クレアチニンと犬の腎機能評価
クレアチニンの基本知識と犬の正常値
クレアチニンは筋肉中のクレアチンが代謝されて生じる老廃物で、腎臓でろ過されて尿中に排出されます 。犬のクレアチニンは筋肉量と密接に関係しており、筋肉量の多い犬では数値が高めになる傾向があります 。
参考)【犬のCre(クレアチニン)】正常値や高値となるとき、下げる…
犬のクレアチニン正常値は一般的に 0.5~1.4mg/dL とされていますが、検査機関によって若干の差があります 。この数値は腎機能の重要な指標となり、値が上昇することで腎臓の機能低下を示唆します 。
参考)犬の腎臓の検査数値が高い原因・検査内容について獣医師が解説
クレアチニンの特徴として、腎機能が正常の 75%程度まで低下しないと上昇しない という点があります 。つまり、クレアチニンが基準値を超えた時点で、既に腎機能はかなり低下している可能性があります。
犬の慢性腎臓病ステージ分類とクレアチニン数値
慢性腎臓病は、クレアチニン値とSDMA値に基づいて4つのステージに分類されます 。この分類は治療方針の決定において極めて重要です。
ステージ | クレアチニン値 | SDMA値 | 症状 | 腎機能 |
---|---|---|---|---|
Ⅰ | <1.4mg/dL | <18μg/dL | 無症状 | 33%程度まで低下 |
Ⅱ | 1.4~2.8mg/dL | 18~35μg/dL | 軽度症状 | 25~33%まで低下 |
Ⅲ | 2.9~5.0mg/dL | 36~54μg/dL | 食欲低下・嘔吐 | 10~25%まで低下 |
Ⅳ | >5.0mg/dL | >54μg/dL | 尿毒症症状 | 5~10%まで低下 |
ステージⅡでは多尿が特徴的な症状として現れ、ほとんどの犬が元気で食欲もあるため異常に気づかないことがあります 。ステージⅢ以降では明らかな症状が現れ、積極的な治療が必要となります。
参考)https://dogfood-labo.com/inu-byouki-taisaku/inu-jinfuzen/
クレアチニン上昇の原因と鑑別診断
クレアチニン上昇の原因は腎機能低下だけではありません。筋肉量の多い若い犬 では、腎機能が正常でもクレアチニン値が高めになることがあります 。
主な上昇原因。
- 慢性腎不全・急性腎不全 🔴
- 腎前性高窒素血症(脱水など) 🔶
- 筋肉量が多い個体 🟡
- 激しい運動後 🟡
- 生肉摂取後(犬では最大12時間) 🟡
特にグレイハウンドなど筋肉量の多い犬種 では、生理的にクレアチニン値が高くなる傾向があります 。このため、クレアチニン値だけでなく、尿検査や画像検査などの総合的な評価が重要です 。
参考)犬と猫のBUN(血中尿素窒素)とクレアチニン(Cre)
反対に、高齢犬や痩せた犬 では筋肉量の減少により、腎機能が低下していてもクレアチニン値が上がりにくい場合があります 。この問題を解決するため、近年では筋肉量に影響されないSDMA検査が注目されています。
参考)知っておきたい血液検査の数値【腎臓編①】 – シリウス犬猫病…
SDMAとクレアチニンの違いと早期診断への活用
SDMA(対称性ジメチルアルギニン) は、クレアチニンよりも早期に腎機能低下を検出できる新しい検査項目です 。SDMAは腎機能が約40%低下した時点で上昇し始めるのに対し、クレアチニンは75%低下まで正常値を保ちます。
参考)腎臓病を早期発見。新しい血液検査項目SDMAとはどんな検査?…
SDMAの優れた特徴。
- 筋肉量に影響されない 💪
- 早期診断が可能(犬で平均9.5ヶ月早期発見) ⏰
- 痩せた高齢犬でも正確 👴
- 基準値:0~14μg/dL(犬・猫共通) 📊
SDMAが15μg/dL以上の高値を示した場合、尿検査などの追加検査を行い腎機能を総合的に評価します 。クレアチニンとSDMAを組み合わせることで、より正確な腎機能評価が可能となります。
参考)https://www.idexx.co.jp/ja/veterinary/reference-laboratories/sdma/interpreting-your-sdma-results/
犬のクレアチニン値を下げる治療法と管理
クレアチニン値を下げるためには、まず原因の特定 が最も重要です 。腎機能低下が原因の場合、進行ステージに応じた適切な治療を行います。
薬物療法の選択肢:
食事療法の重要性:
腎臓病用療法食では、タンパク質・リン・カリウムを制限し、オメガ3脂肪酸を強化します 。適切な食事療法により、病気の進行を遅らせ、犬の寿命を延ばす効果が報告されています 。
水分管理:
腎機能低下により水を多く飲むようになりますが、十分な水分摂取は老廃物の排出に重要です。新鮮な水をいつでも飲めるよう環境を整えることが大切です 。
家庭でできる早期発見と予防対策
腎臓病は症状が現れにくい疾患のため、日常的な観察と定期検査 が早期発見の鍵となります 。
参考)犬の腎臓病ガイド!症状・原因・治療法と早期発見のポイントを解…
日常チェックポイント:
- 💧 飲水量の変化(急激な増加)
- 🚽 排尿回数・量の変化(多尿)
- 🎨 尿の色や濃さ(薄い尿)
- 🍽️ 食欲の変化
- 😷 嘔吐や元気消失
定期健康診断の重要性:
7歳以上のシニア犬では、年1~2回の健康診断 が推奨されます 。血液検査(クレアチニン・SDMA・BUN)と尿検査の組み合わせにより、初期段階での発見が可能です。
予防的な生活管理:
- 良質なタンパク質の適量摂取 🥩
- 十分な水分補給の確保 💧
- 適度な運動の維持 🚶
- ストレスの軽減 😌
- 定期的な歯科ケア(細菌感染予防) 🦷
腎機能は一度失われると回復が困難なため、予防と早期発見が愛犬の健康寿命を左右します。異常を感じたら速やかに獣医師に相談し、適切な診断と治療を受けることが重要です。