパードの関節炎と骨の病気
ジャーマンシェパードは身体が大きく重く、特に後ろ脚がカーブしているという骨格的特徴から、関節に負担がかかりやすく関節炎になりやすい犬種です。また、肘関節形成不全や骨肉腫などの骨に関する病気も多く見られます。
関節炎は完全に治療することができない病気ですが、適切な管理により症状を軽減することが可能です。症状には以下があります。
- 足を引きずって歩く
- 運動を嫌がる
- 立ち上がるのに時間がかかる
- 階段の昇降を嫌がる
肘関節形成不全は、関節の発達や形成に問題が生じ、関節の不安定性や異常な摩擦が引き起こされる疾患です。早ければ生後4ヶ月頃から症状が現れる可能性があり、前肢を動かすたびに痛みが生じ、やがて関節炎を引き起こすこともあります。
骨肉腫は骨にできる悪性腫瘍で、老齢の大型犬に多く見られます。発症すると激しい痛みを伴い、肺に転移すると呼吸症状などが生じて命に関わることがあります。足をかばったり引きずったりする症状が見られた場合は、早急な検査が必要です。
関節疾患の管理には以下が重要です。
- 体重管理:肥満は関節への負担を増大させる
- 適度な運動:関節に負担がかかる激しい運動は避ける
- 栄養管理:関節の健康をサポートするサプリメントの活用
- 定期的な健康チェック:早期発見・早期治療
シェパードの皮膚疾患と内臓の病気
ジャーマンシェパードは皮膚疾患や内臓の病気にもかかりやすい傾向があります。特に膵外分泌不全は遺伝的にシェパードが発症しやすい疾患として知られています。
皮膚疾患として多く見られるのは。
- アトピー性皮膚炎:環境アレルゲンに対する過敏反応
- アレルギー性皮膚炎:食物やダニなどのアレルゲンが原因
- 脂漏症:皮脂の分泌異常による皮膚の炎症
- 慢性表在性角膜炎(パンヌス):目の角膜に炎症が起こる疾患
膵外分泌不全は消化酵素を分泌する膵臓の異常によって起こる消化器症状です。消化吸収不良が起こるため、以下の症状が見られます。
- 頻繁な下痢
- 体重減少
- 食欲があるのに痩せる
- 便の量が多くなる
- 毛艶が悪くなる
この病気は長く続くと栄養吸収ができず命にも関わるため、適切な検査と治療が必要です。早期発見により適切な酵素補充療法を行うことで、症状の改善が期待できます。
糖尿病もシェパードに多い疾患の一つです。インスリンというホルモンの不足や効き方が弱くなることによって、血液中の糖分が慢性的に多くなりすぎる病気で、以下の症状が特徴的です。
- 多飲多尿:水をたくさん飲み、おしっこの量が増える
- 多食:食欲が増える
- 体重減少:食べているのに痩せる
これらの内臓疾患は早期発見が重要で、定期的な血液検査により早期発見が可能です。
シェパードの病気予防と早期発見のコツ
ジャーマンシェパードの健康を維持するためには、予防と早期発見が極めて重要です。多くの病気が遺伝的要因に関係しているため、完全な予防は困難ですが、適切な管理により症状の軽減や進行の遅延が可能です。
日常的な健康チェックポイント。
- 歩き方の観察:関節疾患の早期発見のため、毎日の散歩時に歩き方を注意深く観察
- 食事と排泄の記録:食欲、食事量、排便の状態を記録し、異常を早期発見
- 体重管理:定期的な体重測定で肥満を防止
- 皮膚の状態チェック:ブラッシング時に皮膚の異常がないか確認
- 行動の変化:普段と違う行動や反応に注意を払う
効果的な予防策。
- 適切な栄養管理
- 高品質なドッグフードの選択
- 関節サポート成分(グルコサミン、コンドロイチン)を含む食事
- 肥満防止のための適正な給餌量の管理
- 運動管理
- 関節に負担をかけない適度な運動
- 成長期の過度な運動の制限
- 年齢に応じた運動量の調整
- 定期的な健康診断
- 年1〜2回の包括的な健康チェック
- 血液検査による内臓機能の確認
- レントゲン検査による骨格系の評価
- 遺伝子検査による疾患リスクの把握
- 環境整備
- 滑りにくい床材の使用
- 階段の昇降を制限する工夫
- ストレスの少ない生活環境の提供
緊急時の対応。
胃拡張・胃捻転のような緊急疾患の症状を把握し、夜間でも対応可能な動物病院を事前に確認しておくことが重要です。また、日頃から愛犬の様子を動画で記録しておくと、獣医師への相談時に有用な情報となります。
ジャーマンシェパードは病気が多い犬種として知られていますが、適切な知識と予防策により、健康で長生きできる可能性を高めることができます。愛犬の健康状態に常に注意を払い、異常を感じたら早めに専門家に相談することが、最も重要な予防策と言えるでしょう。