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クッシング症候群の犬における症状と治療法の詳細

クッシング症候群(犬)症状と治療方法

クッシング症候群の基本知識
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副腎皮質機能亢進症

副腎からコルチゾールが過剰に分泌される代表的な内分泌疾患

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好発犬種・年齢

5歳以上の中高齢犬、特にプードル、ダックスフンド、シュナウザーなどに多い

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進行性疾患

放置すると多臓器に影響し、重症化する恐れがある疾患

クッシング症候群とは?犬の副腎皮質機能亢進症の基本

クッシング症候群は、犬の内分泌疾患の中でも特に発症率が高い病気です。正式名称は「副腎皮質機能亢進症」と呼ばれ、副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンが過剰に産生される状態を指します。実は人間よりも犬の方が発症率が高いことはあまり知られていません。

コルチゾールは本来、ストレスから体を守り、血圧を正常に保ったり、糖を調節したりする体にとって必要不可欠なホルモンです。しかし、このホルモンが過剰になると、体のさまざまな機能に悪影響を及ぼします。

好発犬種としては、プードル、ダックスフンド、シュナウザー、ボクサー、ボストンテリア、ビーグルなどが挙げられますが、重要なのは5歳以上の中高齢犬であれば、どの犬種でも発症する可能性があるという点です。特に7歳以上の高齢犬での発症が多く見られます。

犬のクッシング症候群は進行性の疾患であり、早期発見と適切な治療が非常に重要です。放置すると、心臓や肺、肝臓、腎臓、脳など様々な臓器に長期にわたって影響を与え、取り返しのつかない障害を引き起こす恐れがあります。

クッシング症候群の犬に現れる主な症状と早期発見のポイント

クッシング症候群の症状は多岐にわたり、老化現象と誤解されることもあります。以下に主な症状を詳しく解説します。

多飲多尿(PD/PU)

最も特徴的な症状の一つで、異常に水を飲む量が増え(多飲)、それに伴って頻繁に排尿する(多尿)ようになります。これは、高コルチゾール血症により腎臓での水分再吸収機能が低下することが原因です。飼い主が「最近、水をよく飲むようになった」と気づくことが早期発見のきっかけとなることも多いです。

食欲亢進と腹部膨張

食欲が異常に増進し、体重増加が見られることがあります。特徴的なのは、「ビール腹」のように腹部だけがポッコリと膨らむことです。これは肝臓の腫大や内臓脂肪の増加によるものです。腹部膨満は、単なる肥満と区別することが重要です。

皮膚・被毛の変化

広範囲に左右対称の脱毛がみられ、皮膚が薄く弱々しくなります。また、皮膚の色素沈着(黒ずみ)や皮膚の菲薄化による血管の透過、皮膚の石灰化による結節やびらん(皮膚の欠損)なども見られることがあります。これらの皮膚症状は、アレルギーや感染性皮膚炎と間違われることもあります。

筋肉の萎縮と運動能力の低下

筋肉が減少し、体力が低下します。特に四肢の筋肉が痩せてきて、足腰が弱くなり、散歩に行きたがらなくなることもあります。階段の上り下りが困難になったり、以前より疲れやすくなったりする様子も見られます。

パンティングと呼吸困難

舌を出して「ハッハッ」と激しい呼吸(パンティング)をしていることがあります。これは、腫大した肝臓による横隔膜の圧迫が原因で呼吸が苦しくなっているサインです。

その他の症状

  • 皮膚の回復力の低下(傷の治りが遅い)
  • 免疫力の低下による感染症の増加
  • 糖尿病の合併
  • 神経症状(特に下垂体腫瘍の場合)

重要なのは、これらの症状が単独ではなく、複数組み合わさって現れることが多いという点です。また、症状が徐々に進行するため、飼い主が「老化のため」と思い込んで獣医師への相談が遅れることもあります。愛犬の行動や外見の変化に気づいたら、できるだけ早く獣医師に相談することが大切です。

クッシング症候群の原因と診断方法について

クッシング症候群の原因は大きく3つに分けられます。それぞれの原因と診断方法について詳しく見ていきましょう。

① 下垂体腫瘍によるもの

犬のクッシング症候群の約90%がこのタイプで、脳の下垂体に発生した腫瘍が原因です。下垂体は「副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)」を分泌する器官で、このACTHが副腎に指令を出してコルチゾールを分泌させます。下垂体に腫瘍ができると、過剰なACTHが分泌され、結果的にコルチゾールの分泌量が増えてしまいます。

② 副腎腫瘍によるもの

副腎自体に腫瘍ができてコルチゾールを過剰分泌するタイプです。高齢の犬に多く見られます。副腎腫瘍は良性の場合と悪性(副腎皮質癌)の場合があり、特に悪性の場合は他の臓器への転移リスクがあります。

③ 医原性(薬剤性)によるもの

他の疾患の治療のために長期間ステロイド薬を使用することで、体内のコルチゾール量が増えてクッシング症候群と同様の症状が現れることがあります。これを医療性クッシング症候群と呼びます。ステロイド自体が副腎皮質ホルモンの一種であるため、外部からの摂取により内因性のホルモンバランスが崩れるのです。

診断方法

クッシング症候群の診断は、以下のステップで行われます。

  1. 一般的な血液検査:肝機能の異常や血糖値の上昇などがないか調べます。
  2. 特殊な内分泌検査
    • ACTH刺激試験:ACTHを投与して、副腎からのコルチゾール分泌反応を調べます。これによりクッシング症候群かどうかを判断します。
    • デキサメタゾン抑制試験:デキサメタゾン(ステロイド薬)を投与し、コルチゾールの分泌抑制が正常に起こるかを調べます。これにより下垂体性か副腎性かを鑑別することができます。
  3. 画像診断
    • 超音波検査:副腎の大きさや腫瘍の有無を確認します。
    • CT/MRI検査:特に下垂体腫瘍の場合、脳の状態を詳細に確認するために行われます。

クッシング症候群は、症状が他の疾患と似ていることもあり、診断には複数の検査を組み合わせることが重要です。また、診断がついた後も、定期的な検査によって治療効果をモニタリングする必要があります。

クッシング症候群の治療法と薬物療法の種類

クッシング症候群の治療法は、原因によって異なります。それぞれの治療法について詳細に解説します。

下垂体性クッシング症候群の治療

  1. 内科治療(薬物療法)

    下垂体性クッシング症候群では、内科治療が最も一般的です。主な薬剤としては「トリロスタン」が使用されます。トリロスタンは副腎でのコルチゾール合成を抑制する薬で、症状のコントロールに非常に効果的です。内服開始後、徐々に症状が改善していきますが、症状の改善には時間差があり、多飲多尿などは比較的早く改善しますが、皮膚症状の改善には1〜2ヶ月程度かかることもあります。

  2. 放射線治療

    下垂体腫瘍が大きい場合には、放射線治療が選択肢となります。放射線を照射して腫瘍を縮小させ、その後必要に応じて薬物療法を併用します。高度な設備と技術が必要なため、専門的な施設でのみ実施可能です。

  3. 外科手術

    非常にまれなケースですが、下垂体腫瘍を外科的に切除する方法もあります。ただし、脳の深部にある下垂体へのアクセスは技術的に難しく、特に小型犬や短頭種(パグ、ブルドッグなど)では解剖学的に困難なことが多いです。

副腎腫瘍性クッシング症候群の治療

  1. 外科手術

    副腎腫瘍の場合、腫瘍を含む副腎を外科的に摘出することが根本的な治療法となります。特に片側性の腫瘍で、転移がない場合は手術による完全切除で治癒が期待できます。ただし、副腎の手術はリスクを伴うため、全身状態を十分に評価した上で実施する必要があります。

  2. 内科治療

    何らかの理由で手術ができない場合や、腫瘍が両側性、または転移がある場合には内科治療が選択されます。副腎腫瘍性のクッシング症候群に対しても「トリロスタン」などの薬剤が使用されますが、下垂体性に比べると効果がやや劣ることもあります。

医原性クッシング症候群の治療

医原性クッシング症候群の場合、原因となっているステロイド薬の使用を徐々に減量・中止することで症状は改善します。ただし、長期間ステロイドを使用していた場合、急に中止すると副腎不全を引き起こす恐れがあるため、必ず獣医師の指導のもとで段階的に減量する必要があります。

治療における注意点

  • 薬物療法を開始した場合、特に初期段階では定期的に血液検査を行い、薬の効果やコルチゾールレベルをモニタリングすることが重要です。
  • 薬の効果が強すぎると、逆にコルチゾール不足(副腎皮質機能低下症)を引き起こすことがあります。元気がなくなったり、食欲が低下したり、嘔吐や下痢などの症状が現れたら、すぐに獣医師に相談しましょう。
  • 治療を開始すると、多飲多尿などの症状は比較的早く改善する傾向がありますが、皮膚症状や筋力の回復には時間がかかります。焦らずに継続的な治療と経過観察が大切です。

クッシング症候群と診断された犬の日常管理と長期予後

クッシング症候群と診断された愛犬との生活において、日常管理は治療の成功に大きく関わります。また、この疾患の予後を理解し、長期的な視点で愛犬をケアすることが重要です。

日常生活の管理ポイント

  1. 適切な投薬管理
    • 処方された薬は獣医師の指示通りに必ず継続して与えましょう。
    • 投薬のタイミングや量を勝手に変更せず、何か異変を感じたら必ず獣医師に相談してください。
    • お薬手帳などを活用し、投薬状況を記録しておくと管理がしやすくなります。
  2. 食事管理
    • 高品質のドッグフードを適切な量で与え、人間の食べ物や市販のおやつは避けましょう。
    • コルチゾール過剰により代謝異常が起きやすいため、バランスの取れた食事が特に重要です。
    • 食欲が亢進していることが多いので、過食による肥満防止に注意してください。
    • 少量を頻回に分けて与えることで、消化器系への負担を軽減できます。
  3. 水分管理
    • 常に新鮮な水を十分に用意しておきましょう。
    • 多飲症状がある間は、水を制限せず、必要なだけ飲ませてください。
    • 治療により症状が改善するまでは、排尿の機会を増やす工夫が必要です。
  4. 運動管理
    • 筋力低下が見られる場合は、無理のない範囲で適度な運動を心がけましょう。
    • 短時間の散歩を複数回に分けるなど、愛犬の体力に合わせた運動計画を立てるとよいでしょう。
    • 階段の上り下りや高い所への飛び乗りなど、過度な負担がかからないよう環境を整えましょう。
  5. 皮膚ケア
    • 皮膚が薄くなっているため、擦り傷や切り傷ができやすくなっています。環境整備に気を配りましょう。
    • 定期的なブラッシングで被毛の健康を保ち、皮膚の状態を確認する習慣をつけましょう。
    • 石灰化などの皮膚症状がある場合は、獣医師の指示に従った特別なケアが必要です。

定期検診の重要性

クッシング症候群は継続的な管理が必要な疾患です。治療開始後も定期的な検査を受けることで、薬の効果や副作用を適切にモニタリングできます。一般的には、治療開始初期は頻繁に、状態が安定してきたら3〜6ヶ月に一度程度の検診が推奨されます。

検診では、身体検査、血液検査(肝機能や腎機能、電解質バランス、コルチゾールレベルなど)、必要に応じて超音波検査などが行われます。これらの検査結果に基づいて、薬の用量調整や治療方針の見直しが行われることがあります。

予後と寿命への影響

クッシング症候群の予後は、原因や治療開始時の状態、合併症の有無などによって異なります。

  • 下垂体腫瘍による場合:適切な治療により症状をコントロールできれば、多くの犬は良好な生活を送ることができます。腫瘍が小さく、投薬によるコントロールが良好であれば、正常に近い寿命を全うできる可能性があります。ただし、腫瘍が大きく神経症状を伴う場合は、予後が不良となることもあります。
  • 副腎腫瘍による場合:良性腫瘍で完全に切除できれば、予後は良好です。悪性腫瘍や他臓器への転移がある場合は、予後が厳しくなることがあります。
  • 医原性の場合:原因となるステロイド薬を適切に減量・中止できれば、症状は改善し予後は良好です。

重要なのは、クッシング症候群は「完治させる」というよりも「上手に付き合っていく」疾患であるという考え方です。適切な治療と管理により、多くの犬は良好な生活の質を維持することができます。実際に、以前は「太るだけの病気」と考えられていたクッシング症候群ですが、適切な治療を行うことで高齢になっても元気に過ごせる犬が増えているという報告もあります。

まとめ

クッシング症候群は、早期発見と適切な治療が非常に重要な疾患です。症状に気づいたら速やかに獣医師に相談し、診断を受けることをお勧めします。また、治療開始後も定期的な通院と家庭での適切なケアによって、愛犬の生活の質を高く維持することが可能です。愛犬との時間を大切に、クッシング症候群と上手に付き合っていきましょう。