アルドステロンと犬の健康
アルドステロンの犬における生理機能
アルドステロンは、犬の副腎皮質の球状帯から分泌される重要なミネラルコルチコイドホルモンです 。このホルモンは腎臓の近位尿細管において、ナトリウムの再吸収とカリウムの排泄を促進する働きがあります 。浸透圧の原理により、ナトリウムが再吸収されると水分も同時に体内に取り込まれ、循環血液量が適切に維持されます 。
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この電解質バランスの調整機能により、犬の血圧調節や心血管系の健康維持に重要な役割を果たしています 。アルドステロンが正常に機能することで、犬の腎血流が安定し、腎機能が保護されるのです 。
参考)https://vth-tottori-u.jp/wp-content/uploads/2020/02/topics.vol_.94.pdf
エプレレノンという抗アルドステロン薬の研究では、アルドステロンが心筋保護、心筋繊維化の改善、心肥大の抑制、血管内皮傷害の改善などの心血管疾患に対する様々な作用に関与していることが明らかになっています 。
アルドステロン異常による犬の症状
アルドステロンの分泌異常は、犬に深刻な健康問題を引き起こします。最も一般的なのは副腎皮質機能低下症(アジソン病)です 。この疾患では、アルドステロンの欠乏により低ナトリウム血症と高カリウム血症を特徴とする電解質異常が発生します 。
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健常犬のナトリウム・カリウム比(Na/K比)は27-40ですが、アジソン病の犬では27未満と低値を示すことが多く、診断の重要な指標となります 。アルドステロン欠乏による症状には、循環血液量の減少に伴う低血圧、循環不全、虚脱、徐脈などがあります 。
重度の高カリウム血症では心臓への影響により徐脈が生じ、腎血流の維持ができなくなることで腎機能障害(BUN/クレアチニンの上昇)も見られるようになります 。これらの症状は「偉大な詐称者」と呼ばれるアジソン病の複雑な病態を表しています 。
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アルドステロン検査による犬の診断方法
アルドステロンに関連する疾患の診断には、複数の検査手法が用いられます。最も確実な診断方法はACTH刺激試験であり、副腎皮質の機能を直接評価できます 。健常犬では副腎皮質機能促進ホルモン(ACTH)の刺激に対して速やかに反応しますが、アジソン病の犬では刺激後のコルチゾール値が3.0μg/dL未満となります 。
スクリーニング検査として、無刺激時の血中コルチゾール値の測定も有効です。アジソン病の犬では無刺激のコルチゾール値が2.0μg/dL以下であり、86%の犬で1.0μg/dL以下となることが報告されています 。
血液生化学検査では、低ナトリウム血症(低Na血症)、高カリウム血症、低クロール血症が特徴的な所見として現れます 。Na/K比が0.27未満の場合、高感度・高特異度でアジソン病を示唆するため、迅速な判断に有用な指標となります 。
アルドステロン異常犬の治療と管理
アルドステロン欠乏症の治療は、不足したホルモンを補充する代替療法が基本となります 。日本国内では酢酸フルドロコルチゾン(フロリネフ)が第一選択薬として広く使用されており、糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドの両方の作用を持つため、定型アジソン病に対して非常に有効です 。
代替治療としてピバル酸デソキシコルチコステロン(DOCP)という持続型鉱質コルチコイド製剤があり、注射によって3-4週間効果が持続します 。この場合、糖質コルチコイド作用がないため、ヒドロコルチゾン(コートリル)などの併用が必要になります 。
治療における重要なポイントは薬物投与量の適切な調整です。効きすぎても効かなすぎても問題があるため、定期的な身体検査や血液検査により電解質バランスを監視し、投薬量を調整する必要があります 。特に治療初期段階では頻繁な検査が求められます 。
アルドステロン異常犬の食事と生活管理
アルドステロン欠乏症の犬には、電解質バランスを考慮した食事管理が重要です。高カリウム血症になりやすいため、カリウム摂取量に注意が必要で、野菜や果物は茹でることでカリウム含有量を減らすことができます 。一方で、ナトリウムは水分バランス維持に重要であるため、適切な摂取量を確保する必要があります 。
良質なタンパク質として鶏肉、七面鳥、魚などが推奨され、血糖値の急激な上昇を避けるためにGI値が低い食品を選ぶことが望ましいです 。消化しやすい高品質なタンパク質の摂取により、コルチゾールの働きをサポートできます 。
日常生活では、ストレス管理が特に重要です。アジソン病の犬はストレスに弱いため、急激な環境変化や過度な運動は避け、静かで落ち着ける環境を提供することが大切です 。旅行や引越しなどのストレスが予測される場合は、事前に獣医師に相談し投薬量を調整する必要があります 。
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規則正しい投薬スケジュールの維持は治療成功の鍵となります。毎日の飲み薬や月1回の注射を決まったスケジュールで確実に行い、投薬忘れを防ぐためスマートフォンのアラームを活用することが推奨されます 。定期的な健康チェックにより血液検査で電解質の数値を確認し、必要に応じて薬の量を調整することで、健康な犬と同様の生活を送ることが可能になります 。