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天疱瘡とは何か原因症状診断治療法解説

天疱瘡とは

天疱瘡の基礎知識
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自己免疫疾患

皮膚細胞の接着を妨げる自己抗体が原因

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水疱形成

皮膚や粘膜に水ぶくれやびらんが発生

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指定難病

医療費助成の対象となる重篤な疾患

天疱瘡(てんぽうそう)は、皮膚の細胞同士をつなぐ接着剤の役割を果たすタンパク質に対して、自分の免疫系が攻撃してしまう自己免疫疾患です。本来なら体を守るはずの免疫システムが、間違って自分の正常な細胞を攻撃してしまうことで発症します。

この疾患では、デスモグレインという皮膚細胞間の接着に重要な役割を持つタンパク質に対する自己抗体(IgG)が産生されます。これらの抗体がデスモグレインの接着機能を阻害することで、皮膚や粘膜に水疱(水ぶくれ)やびらん(ただれ)が形成されるのが特徴的な症状です。

天疱瘡は指定難病35番に指定されている希少な疾患で、日本全国での患者数は約3,176人(令和4年度)とされています。世界的には年間発生率が100万人あたり1人から100人と、人種や地域によって大きな差があります。

天疱瘡の原因と発症メカニズム

天疱瘡の根本的な原因は、体内で自己抗体が作られてしまうことですが、なぜこのような自己抗体が産生されるのかについては、現在でも完全には解明されていません。

皮膚の構造を理解すると、天疱瘡の発症メカニズムがより明確になります。人間の皮膚は無数の細胞で構成されており、これらの細胞は特殊な接着剤でしっかりとくっつき合っています。この接着剤の主要成分がデスモグレインというタンパク質です。

天疱瘡では、この重要な接着分子に対する自己抗体が突然体内で作られ始めます。抗体が接着分子に結合すると、細胞同士の結びつきが弱くなり、最終的には細胞がバラバラになってしまいます。この現象を医学的には「棘融解(acantholysis)」と呼びます。

遺伝的要因については、通常の遺伝はしないとされていますが、特定の遺伝的背景を持つ人により発症しやすい傾向があることも研究で示されています。また、ストレスや薬剤、感染症などが発症の引き金となる場合もあります。

興味深いことに、南米やアフリカの一部地域では、落葉状天疱瘡が風土病として存在することが知られており、環境因子の関与も示唆されています。

天疱瘡の症状と分類

天疱瘡は主に「尋常性天疱瘡」と「落葉状天疱瘡」の2つのタイプに分類され、それぞれ特徴的な症状を示します。

尋常性天疱瘡は最も一般的なタイプで、多くの場合、口腔粘膜の症状から始まります。口の中に痛みを伴う水疱やびらんが形成され、食事や会話が困難になることがあります。病変が進行すると皮膚にも水疱が現れ、これらの水疱は非常に破れやすく、軽い摩擦でも容易に破けてしまいます。

粘膜皮膚型の尋常性天疱瘡では、全身に水疱とびらんが広がることがあり、皮膚の表面から大量の水分が失われたり、細菌感染を合併するリスクが高まります。

落葉状天疱瘡では、頭部、顔面、胸部、背中などに落屑(皮膚がフケ状に剥がれる)を伴う赤い皮疹(紅斑)や浅いびらんが生じます。この型では粘膜症状は見られないのが特徴的で、重症例では全身の皮膚に拡大することもあります。

天疱瘡の診断においては、「ニコルスキー現象」という特徴的な所見が重要です。これは、見た目には正常に見える皮膚を軽く押したり擦ったりすると、表皮が簡単に剥離してしまう現象です。この現象は天疱瘡の特徴的な徴候として診断に利用されています。

天疱瘡では脱毛も重要な症状の一つとして認識されており、これは「hair Nikolsky現象」と呼ばれる特殊なメカニズムによるものです。

天疱瘡の診断方法

天疱瘡の正確な診断には、複数の検査方法を組み合わせた総合的なアプローチが必要です。早期の正しい診断が治療成功の鍵となるため、皮膚科専門医による適切な評価が不可欠です。

病理組織検査では、皮膚生検により表皮内水疱の形成と棘融解の存在を確認します。これは天疱瘡の確定診断に必須の検査です。顕微鏡下で観察すると、表皮細胞間の接着が失われ、細胞がバラバラになっている様子が確認できます。

免疫蛍光検査は診断において極めて重要な役割を果たします。直接免疫蛍光法では、患者の皮膚組織にIgG抗体が沈着している様子を蛍光顕微鏡で観察できます。この検査により、表皮細胞膜表面に特徴的な蜂の巣状の蛍光パターンが確認されます。

血清学的検査では、血液中の抗デスモグレイン抗体を測定します。現在では、酵素免疫測定法(ELISA)により抗デスモグレイン1抗体や抗デスモグレイン3抗体を定量的に測定することが可能です。これらの抗体価は病気の活動性や治療効果の判定にも有用です。

さらに、最近では新しい病原性評価法として「In vitro dissociation assay」という手法も開発されており、より精密な診断が可能になっています。

鑑別診断においては、類天疱瘡、水疱性類天疱瘡、ヘルペス性皮膚炎など他の水疱性疾患との区別が重要です。これらの疾患は症状が似ているため、専門的な検査による正確な診断が必要です。

天疱瘡の治療法

天疱瘡の治療は、病気の原因となる自己抗体の産生と働きを抑える免疫抑制療法が中心となります。治療の目標は、新しい水疱の形成を阻止し、既存の病変を治癒させることです。

副腎皮質ステロイドは天疱瘡治療の第一選択薬として位置づけられています。プレドニゾロンを中心とした経口ステロイド療法が基本となり、初期には比較的高用量から開始し、症状の改善に応じて徐々に減量していきます。最終的には、プレドニゾロン換算で10mg/日以下の維持量を目標とします。

ステロイドの副作用を軽減し、総投与量を減らすために、免疫抑制薬の併用が行われることも多くあります。アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチルなどが使用され、これらの薬剤により長期的なステロイド使用量の削減が期待できます。

重症例や通常の治療に反応しない難治例では、より積極的な治療法が選択されます。血漿交換療法は血液中の病因となる自己抗体を物理的に除去する方法で、急速な症状改善が期待できます。

免疫グロブリン大量療法も有効な治療選択肢の一つです。高用量の免疫グロブリンを静脈内投与することで、免疫系の調整を図ります。

2021年12月からは、画期的な治療法として抗CD20抗体療法が保険診療で使用可能となりました。この治療法はB細胞を標的とし、抗体産生細胞を選択的に除去することで、根本的な治療効果が期待されています。

治療初期は入院管理が必要な場合が多く、水疱の新生が停止し病気の活動性が落ち着いてきたら、外来での経過観察に移行します。

補完的治療法として、IFN-γ療法の有用性も報告されており、特に水疱性類天疱瘡における新しい治療選択肢として注目されています。

天疱瘡の予後と生活上の注意点

天疱瘡の予後は、早期診断と適切な治療により大幅に改善されています。現在では、定期的な通院と適切な治療により、多くの患者さんが通常の生活を送れるまでに回復することが可能です。

治療は長期間にわたることが一般的で、一度治療を開始すると継続的な経過観察が必要になります。症状が安定した後も、再発予防のために維持療法が重要となります。

日常生活での注意点として、水疱・びらんが活動期にある時期は、柔らかい素材でできた着脱しやすい衣服を選択することが推奨されます。皮膚への機械的刺激を最小限に抑えることで、新しい病変の形成を予防できます。

口腔内に症状がある場合は、硬い食べ物を避け、口腔ケアにも特別な注意が必要です。歯磨きの方法や口腔内清拭について、必要に応じて歯科医師との連携も重要です。

薬物療法中の注意点では、ステロイドの自己判断による中断は絶対に避けなければなりません。急激な中止はショック状態や水疱の再発を招く危険性があります。

ステロイド長期使用に伴う副作用として、感染症への易感染性、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、胃潰瘍、高血圧などに注意が必要です。定期的な検査により、これらの副作用の早期発見と対策が重要です。

症状が安定してきた段階では、食事管理と適度な運動が推奨されます。散歩などの軽い運動から始め、骨粗鬆症予防や全身状態の改善を図ります。

発熱や体調不良がある場合は、免疫抑制状態による感染症の可能性もあるため、早めの受診が重要です。

天疱瘡は適切な治療により管理可能な疾患ですが、患者さん自身の病気への理解と治療への協力が治療成功の重要な要素となります。医療チームとの密な連携により、良好な予後が期待できる疾患です。

難病情報センターでは天疱瘡の詳細な医学的情報と患者支援制度について説明されています
日本皮膚科学会の公式サイトでは天疱瘡に関するQ&Aが掲載されており、患者さんの疑問に答える内容が充実しています