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胆嚢粘液嚢腫犬に見られる症状と治療選択

胆嚢粘液嚢腫犬の病態と治療方針

胆嚢粘液嚢腫の基礎知識
🩺

病態メカニズム

胆嚢にゼリー状粘液が異常蓄積し拡張・変形する疾患

⚠️

危険性

胆嚢破裂により胆汁性腹膜炎を引き起こし致命的

🐕

好発品種

シェルティ・コッカースパニエル等で遺伝的発症リスク高

胆嚢粘液嚢腫犬の初期症状と進行過程

胆嚢粘液嚢腫「沈黙の病気」と呼ばれるほど初期症状がわかりにくい疾患です。多くの場合、血液検査で偶然発見されることが多く、肝酵素(ALT、ALP)の軽度上昇から病気の存在が疑われます。

初期症状(無症状期):

  • 症状がほとんど見られない
  • なんとなく食欲がない程度
  • たまに嘔吐する

中期症状(進行期):

  • 食欲不振・元気消失
  • 嘔吐・下痢
  • 活動性の低下

末期症状(危険期):

  • 黄疸(目や歯茎が黄色くなる)
  • 腹痛(腹部を触ると痛がる)
  • 発熱・虚脱
  • 尿が紅茶のような濃い色に変化

胆嚢が破裂すると腹膜炎を起こし急激に容態が悪化し、多くは致死的な結果を辿ってしまいます。

胆嚢粘液嚢腫犬の診断方法と画像所見

胆嚢粘液嚢腫の診断には腹部超音波検査が最も重要です。

超音波検査の特徴的所見:

  • 「キウイフルーツ様」と呼ばれる特徴的な像
  • 胆嚢内壁に付着したゼリー状物質(ムチン)の観察
  • 立位での検査が非常に重要

血液検査での異常値:

  • 肝酵素(ALT、ALP、GGT)の上昇
  • ビリルビンの上昇
  • コレステロール・中性脂肪の高値
  • 白血球数増加(胆嚢炎合併時)

画像診断の優位性:

超音波検査では、胆泥症との鑑別診断も可能で、胆嚢破裂の兆候や腹水の有無も同時に確認できます。早期発見には定期的な血液検査と腹部超音波検査の組み合わせが非常に重要です。

胆嚢粘液嚢腫犬の原因と遺伝的要因

胆嚢粘液嚢腫の明確な原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が関連していると考えられています。

内分泌疾患との関連:

代謝異常との関連:

  • 高コレステロール血症
  • 高脂血症
  • 脂質代謝異常による胆汁組成の変化

遺伝的素因:

その他の要因:

  • 胆汁うっ滞(胆汁の流れの異常)
  • 肥満
  • 年齢(中高齢犬で多発)

これらの要因が重なることで、胆嚢内に異常な粘液が貯まりやすくなると考えられています。

胆嚢粘液嚢腫犬の内科的治療選択

胆嚢粘液嚢腫の治療法は病態の進行度によって内科治療と外科治療に分かれます。

内科治療の適応:

  • 10歳未満で胆嚢破裂していない場合
  • 症状が軽度の場合
  • 無症状で偶然発見された初期段階

内科治療薬:

  • ウルソデオキシコール酸(胆汁排泄促進薬)
  • SAMe製剤や抗酸化剤
  • 肝・胆機能改善薬
  • 利胆薬(胆汁分泌促進)

食事療法:

  • 低脂肪食への変更
  • 処方食の使用
  • 高脂血症がある場合は特に重要

内科治療の課題:

経過観察中に破裂するリスクがあり、画像的・数値的改善が見られない場合は外科治療への移行を検討します。当院の経験では、術後に胆管が刺激となって腹水がたまることが多いため、可能な限り内科療法を選択する方針を取っています。

胆嚢粘液嚢腫犬の外科的治療と予後改善効果

外科治療(胆嚢摘出術)の適応:

  • 12歳以上または胆嚢破裂している場合
  • 症状が強い場合
  • 超音波で胆嚢壁の壊死や穿孔の兆候がある場合
  • 腹水や黄疸が見られる場合

外科治療の優位性:

最近の研究データでは、内科療法をしている犬より外科療法を実施した犬の方が有意に長生きだったことが報告されています。また、内科療法を受けていた犬も結果的に外科手術を受ける結果(胆嚢破裂、胆嚢炎など)になることが多いことも判明しています。

手術のタイミング:

  • 胆嚢破裂前の手術が理想
  • 胆嚢破裂後は手術リスクが格段に高くなる
  • 重篤な状態になるまで胆嚢摘出を遅らせることは生命を脅かす

手術手技の進歩:

  • ソノサージという侵襲性が少ない機器を用いた手術も可能
  • 術後合併症(膵炎や腹膜炎など)のリスクはあるが、根治が望める

第一選択としての外科治療:

現在では、超音波検査で胆嚢粘液嚢腫が発見されたら胆嚢摘出術を行うことが第一選択とする施設も増えています。

動物病院での胆嚢摘出術に関する詳細情報

https://fujii-vet.com/guide/soft/gall/

胆嚢粘液嚢腫の治療選択は年齢、症状の進行度、合併症の有無を総合的に判断して決定されます。早期発見・早期治療により、愛犬の生命予後を大幅に改善できる疾患といえるでしょう。